水神の琴

三枝七星

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鱗の竪琴

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 海辺の教会の神官が使う竪琴がある。
 この海には人魚がいて、それは神でもあった。守り神でもあり、背けば災いをもたらす祟り神でもある。
 ただ、この人魚の神は人間からたいそうほしがったものがあった。
 竪琴での演奏である。
 遠い昔、この土地に人間たちが町を作ろうとした時のこと、人魚が海から現れた。それは神を名乗り、町を作ることに難色を示したが、流れ着いた人の一人が持っていた竪琴で演奏を奉納すると、神はたいそう喜び、町作りの許可を出した。以来、この町は一年に一度お祭りを開き、神官が演奏を奉納する。そうやって、この町は神の祟りから守られてきていた。

 人魚の神はその日陸の近くまでやってくる。岩場の上で神官が演奏すると、今年の奉納の証として、自分の鱗を一枚渡すのだ。その鱗は竪琴に貼り付けられる。楽器は、今ではすっかり、鱗に覆われていた。古い物から割れたりするので、鱗があぶれることはない。
 神の鱗を張った竪琴であるから、その内それ自体が神性を帯び始めた。月の光を浴びると、弦が淡く光るようになったのだ。月の満ち欠けと海の満ち引きは関連があると言われており、恐らく、海の力を得た竪琴は、月の光に反応するようになったのだろう、と言われている。

 お祭りがある月夜の晩、神官が月光の元で人魚に捧げる曲を奏でると、弦は淡く光り、音はまるで転がる真珠の粒のようにぽろぽろとこぼれて海へ落ちていった。

 まるで涙のようだった、とある代の神官は語った。
 とても美しく、神官もまた泣いてしまったのだという。

 人魚の鱗を貼り付けて、月夜に光る竪琴は、今もその町で使われている。
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