魔王殺しのフリーター、覚醒し〝闇の力〟で現代ダンジョンを蹂躙す

七弦

文字の大きさ
31 / 54

30 通りすがりのフリーター

しおりを挟む
 〝転移門の洞穴〟に座り込み、弔木とむらぎは考えを整理していた。
 約束の時間から大分過ぎたが、やはり大泉は来なかった。
 考えられる可能性はいくつかある。

 可能性、その一。
 普通にアイテムを持ち逃げされた。
 確かに大泉は金に困ってそうだった。
 二人だけの秘密、と言いつつも急に金が必要になって弔木とむらぎが手に入れたアイテム全てを盗んだ可能性はある。
 長期的には損な選択ではあるが、考えられなくもない。

 可能性、その二。
 大泉はダンジョン内でトラブルに遭遇。
 アイテムは他の探索者が〝転移門の洞穴〟にやってきて、回収していった。

 このパターンは、少し厄介だ。
 外の探索者にこのダンジョンが見つかっていないことを、祈るばかりだ。
 ついでに大泉の無事も。

「つっても、調べて見なければ何も分からないなあ。やっぱり、やるしかないな。〝闇人形〟!」

 弔木とむらぎがイメージを練り上げ、魔なる詞を唱える。
 すると地面から闇の魔力が溢れだし、無数の小さな人形が生み出された。
 闇の魔力による斥候だ。

 人形達は剣と盾、鎧を装備している。
 その数はおよそ数百。
 全てが弔木とむらぎの目となり、耳となる。

「行け! このダンジョンを隈無くまなく探してこい!」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 ダンジョンの中層。
 そこは異世界では〝牢獄墓所〟と呼ばれる場所だった。
 死してなお牢獄に囚われ続けるアンデッド達が、探索者を待ち構えるエリアだ。

 その不気味な場所に、下品な叫び声が響いていた。
「邪竜召喚! いいぞ! なぎ払え!! ヒャッハー! このアイテム、最高で最強じゃねえか!!」
 強力なアイテムを手に入れた千葉は、子どものようにはしゃいでいた。

 千葉が手にしているのは〝邪竜の爪〟と言う魔導具アイテムだった。
 わずかな魔力の消費で、数十秒の間ドラゴンを召喚することができる。
 吐き出す火炎は恐ろしく強く、大抵の魔物は炎に触れただけで灰と化す。

 レベルの低い探索者には、最高のアイテムだった。
 〝牢獄墓所〟は焼け野原となり、もはや敵対するモンスターは存在しない。
 新しいオモチャを一通り楽しんだ後、千葉が叫んだ。

「おい成田! 大泉は吐いたか!?」
「ま、まだです……」
「とろくせえな! 早く吐かせろ! 二人まとめて焼き殺すぞ!?」
「で、ですがこのおっさん、全然口を割らなくて……オラっ! 早く教えろよ!」

 牢獄に鈍い音が響いた。
 成田は躊躇なく大泉を殴る。
 しかし大泉は何一つ情報を吐かなかった。
 それどころか、成田を挑発するようなセリフを吐く。

「はあ……はあ……闇金クソ野郎が……! 金に目が眩んで人の会社に入りやがって!」
「その闇金から借りてたのは、テメーだろうが! 良いから吐けよ! 他にもアイテムを稼ぐ場所、あんだろ!? 早く言えよ! そうすりゃお前の借金、全部チャラなんだぞ!?」

 大泉が持っていたアイテムは、余りにも異常だった。
 サイクロプスを倒すだけでは到底手に入らないグレードの魔石がゴロゴロと転がっていた。
 千葉が使っている〝邪竜の爪〟も、大泉から奪ったものだった。
 まとめて売れば、数千万は下らないだろう。

「ちっ……仕方ねえなあ。成田! どいてろ!」
 業を煮やした千葉が檻の中に入った。

「なあ大泉さん。あのアイテム、あんたみたいな低レベルの探索者が取れるやつじゃねえよな? 吐け。どうやって手に入れた」
「知らない。俺は何もやっていない」
 千葉は鼻で嗤い、大泉の顔を蹴った。
「ブハッ!」
 ポタポタ、と牢獄に血が垂れる。

「ここであんたを殺しちまってもいいんだぞ。あのアイテムだけでも十分な金になる」
「うるせえ。……れるもんならやってみろ!」

 簡単な話だった。
 大泉が弔木とむらぎのことを話せば、それで終わりなのだから。

 大泉は話してしまおうと、何度も思った。
 だが話せなかった。
 大泉を信じてアイテムを預けた青年――弔木とむらぎを裏切りたくはなかった。
 闇金で半グレのガキどもが儲けるのも、許せなかった。
 そんな奴らに金を借りた自分ですらも、許せなかった。
 つまるところ大泉は、ひたすらに不器用な男だった。

「八王子市、南桜木町20番、15」
 千葉は何の脈絡もなく、ある住所を口にした。
「……!! て、てめえ……」
 大泉の顔が、一気に青ざめる。
 それは大泉の自宅の住所だった。

 攻撃が効いたと見るや、千葉はさらに続ける。
「都立清城高校、二年B組。大泉結香」
 千葉の口から、最も知られてはならない情報が告げられた。
「お、お前……! 何で知ってる! どうするつもりだ!! 娘は関係ないだろ!」
「嫌だなあ社長。関係ないことはないだろう? 債務者の娘だ。俺達だって、請求する権利くらいあるだろ。結香ちゃんも、俺が貸した金で飯くらい食っただろう?」

「や、やめろ。止めてくれ……娘は関係ない!」
「ギャハハハハハッ! 情けねえな! 娘の名前を出した途端にそれかよ? でももう遅いんだよ!
 方針を変えた。お前は殺す。お前のアイテムは全部俺が貰う。結香ちゃんには借金を返して貰う。なあに、女子高生なら簡単に稼げるだろうよ」

「ち、ちくしょう……! 地獄に、落ちろ……!」
「さっさと吐いとけば、こうならずに済んだのになあ! 舐めたマネしやがる罰だよ! ……邪竜召喚!」
 千葉が竜の爪を掲げると虚空から巨大な竜が出現した。
「焼き殺せ!」

『GUAAAAA――――!!!!』
 地を震わす咆哮。
 竜の口からマグマのようなものが溢れる。
 暗い牢獄は、焼けるような光に照らされる。

 大泉はもう、何も考えることができなかった。
 ただ一言、娘の結香に謝りたかった。
 こんな父親で本当にすまないと。

「ギャハハハハハ!!!! 死ねぁあああああ!!!!」


「あれ?」
 気づけば大泉は、牢獄の外に出ていた。
 顔を上げる。
 大泉の目の前に、青年の背中があった。
 弔木とむらぎだ。

「ええと……大泉さん。話は色々と聞いていたよ」
「あ…………ああああ…………」
「もう心配はいらない。後は俺に任せてくれ」
 大泉は混乱する。
 直前まで牢獄の中にいたのに、なぜか解放されているのだ。
 そして大泉がいた牢獄は、炎でドロドロに溶けていた。
 自分は、あの場所で死んでいたはずなのだ。

「誰だ、てめえ!」
 千葉の怒号がダンジョンに響いた。
 しかし弔木とむらぎは冷静に応える。
「通りすがりのフリーターだ。ちょっと散歩をしようと思ってな」

「だったら消えろ! お前には関係ない!」
「……怖いなあ。そんなに威嚇しないでくれよ。俺はただのザコなんだ。魔力量ゼロ、レベルゼロのな。探索者証だって持ってない」
「だったら、ザコはザコらしく引っ込んどけ!」
「そうも行かないだろう。だってお前らは……俺を怒らせたんだからな」


 〝解除〟


 弔木とむらぎが小さく呟いた。
 その声は、かろうじて大泉に聞こえた。

 そして大泉の全身に悪寒が走った。
 恐ろしく邪悪な何かが、大泉の近くに出現する。
 体がガタガタと震える。怖い。

 邪悪、不吉、凶兆、呪い、穢れ。
 頭をよぎるのは、そんな言葉ばかり。
 違う。そうじゃない。

 近くにいる。
 その何かは、探すまでもなかった。
 弔木とむらぎだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~

夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。 「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。 だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに! サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!

処理中です...