韋駄天の運び屋

すのもとまさお

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説得

説得 おじさん視点2(過去)

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出発時にいざこざがあったが、それ以降は意外にも何事もなく事が進んだ。

俺たちは今、雪山で見つけた洞窟で吹雪が病むのを待っている。

登り始めた時はあんなに晴れていたのが、嘘のようだ。
俺たち運び屋はこうしたトラブルにも対応出来るよう、準備は欠かさない。

今回の吹雪も当然、想定内の事だった。
だから、全員慌てることなく、落ち着いている。

「早く止まねえかなぁ・・・」
「おい、運び屋共!暇つぶしに何か面白いことやれよ!」
「・・・・・」

こいつらはそれがさも当然のように思ってるようだがな・・・


「っけ!!無視かよ!!」
「まぁまぁ落ち着けって。こう身動き出来なくて、イライラするのは分かるが、ここまで何も起きなかったことが不思議なくらいじゃねえか」
「・・・まぁ・・そうだな・・・まさか、この雪山でモンスターにも出くわさないのは驚いたが・・・」
「まぁ、モンスターもこの吹雪の中じゃ動けねえだろ。もうしばらく安全ってことだな」

・・・・だと良いがな・・・

しかし、いくら待てども吹雪は止むことは無く、ついには辺りは暗くなってきてしまった。

仕方なく、俺たちはこの洞窟で一夜を過ごすことになった。

俺は準備していた非常食を全員に別けて与えていた。


「・・・っけ!しけてんな!」
「ったくよー!運び屋なら、もうちょいマシな飯用意しろよな!!」

全く・・・
この雪山に登るのに、どれだけ準備が必要なのか、分からないのか・・・?

荷物には限界がある。
そのため、持っていけるものには限りがあるというのに・・・

文句を垂らしながらも、俺たちは非常食で簡単な食事をし、眠りに付いた。

朝には吹雪が止んでいると良いのだが・・・・


・・・なんだか・・・花の香りがしてくるな・・・
意外と雪花月は近くにあるのか…?

そう考えていると段々と眠くなってき、俺は意識が無くなっていった。











・・・・・・・・・

・・・・・ろ!!!

・・・??
なんだ・・・?


・・・や・・ろ・・・ら!!

・・・妻の声・・・?

「離せ!!何考えてるんだい!!やめろってば!!!」

!!!??

俺は妻が大声を出しているのに気付き、飛び起きた。
妻を探すと、剣士が妻にのしかかっていた・・!!


「はぁはぁ・・・良いじゃねえかよ・・・いつもむさ苦しい男どもと一緒で溜まってんだよ・・相手してくれよ・・・」
「いい加減にしな!!こっちは旦那がいるんだ!!あんたなんか相手にしてられるか!!」

妻は抵抗しているが、男相手に力勝負じゃ勝てないのは明白だ。

「やめろ!!!」
俺は大声をあげ、やつを突き飛ばした。
その後、妻を抱きかかえた。

「いってえな!!運び屋の分際で生意気なんだよ!!」
そう叫ぶと剣士は今度は俺に突っかかってきた。

「ぐぁ!!」
俺は奴に吹き飛ばされ、馬乗りになってしまった。

「ははは!!やっぱ運び屋だな!!体力も無けりゃ、力もねえ!!」
そう言いながら、剣士は顔面に殴ってきた。
やっぱり前衛職とただの運び屋じゃ力の差は歴然で、俺はただ必死に顔を殴られないよう、抵抗するだけだった。

「いい加減にしな!!」
次の瞬間、剣士の顔に妻の蹴りが当たった。

予想してなかったようで、剣士に思いっきり入ってしまった。

「く、くそ!!」
剣士は顔を抑えながら、洞窟の出口に逃げていった。

「あんた!!大丈夫かい!!?」
「ああ・・・大丈夫だ・・・」

殴られ続けたわけだが、致命傷を避けるため、必死にガードをしていたので、幸い大した怪我はしなかった。

いや、それよりも・・

「あのバカ・・・洞窟の外に出やがったのか・・・」
外はまだ吹雪いている・・・
そんな所に一人で出ようもんならただの自殺行為だ・・

「襲い掛かろうとした猿だけど、だからと言って、死なすわけにはいかないからね・・・」

俺たちは洞窟の外へ向かった。

「ちくしょう!!追ってくるのかよ!!」
剣士は俺たちを見つけると、逃げようとした。

「待て!!まだ吹雪いてて外は危険だ!すぐに戻れ!!」
「うるせえ!!」
剣士は俺たちから逃げようと、外に出てしまった。
あのバカ!!!

「俺が追うから、ここで待ってるんだ!」
俺は妻にそう言うと、剣士の元へ向かった。

「待て!!外は危険だ!!早く戻れ!!」

追うと言っても、この猛吹雪と雪で埋まっている地面ではお互い、上手い事前に進めない。
とはいえ、ここで放っておくことも出来なかった。

俺はかすかに見える剣士の影を必死に追いかけた。

が、数メートルほど歩いたら、突然、大きな影が剣士の前に立ちはだかった。
「な、なんだありゃ・・・?」

あまりの大きさに驚いていた。

「グゥオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

突然獣の声があたりを轟始めた。

それと同時に、吹雪が突然やんだ。

視界が一気に広くなって見えたのは・・・・


巨体で全身が白い毛で覆われた、数々の人的被害をもたらしている・・・
英雄譚にも度々見かけ、その恐ろしさは有名。
そして、見たら必ず逃げろと警告が出されるほど危険なA級モンスター、ビッグフットだった。

「グゥオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

剣士は腰を抜かしてしまい、動けなくなってしまった。
それほどヤツの危険性は有名だからだ。


なぜ、危険視されているのか?
奴らの食性が原因だ。

奴らは

全ての生き物を食べる。

それは人間も含めて。


「グフゥウ…フゥ…」
ビッグフットはゆっくり剣士に近づいていた。

「くくく来るなぁあ!!!来ないでくれえええ!!!」

剣士は必死に後ずさりをしているが、腰が抜けているうえに、積雪でほとんど後退出来ていない。

「あ・・・あ・・・」
俺自身もあまりの恐怖に体が動かない。

剣士の抵抗も虚しく、ビッグフットは両手で剣士の頭を掴んだ。

「ぎゃああああああああああああああああ!!!!!!」

そしてビッグフットは
剣士の頭を丸かじりした。

「ああ!!!・・・・・・・・」

ごり!!がり!!
バリボリバリ!!

頭蓋骨がかみ砕かれる音が周辺に響いた。
ビッグフットは剣士だった身体を割いて食べ続けている。

ぐちゃあああ!!
バリッ!!バリッ!

俺はあまりに恐ろしい光景に絶句していた。
ただ立ち尽くしていた。
声も出せずにいた。

「お、おい!!!」

その声で俺は正気に戻った。

後ろを振り向くと戦士と付与士、治癒士が洞窟の入り口にいた。

「た、助けてくれ!!」
俺は3人に言った。
いくらクズ野郎たちでも戦闘能力は俺なんかと比べ物にならない。
こいつを倒せなくてもここから逃げることくらいなら出来ると思ってた。

だが、俺はその期待を裏切られた・・・

「お、おい!!逃げるぞ!!あいつに気を取られているうちに!!」
「あああ!!」
「ま、ままま待ってくれよおおおおお!!!」


嘘だろ…
奴らは俺を置いて逃げていった。

確かに奴らのレベルじゃ太刀打ち出来ない程のモンスターだが、まさか置いていかれるなんて・・・

「あ・・・・あ・・・」

ビッグフットは俺に近づいてきた。
俺を食うために。
俺は恐怖と絶望に再び襲われた・・・
俺は・・・・死ぬのか・・・・?


気付けば、ビッグフットは俺の目の前に来ていた。
俺は食われると思った。

だ、だめだ・・・
もう終わりだ・・・

・・・・・・?

なんだ・・・?
ビッグフットは俺を目前にして動かなくなった。
俺は、恐怖しながらもゆっくり顔を見上げた。

そこにはさっきまでの表情が打って変わって、何かに怯えている様子になっていた。

「なんだ・・・?」
妻が何かしたのか??

ビッグフットはゆっくりと後ろを振り返った。

その時、俺も見えた。

そこにはこの雪山に似つかわしくない、老人がいた。



「お主・・・人を食ろうたな?」
老人はそう言った。
ビッグフットは老人を見てさらに震えあがっていた。

「人を食ろうたら、悪いが流石に見逃すことは出来んな・・・」
老人は腰に下げた剣に手を掛けた。

その瞬間

「ガァアアアアアアアアアアアア!!!」

ビッグフットは老人を殴ろうとした。

いくら恐怖に怯えているとはいえ、ビッグフットの攻撃を受けたらタダじゃすまない!

俺は思わず目を背けた。


だが、聞こえたのはビッグフットの断末魔だった。
「グアアアアアアアアアアアアア!!!」

俺は何が起こったのか分からなかった。
あのビッグフットが手を抑えて叫び声をあげていた。

ドサ

何かが落ちた音が聞こえた。
その音に目をやると、巨大な腕が落ちていた。

よく見ると、ビッグフットの腕だ。

「う、嘘だろ・・・」
俺は思わずそう漏らした。

老人は殴られる瞬間、ビッグフットの腕を切り落とした。
そうとしか考えられなかった。


「お主は人を喰ろうたんじゃ・・・悪いが、腕一本で済ますつもりは無いぞ」
老人はさらに追い打ちを掛けようとした。

ビッグフットは腕を抑えながら、逃げた。
俺たちの事なんて見もせずに全力で逃げた。

だが、それを追う、何かが俺と老人の間を縫った。

それを目で追った瞬間、ビッグフットは体中から血を吹き出した。

ビッグフットは叫ぶこともなく、その場に倒れた。
ビッグフットのそばにはこれまた老人、それも女性がいた。


「全く・・・詰めが甘いねあんたは」
老婆は老人に声をかけていた。

「ほほほ、お前を信頼しているからな」
「ったく・・・その減らず口はいつになったら治るんだ・・・」
「ほほほほ」

この雪山で、ビッグフットを倒したとは思えない呑気な会話が聞こえた。

「は・・・はは・・・俺は助かったのか・・・?」
そう安堵した時、俺は意識を失った。
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