散った桜は何処へいく ~失った愛に復活はあるのか~

mizuno sei

文字の大きさ
10 / 28

10 すれ違う思い

しおりを挟む
 《真由香視点》

 優士郎は、いつもの桜の木にもたれて待っていた。
「お待たせえ┅┅」
 真由香は少し息を切らせながら、優士郎だけに見せる笑顔を向けた。
(あれ、いつもと雰囲気違う┅┅何だろう?)
 真由香は、急に胸がどきどきし始めて、両手で胸を押さえた。

「ごめん、急に呼び出して┅┅」
「そんなの┅┅いつものことだし┅┅」
 毎度のことだが、素直にうれしいとは言わず、意地悪な返しをしてしまう。
「そうだな┅┅」
「な、何よ。変だよ、今夜は┅┅」
 優士郎は何かを言い出すのをためらっているように見えた。
(紫龍のこと?ううん、そんなはずない。紫龍のことは話しているし┅┅やっぱり、別れ話┅┅まさか、紫龍に犯されたこと┅┅ばれたの?┅┅)
 真由香の胸は今にも張り裂けそうだった。

 だが、普通の恋人同士だったら、とっくに別れを告げられて当然のことを、自分はやっているのだ。優士郎だから、ここまで自分を許し、変わらぬ愛で包んでくれたのだ。
 真由香はこみ上げてくる涙を必死にこらえながら、優士郎からの言葉を待った。

「きのう、お母さんから電話があって┅┅ロゼで会って話をした┅┅」
「┅┅お母さんと?┅┅」
 優士郎は小さく頷いて、真由香に背を向けるように二三歩歩き出す。真由香はしおれた花のようにうなだれながら、その後ろからついて行く。

「僕はね┅┅前に言ったとおり、今は三千万というお金を持ってない。だから、春に卒業したら働いて、一日でも早く借金を返せるように頑張ろうと思っている┅┅二人で頑張れば、何年かかっても、辛くはない。でも┅┅」
 真由香の目からは、もう涙があふれ出て頬を流れ落ちていた。

「┅┅僕が君を愛しているくらいに、君があの男を愛しているのだったら、僕はもうあの男から、君の心を奪い返すことはできない┅┅」

 自分の母親が、優士郎に何を話したのかは分からない。しかし、真由香が紫龍と肉体関係を持ったことが優士郎の知る所となったのは間違いない。
 〝たとえ体は奪われても、心はあなたのものだ〟とは、女の勝手な言い分なのだろう。真由香にとっては一番大切な真実だが、優士郎からすれば、真由香は自分を裏切った酷い女だ。
 〝三年間、何があっても頑張るから、わたしを捨てないで┅┅〟
 喉まで出かかった言葉を、真由香は結局言い出せなかった。

 優士郎は、三メートルほど離れた先で真由香を振り返り、しばらく彼女を見つめていた。真由香からの言葉、あるいはすがりついてくる行動を待っていたのかもしれない。
 しかし、その時の真由香は、優士郎のことを最優先に考えなければと思っていた。優士郎の将来にとって最善は┅┅自分と別れて、もっと彼にふさわしい女性と結ばれることだ。
(うそ、うそつき真由香、そんなの耐えられない┅┅そんな女、現れたら、切り刻んで殺してやる┅┅嫌だ┅┅嫌だよ┅┅優君と別れるなんて、嫌だよ┅┅)
 真由香の心は血の涙を流していたが、理性は優士郎にとっての最善を優先した。
 何も答えず、何も行動しない真由香に、優士郎はゆっくり背を向けて歩み去って行った。
 それが、優士郎と会った最後の日になった。
 
 約束の三年は、もう、優士郎を失った真由香にとってはどうでもよかった。紫龍の子を身籠もったと知った日から、真由香の人生は意味を失い、人形のように、ただ言われるがままに、紫龍の妻になった。娘の優衣を出産し、豪邸に住んで、何の不自由もない暮らし。腸に持病を持つ母親も、専門の科がある大きな病院に入院させることができた。他の女性からすれば、羨望の的のシンデレラガールだろう。

 時間が悲しみを忘れさせてくれる、そう思っていた。しかし、今でも時々、ふと夜中に目が覚めて、隣のベッドで眠る娘の優衣を発作的に殺したくなる。そして、自分の体もナイフでズタズタに切り裂きたくなる。時とともに、悲しみは消えずに心の奥底に沈殿し、腐って異臭と毒気を放ち始めるかのようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

処理中です...