798 / 850
第十六章
来てくれだなんて、誰も頼んでいない!
しおりを挟む
正直言うと、矢部の持ってきた通信機を作動させて本当に大丈夫なのか不安があった。
異星人のメカだ。迂闊に動かすと、何が起こるか分かったものじゃない。
リトル東京で作動させたら、町が吹っ飛んだり、全住民が洗脳されたりという事態だってありうる。
まあ、だからと言って《海龍》で作動させたら僕らがそうなるわけだが……
「矢部さん。入るよ」
矢部を監禁しているのは、二畳ほどの広さの部屋。
通路から声をかけると、直ぐに返事があった。
「ああ! ちょっと待って下さい」
着替え中だったのか?
「え? このままでいい。しかし……」
ん? 矢部は何を言っているんだ? この中には矢部しかいないはずなのに、誰かと会話しているみたいだが……
「分かりました。北村さん。扉を開いて下さい」
言われなくてもそうするが……
「ただし、何を見ても驚かないように」
何を驚くというのだ?
僕は扉の横についているテンキーに、十桁の暗証番号を打ち込んだ。
鉄の扉が横にずれていく。
「矢部さん。あんたスーホから、通信機を預かっているそうだな。それを……うわ!」
なんだ!? こいつは?
そこにいたのは馬だった。
いや、馬じゃない。馬の胴体に人間の上半身が付いている生物……タウリ族か!
驚くなというのはこの事か。
しかし、こんな狭い部屋によく入りこめたものだな?
いや、不思議でもなんでもない。
これは立体映像だ。
「矢部さん。通信機を作動させたのか?」
「すみませんね。やる事なくて退屈だったので、スーホさんと話をしていたのですが。で、北村さんが来たので通信を切ろうとしたら、挨拶をしたいのでそのままにしてくれと」
監禁中の奴が外部と連絡するなんてとんでもない話だが、まあ手間が省けた事だしいいか。
しかし、タウリ族はでかいな。
通路側から見ると、首から上は壁に隠れていて顔が見えない。
「ああ、ちょっと待って下さい。立体映像の大きさを調整しますから」
映像が小さくなり、大型犬ぐらいの大きさになった。
スーホの全体像が現れる。
こうしてみると、馬みたいな胴体だが上半身は人間。
耳だけ馬耳になっているのかと思ったが、耳は人間と同じだった。
栗色の髪は七三に分けており、黒縁メガネ? の向こうにある瞳の色は黒。
顔はアジア系に近い。
ジャケットのような服を纏っているので、体毛はどうなっているのか分からないが、おそらく髪と同じ色なのだろう。
「スーホ。久しぶりじゃのう」
ジジイが僕の前に出しゃばってきた。
「クラではないか。君もこの船にいたのか?」
クラ? スーホは、ジジイの事をそう呼んでいたのか。
「ワシは優秀じゃからな。どこでも、必要とされるのじゃ。こいつらにも『是非に』と頼まれて来たのじゃ」
ゴラア! ジジイ! 来てくれだなんて、誰も頼んでいない! 密航してきたくせに……
「ところで、北村氏に会いたいのだが、そこにいる地球人男性がそうかね?」
まあ、この中には僕とジジイしか男性はいないが……
「おお、そうじゃ。このクソ生意気な若造が、そうじゃ」
ジジイ……いい度胸だ……後で覚えていろ。
「君か。君のことは矢部から聞いている」
どういうふうに聞いたのか気になるが……
「スーホさんですね。お目にかかれて光栄です。僕がここの責任者である北村海斗です」
とっさにこんな事を言えるとは、僕もコミュ力上がってきたな。
「こちらこそ。私の事は知っているのかね?」
「スーホさんの事は、こちらの矢部さんとこちらの……」
は! ジジイのフルネームなんだったっけ?
しかし、ここでジジイとか呼ぶのは体裁悪いし……
「……こちらの博士から聞いております」
うん。博士なら問題ないな。
「そうか。聞いていたか」
「事情も伺っております。ただ、我々が監視者として送り込まれたのかは、まだ確認が取れていません」
「そうか。君にも分からないのか」
「ええ。それとスーホさんの頼みは、お仲間の救出でしたね?」
「そうだ」
「僕の一存では何も決められませんが、この事はリトル東京の方へ報告させていただきます」
「助かる。聞いての通り、私自身の存在はレム神から隠しておきたいのでここから動けない。その通信機をリトル東京へ持って行ってほしい」
それからいくつかの打ち合わせを済ませ、翌日僕は艦隊を離れる準備に入った。
異星人のメカだ。迂闊に動かすと、何が起こるか分かったものじゃない。
リトル東京で作動させたら、町が吹っ飛んだり、全住民が洗脳されたりという事態だってありうる。
まあ、だからと言って《海龍》で作動させたら僕らがそうなるわけだが……
「矢部さん。入るよ」
矢部を監禁しているのは、二畳ほどの広さの部屋。
通路から声をかけると、直ぐに返事があった。
「ああ! ちょっと待って下さい」
着替え中だったのか?
「え? このままでいい。しかし……」
ん? 矢部は何を言っているんだ? この中には矢部しかいないはずなのに、誰かと会話しているみたいだが……
「分かりました。北村さん。扉を開いて下さい」
言われなくてもそうするが……
「ただし、何を見ても驚かないように」
何を驚くというのだ?
僕は扉の横についているテンキーに、十桁の暗証番号を打ち込んだ。
鉄の扉が横にずれていく。
「矢部さん。あんたスーホから、通信機を預かっているそうだな。それを……うわ!」
なんだ!? こいつは?
そこにいたのは馬だった。
いや、馬じゃない。馬の胴体に人間の上半身が付いている生物……タウリ族か!
驚くなというのはこの事か。
しかし、こんな狭い部屋によく入りこめたものだな?
いや、不思議でもなんでもない。
これは立体映像だ。
「矢部さん。通信機を作動させたのか?」
「すみませんね。やる事なくて退屈だったので、スーホさんと話をしていたのですが。で、北村さんが来たので通信を切ろうとしたら、挨拶をしたいのでそのままにしてくれと」
監禁中の奴が外部と連絡するなんてとんでもない話だが、まあ手間が省けた事だしいいか。
しかし、タウリ族はでかいな。
通路側から見ると、首から上は壁に隠れていて顔が見えない。
「ああ、ちょっと待って下さい。立体映像の大きさを調整しますから」
映像が小さくなり、大型犬ぐらいの大きさになった。
スーホの全体像が現れる。
こうしてみると、馬みたいな胴体だが上半身は人間。
耳だけ馬耳になっているのかと思ったが、耳は人間と同じだった。
栗色の髪は七三に分けており、黒縁メガネ? の向こうにある瞳の色は黒。
顔はアジア系に近い。
ジャケットのような服を纏っているので、体毛はどうなっているのか分からないが、おそらく髪と同じ色なのだろう。
「スーホ。久しぶりじゃのう」
ジジイが僕の前に出しゃばってきた。
「クラではないか。君もこの船にいたのか?」
クラ? スーホは、ジジイの事をそう呼んでいたのか。
「ワシは優秀じゃからな。どこでも、必要とされるのじゃ。こいつらにも『是非に』と頼まれて来たのじゃ」
ゴラア! ジジイ! 来てくれだなんて、誰も頼んでいない! 密航してきたくせに……
「ところで、北村氏に会いたいのだが、そこにいる地球人男性がそうかね?」
まあ、この中には僕とジジイしか男性はいないが……
「おお、そうじゃ。このクソ生意気な若造が、そうじゃ」
ジジイ……いい度胸だ……後で覚えていろ。
「君か。君のことは矢部から聞いている」
どういうふうに聞いたのか気になるが……
「スーホさんですね。お目にかかれて光栄です。僕がここの責任者である北村海斗です」
とっさにこんな事を言えるとは、僕もコミュ力上がってきたな。
「こちらこそ。私の事は知っているのかね?」
「スーホさんの事は、こちらの矢部さんとこちらの……」
は! ジジイのフルネームなんだったっけ?
しかし、ここでジジイとか呼ぶのは体裁悪いし……
「……こちらの博士から聞いております」
うん。博士なら問題ないな。
「そうか。聞いていたか」
「事情も伺っております。ただ、我々が監視者として送り込まれたのかは、まだ確認が取れていません」
「そうか。君にも分からないのか」
「ええ。それとスーホさんの頼みは、お仲間の救出でしたね?」
「そうだ」
「僕の一存では何も決められませんが、この事はリトル東京の方へ報告させていただきます」
「助かる。聞いての通り、私自身の存在はレム神から隠しておきたいのでここから動けない。その通信機をリトル東京へ持って行ってほしい」
それからいくつかの打ち合わせを済ませ、翌日僕は艦隊を離れる準備に入った。
0
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話
六剣
恋愛
社会人の鳳健吾(おおとりけんご)と高校生の鮫島凛香(さめじまりんか)はアパートのお隣同士だった。
兄貴気質であるケンゴはシングルマザーで常に働きに出ているリンカの母親に代わってよく彼女の面倒を見ていた。
リンカが中学生になった頃、ケンゴは海外に転勤してしまい、三年の月日が流れる。
三年ぶりに日本のアパートに戻って来たケンゴに対してリンカは、
「なんだ。帰ってきたんだ」
と、嫌悪な様子で接するのだった。
おっさん、異世界でスローライフはじめます 〜猫耳少女とふしぎな毎日〜
桃源 華
ファンタジー
50代のサラリーマンおっさんが異世界に転生し、少年の姿で新たな人生を歩む。転生先で、猫耳の獣人・ミュリと共にスパイス商人として活躍。マーケティングスキルと過去の経験を駆使して、王宮での料理対決や街の発展に挑み、仲間たちとの絆を深めながら成長していくファンタジー冒険譚。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる