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第十六章
死んだはずの男
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菊花を《水龍》へ行かせるようにPちゃんに指令を出してから、僕は橋本晶の方に目を向けた。
まだマルガリータ姫との膠着状態が続いている。
そんなマルガリータ姫に向かって、イリーナは叫ぶ。
「姫。これ以上は無理です。撤退してください」
撤退する気なのか? しかし、次のドローンを用意していたが……
「今から、最後のドローンを出撃させます。それが時間を稼いでいる間に撤退を」
どうやら、ドローンを使い切ったようだな。
今、地下施設で用意しているドローンは、撤退のための時間稼ぎか。
ちょうどその時、ワームホールからドローンが出てくるのをレーダーで確認した。
ゼロと抗戦状態になる。
さらに《水龍》《海龍》も砲撃を開始した。
ドローンが全滅するのは時間の問題だな。このまま撤退してくれるなら、それに越したことはないが……
「馬鹿者! この状況で撤退などできるか!」
「姫! 意地を張っている場合ですか!?」
「意地を張っているのではない。今は逃げたくても、逃げられんのじゃ!」
鎖鎌の鎖は風神丸に絡み付き、鎌は雷神丸を受け止めていて両者とも身動き取れない状態。
今、少しでも隙を見せた方が殺られる。
橋本晶に、戦闘中止命令を出すか?
いや、このタイミングでそんな事をしたら、彼女が負傷しかねない。
「ならば、スパイダーを自動操縦に切り替えて、姫だけ脱出してください」
「そんな事ができるのか?」
「できます。数十秒ならそれで持つでしょう。その間にミーチャ君を連れてワームホールに逃げ込むのです」
「わかった。妾はミーチャさえ取り返せたらそれでいい」
いかん! ミーチャが連れて行かれる。
「ただ、少しだけお待ちください。カルル様を回収するためのワームホールを開きます」
「仕方ない。ワームホールが開くまで、妾がこやつを押さえている」
「では姫。そのサムライ女の相手はお願いします」
そう言ってイリーナは、ミーチャを押さえつける。
「さあ、ミーチャ君。今度はカルル様の方を見てね」
「やだ! やだ!」
「言うこと聞きなさい!」
「痛い! やめて!」
次の瞬間、スパイダーのハッチが開き、マルガリータ姫が飛び出してきた。
「馬鹿者!」
司令塔上に飛び降りると同時に、イリーナの頭に肘打ちを食らわせる。
「ぐほ! 姫! 何をなさいます?」
「おまえこそ、可愛いミーチャに何をしている!? 嫌がっているではないか!」
「いえ、私はただ、ミーチャ君にワームホールを開いてもらおうと……」
「だったら、もっと優しく扱え! 痛がっているだろ!」
「いえ、私は優しくやっているつもりですが……」
「おまえが優しくやっているつもりでも、ミーチャが嫌がっているのだ!」
「しかし……」
「しかしもへったくりもない! おまえは、ミーチャにワームホールを開いてほしいだけだろ。だったら、妾から優しく頼んでやる」
「はあ。それでは……」
イリーナは、肘打ちを食らっても放さなかったミーチャを手放した。
「ミーチャ! 縛られているのだな。可哀想に。今、解いてやるぞ」
マルガリータ姫は短剣を抜いて、ミーチャを縛っていたロープを切った。
「さあ、ミーチャ。もう大丈夫だぞ。妾が来たからには」
だが、マルガリータ姫を見るミーチャの目は怯えていた。
「さあ、ミーチャ。妾と帰ろう。そうだ! その前に頼みがあったな。ミーチャや、ワームホールを開いてくれないか」
ミーチャは無言で後ずさる。その目には涙が浮かんでいた。
「どうした? ミーチャ。妾の顔を忘れたのか?」
ミーチャは無言で首を横にふる。
「そうか。では妾と一緒に宮殿に帰ろう」
「いやです」
「ミーチャ……何を言っている?」
「僕は、もうあそこには戻りません」
「何を言っている? 楽しかった宮殿での生活を忘れたのか?」
「楽しくなんか、無かった」
「え?」
「もう、嫌です!」
「ミーチャ!」
「うわああ!」
ミーチャは突然叫び声を上げ、マルガリータ姫に背を向けて駆けだした。
手すりを乗り越え飛び出す。
そのままミーチャは海面に落ちていく。
いけない! 助けないと!
橋本晶の方を見ると、ようやく無人になったスパイダーとの勝負がついたところだった。
雷神丸に一刀両断されたスパイダーの残骸が、甲板上に転がっている。
「橋本君! 戦闘は中止だ。ミーチャが海に落ちた」
「なんですって!」
「救出する! 手伝ってくれ」
「承知!」
チラッと司令塔に目を向けると、イリーナ逹はマルガリータ姫を押さえつけてワームホールへ撤収しているところだった。
「妾を放せ! ミーチャが溺れてしまう!」
主砲の方に目を向けると、海に飛び込もうとしているキラを、ミール達が止めていた。
「やめなさい! キラ! あなたまで溺れるわ!」
「放してください! ミーチャが死んでしまう!」
よし、ミール。このまま押さえていてくれ。このままだと二重遭難だ。
ここは九十九式三機で水中に入ってミーチャを探すのがいい。
しかし、闇雲に飛び込んでも、水中にいるミーチャを見つけるのは難しそうだな。
Pちゃんに連絡して、《海龍》のソナーで探してもらうことにした。
『ご主人様! 何者かが、水中から急速上昇してきます』
何?
その直後、水面を割って何者かが水中から飛び出してきた。
水しぶきが収まり、姿を現したそれは人の形をしている。
そして、その腕にはミーチャが抱き抱えられていた。
助けてくれたのか? しかし、こいつは……
クリームイエローの九十九式機動服!
死んだはずの矢部?
まだマルガリータ姫との膠着状態が続いている。
そんなマルガリータ姫に向かって、イリーナは叫ぶ。
「姫。これ以上は無理です。撤退してください」
撤退する気なのか? しかし、次のドローンを用意していたが……
「今から、最後のドローンを出撃させます。それが時間を稼いでいる間に撤退を」
どうやら、ドローンを使い切ったようだな。
今、地下施設で用意しているドローンは、撤退のための時間稼ぎか。
ちょうどその時、ワームホールからドローンが出てくるのをレーダーで確認した。
ゼロと抗戦状態になる。
さらに《水龍》《海龍》も砲撃を開始した。
ドローンが全滅するのは時間の問題だな。このまま撤退してくれるなら、それに越したことはないが……
「馬鹿者! この状況で撤退などできるか!」
「姫! 意地を張っている場合ですか!?」
「意地を張っているのではない。今は逃げたくても、逃げられんのじゃ!」
鎖鎌の鎖は風神丸に絡み付き、鎌は雷神丸を受け止めていて両者とも身動き取れない状態。
今、少しでも隙を見せた方が殺られる。
橋本晶に、戦闘中止命令を出すか?
いや、このタイミングでそんな事をしたら、彼女が負傷しかねない。
「ならば、スパイダーを自動操縦に切り替えて、姫だけ脱出してください」
「そんな事ができるのか?」
「できます。数十秒ならそれで持つでしょう。その間にミーチャ君を連れてワームホールに逃げ込むのです」
「わかった。妾はミーチャさえ取り返せたらそれでいい」
いかん! ミーチャが連れて行かれる。
「ただ、少しだけお待ちください。カルル様を回収するためのワームホールを開きます」
「仕方ない。ワームホールが開くまで、妾がこやつを押さえている」
「では姫。そのサムライ女の相手はお願いします」
そう言ってイリーナは、ミーチャを押さえつける。
「さあ、ミーチャ君。今度はカルル様の方を見てね」
「やだ! やだ!」
「言うこと聞きなさい!」
「痛い! やめて!」
次の瞬間、スパイダーのハッチが開き、マルガリータ姫が飛び出してきた。
「馬鹿者!」
司令塔上に飛び降りると同時に、イリーナの頭に肘打ちを食らわせる。
「ぐほ! 姫! 何をなさいます?」
「おまえこそ、可愛いミーチャに何をしている!? 嫌がっているではないか!」
「いえ、私はただ、ミーチャ君にワームホールを開いてもらおうと……」
「だったら、もっと優しく扱え! 痛がっているだろ!」
「いえ、私は優しくやっているつもりですが……」
「おまえが優しくやっているつもりでも、ミーチャが嫌がっているのだ!」
「しかし……」
「しかしもへったくりもない! おまえは、ミーチャにワームホールを開いてほしいだけだろ。だったら、妾から優しく頼んでやる」
「はあ。それでは……」
イリーナは、肘打ちを食らっても放さなかったミーチャを手放した。
「ミーチャ! 縛られているのだな。可哀想に。今、解いてやるぞ」
マルガリータ姫は短剣を抜いて、ミーチャを縛っていたロープを切った。
「さあ、ミーチャ。もう大丈夫だぞ。妾が来たからには」
だが、マルガリータ姫を見るミーチャの目は怯えていた。
「さあ、ミーチャ。妾と帰ろう。そうだ! その前に頼みがあったな。ミーチャや、ワームホールを開いてくれないか」
ミーチャは無言で後ずさる。その目には涙が浮かんでいた。
「どうした? ミーチャ。妾の顔を忘れたのか?」
ミーチャは無言で首を横にふる。
「そうか。では妾と一緒に宮殿に帰ろう」
「いやです」
「ミーチャ……何を言っている?」
「僕は、もうあそこには戻りません」
「何を言っている? 楽しかった宮殿での生活を忘れたのか?」
「楽しくなんか、無かった」
「え?」
「もう、嫌です!」
「ミーチャ!」
「うわああ!」
ミーチャは突然叫び声を上げ、マルガリータ姫に背を向けて駆けだした。
手すりを乗り越え飛び出す。
そのままミーチャは海面に落ちていく。
いけない! 助けないと!
橋本晶の方を見ると、ようやく無人になったスパイダーとの勝負がついたところだった。
雷神丸に一刀両断されたスパイダーの残骸が、甲板上に転がっている。
「橋本君! 戦闘は中止だ。ミーチャが海に落ちた」
「なんですって!」
「救出する! 手伝ってくれ」
「承知!」
チラッと司令塔に目を向けると、イリーナ逹はマルガリータ姫を押さえつけてワームホールへ撤収しているところだった。
「妾を放せ! ミーチャが溺れてしまう!」
主砲の方に目を向けると、海に飛び込もうとしているキラを、ミール達が止めていた。
「やめなさい! キラ! あなたまで溺れるわ!」
「放してください! ミーチャが死んでしまう!」
よし、ミール。このまま押さえていてくれ。このままだと二重遭難だ。
ここは九十九式三機で水中に入ってミーチャを探すのがいい。
しかし、闇雲に飛び込んでも、水中にいるミーチャを見つけるのは難しそうだな。
Pちゃんに連絡して、《海龍》のソナーで探してもらうことにした。
『ご主人様! 何者かが、水中から急速上昇してきます』
何?
その直後、水面を割って何者かが水中から飛び出してきた。
水しぶきが収まり、姿を現したそれは人の形をしている。
そして、その腕にはミーチャが抱き抱えられていた。
助けてくれたのか? しかし、こいつは……
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