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第十六章

スーホの通信機

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 時計を見ると、矢部の分身体が話を始めてから一時間ほどが経過していた。

 よく疲れないものだなって、分身体だから当然か。

 しかし、聞いているこっちが疲れてきた。

「一休みしよう。Pちゃん、みんなにお茶を入れてくれ」
「かしこまりました」

 それにしても、矢部の話はどこまで本当なのだ?

 正直、監視者任務とか信じ難い話だが……

「芽衣ちゃん。君は知っていたのか? 監視者任務について」

 芽衣ちゃんは首を横に振る。

「そういう噂はありました。ただ、誰も本気にはしていませんでしたが」

 では、橋本晶は……

「隊長。私より階級の高い森田さんが知らないことを、私が知っているわけないじゃないですか」

 確かに……

「ただ私がリトル東京を離れるときに、森田指令に聞いたのですが……」

 何だろう?

「防衛隊への正式入隊の意思確認のためだけに、本人をリトル東京へ連れてくる必要があるのかと」

 それは僕も気になっていた。そのぐらいリモートで済ませられないのかと……

「すると、森田指令はどうしても口頭で伝えなければならない事があるとおっしゃっていました」

 口頭で伝えなければならない事?

 それが監視者任務なのか?

 しかし、そうだとするとこの発令所にいる全員は、知ってはならない機密事項を知ってしまった事になるな。

「カイトさん」

 ミールの方を向いた。

「監視者かどうかは分かりませんが、あたしも師匠から聞いた事があります。タウリ族は、あたし達を守りに来た人達だって」
「ミールは知っていたのか?」
「ええ。ただ、師匠はこの事はけっして人には話すなと言われていました。だから、あたしも今までこの事は黙っていたのですが……」
「今、僕達に喋ってもいいのかい?」
「ええ。喋ってはならないのは、ナーモ族が他力本願にならないためだと聞いていたので。ここにいるのは、すべて地球の人達だし、今矢部さんが言っていた監視者任務がこの事と関係がありそうだと思いましたので……」

 ナーモ族側にもそういう事情があるのなら、監視者任務は事実かもしれないな。

 まあ、リトル東京へ行けばはっきりする事だ。

 それよりもう一つ疑問なのは……

 僕は矢部の分身体の方へ向き直った。

「事情はだいたい分かったけど、スーホ自身はなぜ僕の前に姿を現さないのだい?」
「自分が生存している事を、レム神に知られたくないからですよ」
「なぜ?」
「レム神には、仲間を捕らえられているのですよ。以前に仲間を人質にされて降伏を迫られた事があったのです。その時にスーホは、乗っていた乗り物を自爆させて死を装ったのですよ」
「つまり、あんたと同じか。レム神には死んだと思わせておきたいと……」
「そうです。そのために、どこかに潜んでいる接続者に、姿を見せる危険は避けたいのですよ」

 なるほど。

「分かった。それでスーホは、僕にどうしてほしいのだ?」

 矢部の分身体は、腰に付けていたウエストポーチを外した。

 中から機械のような物を取り出すが……

「ミールさんに、お聞きしたいのですが……」
「何でしょう? ヤベさん」
「俺はあなたに作られた分身体です。俺を作るとき、この通信機も一緒にできたのですが……」

 通信機なのか。おそらくタウリ族の機械だな。

「これは通信機として機能しますか?」
「ああ。それは無理ですね。以前にカイトさんの分身体を作りましたが、その時に分身体と一緒にできた通信機は、通信機としての機能はありませんでした」

 そういえば、そんな事もあったような……

「なるほど。ではこれは、通信機の模型に過ぎませんね」

 矢部は通信機を持った手を僕の方に向けた。

「北村さん。俺のオリジナルが、これと同じ物を持っているはずです。これを使えば水中にいるスーホと連絡が取れる。あなたには、これを持ってリトル東京へ行って欲しいのですよ」
「分かった。だが、その前にこの船の中で、僕がその通信機を使ってスーホと話をしてもいいかい?」
「それはかまいません」
「では、早速そうしよう」

 僕たちは発令所を出て、矢部を監禁している部屋へと向かった。
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