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本編
22-2
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(…騎士様がもし、私が魔女のケツエンだって知って、憎いってなったら…)
憎いという感情は、ヴィヴィアンヌにはわからない。わからないが、ヴィヴィアンヌの曾祖母は憎悪によって、話に聞いていた人物像からかけ離れ、人を殺そうとしていた。
(…騎士様も、私を殺したいって、なるのかな。それなら…)
ヴィヴィアンヌはそれが怖くてたまらなかった。そうなる前に、知られる前に別れるほうがいいとすら思っている。
(…でも、騎士様ともう会えなくなっちゃう)
オリヴィエが森から出ていけば、再びヴィヴィアンヌは一人になる。そして、彼は二度と戻ってこないだろう。
ここは人々が恐れる魔女の森、長く住んでいるヴィヴィアンヌでも、下手をすれば死んでしまう可能性がある程に恐ろしい場所だ。特別な目的がなければ、誰もここに立ち入ることはない。オリヴィエは命をかけてでも果たしたい目的があったからやってきたのであって、当然、ここでの目的をなくした彼が再びやってくることなど有り得ないとヴィヴィアンヌは考えていた。
(やだな…帰らないで欲しいな)
それは願っても叶わぬ願いだと、ヴィヴィアンヌは理解している。オリヴィエは呪いを解く方法が見つかっても見つからなくても、大切な方の元へと戻るだろう。
(…やだよ…騎士様と一緒にいたいよ…)
オリヴィエはいつか、ヴィヴィアンヌが魔女の血縁だと知り、彼女を憎み、殺そうとするかもしれない。それでも、ヴィヴィアンヌは願わずにはいられなかった。
(…ついていっちゃ、だめかな)
狂王が討たれた今、魔法使いが捕まり、殺されるようなことはないはずだ。いつか魔女の血縁だと知られて殺されることになったとしても、それまででも良いから一緒にいたい。ヴィヴィアンヌはオリヴィエを知らなかった頃に、一人きりの頃には戻れそうになかった。戻るには、様々な感情を知りすぎてしまった。
「…だめ、だよね」
ヴィヴィアンヌは木の実を採り終え、裾をはらって立ち上がる。他の食料を探しに行こうと一歩足を進めたところで、耳に微かなある音が聞こえて立ち止まった。
「あれ、今の…」
ヴィヴィアンヌはその音が聞こえた方向に目を向け、首を傾げてそちらに足を進めた。暫く歩いた後、ヴィヴィアンヌはしゃがみ込み、木の陰に隠れて低い崖の下を覗き込む。
(あれ…?)
そこには在るはずのない人の姿が二つ見えて、ヴィヴィアンヌは目を見開く。彼女の耳に届いたのは、人の話し声だった。
(人だ!)
濃褐色の長い髪と翠の目をした女性と、白に近い金色の髪と金糸雀色の目をした男性が一人ずつ。ヴィヴィアンヌは人生で二度目の他人の姿を見て、どきどきと胸を高鳴らせた。
憎いという感情は、ヴィヴィアンヌにはわからない。わからないが、ヴィヴィアンヌの曾祖母は憎悪によって、話に聞いていた人物像からかけ離れ、人を殺そうとしていた。
(…騎士様も、私を殺したいって、なるのかな。それなら…)
ヴィヴィアンヌはそれが怖くてたまらなかった。そうなる前に、知られる前に別れるほうがいいとすら思っている。
(…でも、騎士様ともう会えなくなっちゃう)
オリヴィエが森から出ていけば、再びヴィヴィアンヌは一人になる。そして、彼は二度と戻ってこないだろう。
ここは人々が恐れる魔女の森、長く住んでいるヴィヴィアンヌでも、下手をすれば死んでしまう可能性がある程に恐ろしい場所だ。特別な目的がなければ、誰もここに立ち入ることはない。オリヴィエは命をかけてでも果たしたい目的があったからやってきたのであって、当然、ここでの目的をなくした彼が再びやってくることなど有り得ないとヴィヴィアンヌは考えていた。
(やだな…帰らないで欲しいな)
それは願っても叶わぬ願いだと、ヴィヴィアンヌは理解している。オリヴィエは呪いを解く方法が見つかっても見つからなくても、大切な方の元へと戻るだろう。
(…やだよ…騎士様と一緒にいたいよ…)
オリヴィエはいつか、ヴィヴィアンヌが魔女の血縁だと知り、彼女を憎み、殺そうとするかもしれない。それでも、ヴィヴィアンヌは願わずにはいられなかった。
(…ついていっちゃ、だめかな)
狂王が討たれた今、魔法使いが捕まり、殺されるようなことはないはずだ。いつか魔女の血縁だと知られて殺されることになったとしても、それまででも良いから一緒にいたい。ヴィヴィアンヌはオリヴィエを知らなかった頃に、一人きりの頃には戻れそうになかった。戻るには、様々な感情を知りすぎてしまった。
「…だめ、だよね」
ヴィヴィアンヌは木の実を採り終え、裾をはらって立ち上がる。他の食料を探しに行こうと一歩足を進めたところで、耳に微かなある音が聞こえて立ち止まった。
「あれ、今の…」
ヴィヴィアンヌはその音が聞こえた方向に目を向け、首を傾げてそちらに足を進めた。暫く歩いた後、ヴィヴィアンヌはしゃがみ込み、木の陰に隠れて低い崖の下を覗き込む。
(あれ…?)
そこには在るはずのない人の姿が二つ見えて、ヴィヴィアンヌは目を見開く。彼女の耳に届いたのは、人の話し声だった。
(人だ!)
濃褐色の長い髪と翠の目をした女性と、白に近い金色の髪と金糸雀色の目をした男性が一人ずつ。ヴィヴィアンヌは人生で二度目の他人の姿を見て、どきどきと胸を高鳴らせた。
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