上 下
247 / 253
嫌悪の魔神

タトウ

しおりを挟む
「奥様。ちょっとこちらへ……」

 ん? 樫原の声の方へ目を向けると、隣室の扉を開き手招きしている。

 なんだろう?

「なんなの? 樫原?」

 婦人が立ち上がり隣室へ向かう。

 僕も立ち上がると……

「君は来なくていい! そこで待っていろ! しっ! しっ!」

 人を犬みたいに……!

 寒太も着いていくが、樫原には見えないのでどうにもできないのだろうな。
 
 扉が閉じて、僕だけが部屋に取り残される。

 寒太の霊が扉をすり抜けて出てきたのは、数分後。

「樫原の奴が、おまえの事をインチキ霊能者とか言っていたぞ」
「なに!?」
「おまえ、インチキなのか?」
「あのなあ、もし僕がインチキだったら、君の姿も見えないし、声も聞こえないのだが……」
「そういう事じゃなくてさ、なんか霊能力を利用して大金を巻き上げる奴がいるって話だぞ。おまえが急に俺ん家に来たいとか言い出したのは、ママから金を巻き上げるつもりだったのか?」

 う! そういう目で見られていたのか。

 つくづく、樒が一緒にいなくて良かった。

「寒太……そういう霊能者がいるのは事実だ。だが、僕はそんな事はしない」

 隣室の扉が、突然開いたのはその時。

 婦人がツカツカと僕の方へ歩み寄る。

 なんか、ややこしくなりそう。

「ぼうや。寒太は今どこにいるの?」
「ですから、寒太君は行方不明で……」
「肉体ではなくて、霊体の方よ」

 僕は寒太のいる方を指さした。

「ここにいますよ」

 不意に樫原が詰め寄ってきた。

「本当だろうな? 我々に霊が見えないのをいいことに、出鱈目を言っているのではないのだろうな?」
「困ったなあ。どうしたら、信じてもらえますか? 樫原さん」
「なに!? どうして俺の名を?」
「ここにいる寒太君に聞いたのですが、信じてもらえましたか?」
「いや、それぐらいは調べれば分かるはずだ」
「しょうがないな」

 僕は寒太の方を向く。

「寒太しか知らない樫原さんの秘密とかないか?」
「んん……? あるけど」
「どんな?」
「背中の刺青タトウ

 刺青タトウ!? やはり樫原ってスジの人なのか?

 やだな、関わりたくないな。

「ええっと、樫原さんの背中に刺青タトウがあると寒太君が言っていますが」

 樫原は、顔にギョっとした表情を浮かべた。

 あ! ひょっとして秘密にしていたのかな?

「すみません。刺青タトウの事は知られたくなかったのですか?」
「いや……別にかまわんが……」
「坊や。樫原に刺青タトウがある事ぐらい知っているわよ」
「そうだったのですか?」
「ていうか、刺青タトウが、家の警備員になる採用条件なのだから」
「え!? 刺青タトウが採用条件? 普通逆では?」
「警備員に刺青タトウがあると、いろいろと便利なのよ」

 どう便利なのか、あえて追求はしないでおこう。

 ん? 寒太がニヤニヤしているが……

「あのさあ、この事ママは知らないのだけど、樫原の刺青タトウ、実は身体に絵を描いただけなんだよ。だから風呂に入ったら、落ちちゃうんだ」

 なるほど。

「樫原さん、ちょっと耳を貸して」
「なにか?」
「あなたの刺青タトウ、実はボディペインティングだと寒太君が言っていますが、そうなのですか?」

 樫原の表情が一気に強ばったところを見ると、事実のようだな。

「わかった。君がインチキではないことは認める。だから、そのことは……」
「はいはい、黙っていますよ」

 樫原は婦人の方を振り向く。

「奥様。この子がインチキというのは、私の邪推だったようです」
「そう」

 そこで婦人は僕の方を向く。

「坊や。話を戻すけど、寒太は今この部屋にいるのね?」
「ええ」

 婦人は隣室の扉を指さす。

「私と樫原が、隣で話をしていた時、話を盗み聞きしに行かなかったかしら?」
「行きましたよ。僕の事を、インチキと言っていましたね」
「う! それは私ではないわ。樫原よ。それより、他に何か聞かなかった?」

 僕は寒太の方を向いて言った。

「他に何か聞いたか?」

 寒太は首を横にふる。

「聞いていないそうです。寒太はすぐに部屋から出てきたし……」
「そう。良かった」

 どうやら、寒太が部屋から出た後で何かよからぬ話をしていたみたいだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

始業式で大胆なパンチラを披露する同級生

サドラ
大衆娯楽
今日から高校二年生!…なのだが、「僕」の視界に新しいクラスメイト、「石田さん」の美し過ぎる太ももが入ってきて…

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

処理中です...