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第十六章

同じ手に、二度もかかるとは……

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 コンテナの上に現れたワームホールを見て、カルルはニヤリと笑みを浮かべた。

「確かにスパイダーの力では、このコンテナは壊せない。だが、おまえらの九九式ならどうだ?」

 もちろん、九九式機動服ロボットスーツの力ならコンテナを壊せるが……

「まさか?」

 橋本晶は、ワームホールに刀の切っ先を向けた。

「今から、このワームホールから、出てこようとしているのは?」
「古淵さ。今から古淵の九九式が、ワームホールから出てくる。だが、カ・モ・ミールと森田芽依は戦闘不能。海斗は充電中で、キラ・ガルキナは姫と戦闘中。今戦える者は、橋本晶、おまえしかいない。しかし、戦えるのか? おまえは、古淵に恩義があるのだろう」
「ぐ」
「どうだ。橋本晶。いくらレムの接続者になったとは言え、恩義ある古淵にやいばを向けられるのか?」
「ぐぬぬ」
「それともいざとなったら、ミク本人が式神を出して自らを守ると考えているのか? あいにくだな、式神対策も考えてある」

 銀色の九九式が、ワームホールから出てきたのはその時。

 カルルが九九式に向かって叫ぶ。

「古淵! ミクはそのコンテナの中だ。壁をぶち破って連れ出せ!」
「了解」

 古淵の九九式がコンテナの方を向く。

でよ! 式神!」

 どこからかミクの声が響いた。

 直後、古淵の九九式の前にミクの式神アクロが出現。

 しかし、アクロは出現したが、その場からまったく動こうとしない。

 よく見ると、古淵の九九式は銀色のボディに無数の五芒星模様が描かれていた。

 式神の弱点、五芒星ドーマンセーマンか。

 式神はこれを見ると、しばらく動けなくなる。

 カルルの言っていた式神対策とはこれのようだ。

「ブースト!」

 古淵は、ブーストパンチをコンテナに叩き込んだ。

「これは!? しまった!」

 どうやら気がついたようだ。だが、もう遅い。
 
 次の瞬間、古淵の機体はバラバラに吹っ飛んだ。

 爆発したのではない。

 安全機構が働き、装着者保護のために強制パージが行われたのだ。

 装着者である古淵も、甲板上に投げ出される。

「まさか。同じ手に、二度もかかるとは……」
「古淵! いったい何が……?」

 古淵には何が起きたのか分かったようだが、カルルはまだ理解できていないらしい。

 甲板上で起きあがった古淵は、カルルの方を向いて言った。

「カルル・エステスさん。騙されましたね。コンテナ内に、ミクさんはいません」

 コンテナはカルルから見て、主砲の陰になる場所に置いた。だから、陰になった部分で蓋でも開いて、そこからミクが入り込んだとカルルは思いこんでいた。

 というか、そう思わせるように仕組んだのだけどね。

 だが、実際にはコンテナの蓋は、《海龍》に着いた時から一度も開いてなどいない。

「そもそも、あなたはコンテナ内にミクさんが入っていく姿を、確認しているのですか?」

 古淵の問いに、カルルは首を横にふる。

「あちゃあ! ちゃんと確認しているものと思った私のミスですね」
「では、ミクはどこに?」

 甲板上に投げ捨てられているブルーシートが跳ね上がり、中からミクが姿を現す。

「じゃーん! あたしは、ここだよーん!」
「何!? では、コンテナの中にいたのは……?」

 カルルがそう言ったとき、コンテナの蓋が開いた。

 中にいたのは……

「わははははは! 古淵とやら。同じ手に二度も掛かるとは進歩がないな!」

 そう。コンテナ内には、エラ・アレンスキーが隠れていたのだ。

「ファースト エラさん。返す言葉もありませんね。山頂基地で、あなたの高周波磁場にやられたので警戒はしていたのですが……」

 最終的に、古淵がワームホールから出てくる事は僕も予想していた。

 せっかく出てくるのだから、山頂基地でやったように、エラの高周波磁場にひっかけるという罠にかけてみようと思い、エラの隠れたコンテナを芽依ちゃんに運んでもらったのだ。

 しかし、古淵がそう簡単に同じ手に引っかかるとは思えない。

 もし、芽依ちゃんがコンテナを《水龍》から運ぶ様子を古淵本人が見ていれば、こっちの思惑を見破っていただろう。

 しかし、うっかり者のカルルなら、コンテナ内にミクが隠れたと勘違いしそうだ。

 そして期待通り勘違いしたカルルは、ワームホールから出てきたばかりの古淵に、コンテナ内にミクがいると報告してくれた。

 それをまんまと信じてしまった古淵は、再びエラの高周波磁場に捕まってしまったというわけだ。
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