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「俺はお前を犯人とは思っていない」

「そうですか」

返事をする俺を富澤はじっと見つめた。

「随分と腹が据わってんな」

「そうでもないです」

富澤はフンっと鼻で笑いながら続ける。

「九重の犯人は、俺が追う事件の犯人と同一人物だと思っている」

牛乳パックにストローを刺すと、プスっと音がした。

「ただ、たまたまお前が現場にいたとも思えない。お前には、あそこにいた理由があるはずだ」

俺があそこにいた理由。何だっけ?
そんな理由はあるのだろうか。

「僕は、いつ退院出来るんですか?」

居心地の悪さを感じ、富澤に質問した。

「それだけ食えるなら、退院はすぐだ。だがな」

グッと背伸びをしながら富澤は付け加える。

「お前には、しばらく俺がついて行く」

「え?」

「心配すんな。護衛みたいなもんさ」

「護衛って・・・」

言いかけた時、病室の扉が開いた。

「はじめちゃん!大丈夫なの?!」

「ちょ、誰や?!」

ロングヘアを振り乱し室内に入ってくると、俺の頬を両手で包んだ。

「怪我してない?頭痛かったりする?」

大きな瞳が俺をロックオンする。甘い懐かしい香りがする。

あちこち撫で回されながら、俺は答えた。

「姉です」

「お、お姉さんかよ」

苦笑いを浮かべる富澤をよそに、ひとしきり確認ができたのか、姉は手を離し、はぁとため息をついた。  

「良かったぁ、無事で」

何故だろう。そう言われてもピンとこない。

細いデニムにジャケットを羽織った色白の姉は、クルリと富澤の方を向く。

「刑事さん、とりあえず2人で話をしてもいいですか?」

「な、なんで?」

「ドラマチックな家族の再会ですよ?まずは話したいじゃないですか」

言いながら姉は富澤に近づいてゆくと、反射的に彼は立ち上がる。

「ね、5分でいいから」

言葉の雰囲気とは裏腹に、姉の背中には鬼気迫る空気が漂っていた。

「まぁ、5分だけなら」

半ば押し出されるように富澤は外に出された。

姉は富澤が座っていた丸椅子に腰を下ろすと、足を組んだ。

「で、どうすんの?」

先程の優しい眼差しはなく、限りなく冷たい視線で俺を見据える。

「何を?どうしたらいい?って、また質問してくる訳?もう勘弁してよ」

「ど、どういうこと?」

辛うじて出てきた言葉が宙をフラフラと舞う。

「マジでさ、あんたが死ねばよかったんじゃない?」

言い放つ姉に呆然とした。

「後5日、時間は無いよ。その少なく脳みそで考えな」

「5日って?」

死ねばいいのに、と姉は吐き捨てるように言うと、扉の方へと向かう。

「あんたなら出来ると思ったんだけどなあ」

言いながら扉を開くと、そのまま去って行くと、交代するように富澤が戻ってきた。

「お姉さんは、もういいのか?」

「・・・はい」

何となくだが、俺にはやらなきゃいけないことがあるような気がするが、それが何かは分からない。

「あの、富澤さん」

「ん?」

「何か思い出すかもしれないので九重さんの事とか、聞いてもいいですか?」

「あ、ああ。まあ」

手がかりになりそうに感じ、俺は富澤の話に耳を傾けた。








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