上 下
221 / 848
第八章

分身の術

しおりを挟む
 ロボットスーツを三時間活動させられるだけの電力を蓄えた超電導物質に、プラズマが当たればどうなるか?
 奴は、そこを理解していなかったようだ。
 外部電源にプラズマが直撃したのを確認すると、僕は真っ先に爆風を凌げそうな物陰を探して飛び込んだ。
 外部電源が大爆発したのは、その直後。
 
 残時間 二百七十秒

 いけない。ロボットスーツを省電力モードに……これで、しばらく電力は持つ。

 物陰に隠れたまま、ドローンからの映像を見ていると、エラと三人の騎兵も爆風を受けて落馬していた。
 そのまま死ぬか重症を負ってくれないかと期待したが、それは甘かったようだ。
 二人の騎兵は動けなくなったが、エラはしっかりとした足取りで立ち上がった。
 大した怪我を負った様子もない。
 
 ん? 生き残っていた一人の騎兵が、エラの背後から忍び寄っていた。

 フリントロック銃をエラに向ける。

 なるほど、これが後ろ弾という奴だな。

 エラへの日頃の恨みを晴らす絶好のチャンスというわけだ。

 今、撃てば目撃者はいない。エラはさっきの爆発で死んだと報告すれば済むと考えての行動だろ。

 日頃から部下を苛めて、恨みを買っていたエラには相応しい最後だな。

 いやダメだ。あの騎兵、手が震えている。

 あれじゃあ、弾は当たらない。

 案の定、弾はエラを掠めただけだった。

 当然、怒り狂ったエラの電撃を浴びせられ騎兵は倒される。

 だが、暴行はそれで治まらなかった。
 
 エラは騎兵の鎧を剥ぎ取り、直接殴り付けた。

 鎧で分からなかったけど、あの騎兵、ミーチャと同じ年頃の少年。

 顔も女の子のように可愛い。

 あいつの趣味か。

 泣き叫ぶ少年に、エラはさらに暴行を加えた。

 こ……これは酷すぎる。

「止めろ! エラ・アランスキー! お前の相手は、この僕だ!」

 エラは、僕の方をふり向いた。

 その手は、泣き叫ぶ少年の髪を掴んでいる。

「なんだ。誰かと思えばカイト キタムラじゃないか。生きていたのか」
「その子から手を離せ」
「それは出来ぬな。こいつは、上官に銃は向けた。反逆罪だ」
「それはお前が、その子を苛めるからだろう」
「笑止。軍隊で部下を苛めるのは、上司の義務ではないか」
「下らない冗談に、付き合う気はない。今すぐ、その子を離せ。さもなくば……」
「さもなくば、どうする? 聞くところによると君は、女は殺さないそうだな。私は女だが、どうするのだ?」
「それには、若干訂正がある。僕が殺さないのは、可愛くて女だ。お前はそれに、該当しない」

 途端にエラは怒りの形相を浮かべた。

「き……貴様……今『若い』のところを、強調したな!」
「それは、気のせいだ」
「黙れ!」

 エラは僕に向かってプラズマボールを放つ。

 しかし、プラズマボールがぶつかる寸前にロボットスーツは消滅した。

 すぐに別の場所に、ロボットスーツが出現する。

「どこを見ている。僕はここだ」
「おのれ。何時の間に」

 エラは、再びプラズマボールを放った。

 しかし、今度もロボットスーツはプラズマボールがぶつかる寸前に消滅。

「どこを狙っている」「ここだここだ」

 二体のロボットスーツが現れた。

「こ……これは?」

 どちらを攻撃すべきか、エラが迷っている間にロボットスーツは十体に増えた。

「そうか! これは高速で動き回って、残像を作る分身の術だな」

 んなわけない。

 時代劇愛好者らしい思い違いだが、本物の僕は、さっきから物陰に隠れている。
 さっきから、エラが戦っているのは、蛇型ドローンが投影している立体映像だ。
 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

ゲームで第二の人生を!~最強?チート?ユニークスキル無双で【最強の相棒】と一緒にのんびりまったりハチャメチャライフ!?~

俊郎
SF
『カスタムパートナーオンライン』。それは、唯一無二の相棒を自分好みにカスタマイズしていく、発表時点で大いに期待が寄せられた最新VRMMOだった。 が、リリース直前に運営会社は倒産。ゲームは秘密裏に、とある研究機関へ譲渡された。 現実世界に嫌気がさした松永雅夫はこのゲームを利用した実験へ誘われ、第二の人生を歩むべく参加を決めた。 しかし、雅夫の相棒は予期しないものになった。 相棒になった謎の物体にタマと名付け、第二の人生を開始した雅夫を待っていたのは、怒涛のようなユニークスキル無双。 チートとしか言えないような相乗効果を生み出すユニークスキルのお陰でステータスは異常な数値を突破して、スキルの倍率もおかしなことに。 強くなれば将来は安泰だと、困惑しながらも楽しくまったり暮らしていくお話。 この作品は小説家になろう様、ツギクル様、ノベルアップ様でも公開しています。 大体1話2000~3000字くらいでぼちぼち更新していきます。 初めてのVRMMOものなので応援よろしくお願いします。 基本コメディです。 あまり難しく考えずお読みください。 Twitterです。 更新情報等呟くと思います。良ければフォロー等宜しくお願いします。 https://twitter.com/shiroutotoshiro?s=09

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...