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嫌悪の魔神

はらちがいの弟

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 僕が荒木家から解放されたのは、それからすぐの事。

 解放前に、寒太の母から『寒太が見つかったら連絡してね。報酬は出すから』と言われて名刺を渡されたが、報酬はその場で断った。

 もちろん、報酬はいらないが連絡はするとは言ってある。

 しかし、寒太には釘を刺しておく必要があるな。

 迂闊な事を、樒に話さないようにと……

 報酬の事を聞いたら樒の奴、僕に黙って報酬を受け取りに行きそうだし……

「寒太」

 バイク置き場向かって歩く途中、釘を刺そうと思って、後ろから着いてくる寒太の方をふり向く。

 う! なんだ!? 寒太から漂う不快感が、さっきより強くなっている。

 悪霊化がさらに進行しているようだ。

 顔の表情もなんか暗い。

 家にいる時に何かあったのか?

「寒太……どうした? 気分でも悪いのか?」
「あのさあ……さっき俺、嘘をついたんだけど……」
「嘘?」
「ママと樫原の話、本当は聞いちゃったんだ」
「あの二人、何を言っていたんだ?」

 様子から見て、二人は寒太に聞かせたくない事を話していたようだったが……

「その前に聞きたいのだけどさ……『はらちがい』って何?」

 腹違い? なんで急にそんな事を聞くのだろう?

「俺は一人っ子だと思っていたのだけど……なんか、俺には、はらちがいの弟がいるみたいな事を言っていたんだ」
「え?」
「なあ、はらちがいの弟ってなんだ? 普通の弟と何が違うんだ?」
「簡単に言うと、お父さんは同じだけどお母さんが違う弟という事だよ」
「つまり……今のママとパパの間にできた子供がいるって事?」
「まあ、状況から考えてそういう事だろうな。で、その弟は今どこにいるのか聞いたのか?」
「ママの実家にいるって」
「寒太は、ママの実家には行ったことはないのか?」
「ないよ。なんでも、俺と会わせると弟に悪い影響があるから、実家なんかに連れていかないとか言っていた」

 そうだろうな。

「それと、弟にパパの後を継がせたいから、俺を後継ぎに相応ふさわしくない人間に育てたとか言っていたけど……俺……後継ぎに相応しくないのか?」

 だんだんと見えてきたぞ。あの継母の魂胆が……

「寒太。おまえの本当のお母さんは、お前を生んですぐに出て行ったと言ったな。じゃあ今のお母さんは、いつやってきたんだ?」
「んん? 俺が小学校に入る時かな」

 もしかして、寒太がこんな嫌われ者になったのは、教育の失敗なんかではなく、継母によって、寒太は嫌われ者になるように教育されていたのではないのか?

 その目的は、寒太を社長に相応しくない人間に育て上げて、実の子を後継ぎにするため。

 そんな話を聞かされて、寒太の悪霊化はますます進行してしまったんだな。

 このまま完全に悪霊化してしまったら……

 そうか! アラティの目的が分かったぞ。

 奴の目的は、寒太の肉体なんかじゃない!

 寒太の霊を悪霊化する事だ。
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