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第十六章
古いロケット砲
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ピロローン!
一瞬、小さなアラームが鳴り、バイザーにメッセージが表示された。
『充電量が、三十%を越えました。再起動可能です。再起動しますか?』
そんなの、再起動するに決まっている。
一刻も早く《海龍》に駆けつけたいのだから……
まあ、もうほとんど事態は終わっているけどね。
カルルも古淵もすでに無力化したし、残るはマルガリータ姫と、司令塔を占拠しているイリーナ達。
まだ、ワームホールから新手が出て来る心配があるが、紫雲からの情報によると今のところ地下施設に十機ほどの戦闘ドローンが集結しているだけ。
この程度ならなんとか……
「待ちなさい。北村君」
甲板から飛び立とうとした時、背後からアーニャに呼び止められる。
「なにか?」
「忘れ物よ。ワームホールを攻撃するなら、これがあった方がいいでしょ」
彼女が差し出したのは、ロケット砲。
「《水龍》にはプリンターが無いのに、なぜこんな物が?」
「《水龍》の倉庫に、何年も眠っていた武器よ」
「え? そんな物があったのですか?」
「あったことはあったけど、長年放置されていた武器だから、ちゃんと撃てるか心配だけどね。弾が出なかったらごめん! その時は、ショットガンとブーストパンチで戦って」
受け取ってみると、見覚えのあるタイプだった。
「これ、イワンと戦ったときに使ったタイプと似ていますね。使い方は分かりますが、この状況で劣化ウラン弾を使うのは……」
使用後の除染問題を考えると頭痛いし……
「大丈夫。弾は通常弾を込めておいたわ」
「それは助かります」
ありがたく使わせて頂こう。
「ところで、気になっていたのですが」
「なに?」
「なぜ、カルカは劣化ウラン弾を保有していたのですか?」
この惑星には、原子炉は存在しないのでウラン燃料の需要はない。それなのに、ウラン燃料を精製した後に出る劣化ウランを使った武器がある事を疑問に思っていた。
まさか劣化ウラン弾を作るためだけに、ウラン鉱石を採掘して精製したとも考えにくい。
それなら精製などしないで、ウラン弾を作ればいいわけだし。
確かに強靭な装甲に対して、劣化ウラン弾は有効だが、なくても困るほどの武器ではない。
それだけのために危険な放射性物質を扱う必要などないはず。
「その事ね。実はこれ、砲身はカルカの工場で作った物だけど、劣化ウランの砲弾は鹵獲兵器なのよ」
「鹵獲? つまり、元々帝国軍が使っていたと?」
「ええ。以前にカルカ軍が帝国軍の占領地域を奇襲して奪還した時に、帝国兵はすべての装備を置き去りにして逃げていった事があったわ。その中に、劣化ウラン弾があったのよ」
「しかし、帝国はなぜそんな物を保有していたのです? あれはプリンターでは、作れないのでは?」
「確かに、天竜号のプリンターは蒼鉛より重い元素の入ったカートリッジが無いので、劣化ウラン弾は作れない。でも、マトリョーシカ号には、もっと重い元素のカートリッジがあったのよ」
「知っています。プルトニウムカートリッジですね。アーニャさんが、マトリョーシカ号から逃げ出すときに持ち出したという」
「マトリョーシカ号には、プルトニウムの他に、ウラン235とウラン238のカートリッジもあったのよ」
「え?」
「帝国軍はそのカートリッジで、劣化ウラン弾を作ったの。実際、カルカの装甲車両が何台もそれでやられているわ」
なぜ、マトリョーシカ号にそんな物があったのか気になるが、今は詮索しないでおこう。
「そのロケット砲は、鹵獲した劣化ウラン弾を使用できるように作った物なの。でも、その後帝国はカートリッジが枯渇して、装甲車両を作れなくなったの。だから、このロケット砲も長年使う機会が無くて《水龍》の倉庫で眠っていたわ」
「とにかく、ありがたく使わせていただきます」
僕はロケット砲を担いで、《水龍》から飛び立った。
海面スレスレを飛びながら、通信機でミールを呼び出す。
「ミール。今からそっちへ向かう。状況を教えてくれ」
『カイトさん。カルルとコブチは薬で眠らせましたが、キラも分身体をやられてしまいました』
「分身体がやられた? どうやって?」
『マルガリータ姫の鎌に、憑代を貫かれて』
前回使っていた鎖鎌か。
チタニウム合金の憑代を破壊するとは、高周波ブレードの類かもしれないな。
『キラはもう憑代が残っていません。今は、ハシモトさんが戦ってくれているのですが、苦戦しています』
「橋本君が苦戦?」
『ええ。マルガリータ姫ってアホなのに、戦闘能力が無駄に高くて、ハシモトさんの刀と互角に渡り合っています』
「分かった。すぐに救援に向かう」
通信を切ると、《海龍》はもう目の前。
僕の目には、良い情報と悪い情報が同時に入る。
良い情報は、芽依ちゃんがネットから脱出した事。
悪い情報は、ワームホールから新手のドローン群が出てきた事。
一瞬、小さなアラームが鳴り、バイザーにメッセージが表示された。
『充電量が、三十%を越えました。再起動可能です。再起動しますか?』
そんなの、再起動するに決まっている。
一刻も早く《海龍》に駆けつけたいのだから……
まあ、もうほとんど事態は終わっているけどね。
カルルも古淵もすでに無力化したし、残るはマルガリータ姫と、司令塔を占拠しているイリーナ達。
まだ、ワームホールから新手が出て来る心配があるが、紫雲からの情報によると今のところ地下施設に十機ほどの戦闘ドローンが集結しているだけ。
この程度ならなんとか……
「待ちなさい。北村君」
甲板から飛び立とうとした時、背後からアーニャに呼び止められる。
「なにか?」
「忘れ物よ。ワームホールを攻撃するなら、これがあった方がいいでしょ」
彼女が差し出したのは、ロケット砲。
「《水龍》にはプリンターが無いのに、なぜこんな物が?」
「《水龍》の倉庫に、何年も眠っていた武器よ」
「え? そんな物があったのですか?」
「あったことはあったけど、長年放置されていた武器だから、ちゃんと撃てるか心配だけどね。弾が出なかったらごめん! その時は、ショットガンとブーストパンチで戦って」
受け取ってみると、見覚えのあるタイプだった。
「これ、イワンと戦ったときに使ったタイプと似ていますね。使い方は分かりますが、この状況で劣化ウラン弾を使うのは……」
使用後の除染問題を考えると頭痛いし……
「大丈夫。弾は通常弾を込めておいたわ」
「それは助かります」
ありがたく使わせて頂こう。
「ところで、気になっていたのですが」
「なに?」
「なぜ、カルカは劣化ウラン弾を保有していたのですか?」
この惑星には、原子炉は存在しないのでウラン燃料の需要はない。それなのに、ウラン燃料を精製した後に出る劣化ウランを使った武器がある事を疑問に思っていた。
まさか劣化ウラン弾を作るためだけに、ウラン鉱石を採掘して精製したとも考えにくい。
それなら精製などしないで、ウラン弾を作ればいいわけだし。
確かに強靭な装甲に対して、劣化ウラン弾は有効だが、なくても困るほどの武器ではない。
それだけのために危険な放射性物質を扱う必要などないはず。
「その事ね。実はこれ、砲身はカルカの工場で作った物だけど、劣化ウランの砲弾は鹵獲兵器なのよ」
「鹵獲? つまり、元々帝国軍が使っていたと?」
「ええ。以前にカルカ軍が帝国軍の占領地域を奇襲して奪還した時に、帝国兵はすべての装備を置き去りにして逃げていった事があったわ。その中に、劣化ウラン弾があったのよ」
「しかし、帝国はなぜそんな物を保有していたのです? あれはプリンターでは、作れないのでは?」
「確かに、天竜号のプリンターは蒼鉛より重い元素の入ったカートリッジが無いので、劣化ウラン弾は作れない。でも、マトリョーシカ号には、もっと重い元素のカートリッジがあったのよ」
「知っています。プルトニウムカートリッジですね。アーニャさんが、マトリョーシカ号から逃げ出すときに持ち出したという」
「マトリョーシカ号には、プルトニウムの他に、ウラン235とウラン238のカートリッジもあったのよ」
「え?」
「帝国軍はそのカートリッジで、劣化ウラン弾を作ったの。実際、カルカの装甲車両が何台もそれでやられているわ」
なぜ、マトリョーシカ号にそんな物があったのか気になるが、今は詮索しないでおこう。
「そのロケット砲は、鹵獲した劣化ウラン弾を使用できるように作った物なの。でも、その後帝国はカートリッジが枯渇して、装甲車両を作れなくなったの。だから、このロケット砲も長年使う機会が無くて《水龍》の倉庫で眠っていたわ」
「とにかく、ありがたく使わせていただきます」
僕はロケット砲を担いで、《水龍》から飛び立った。
海面スレスレを飛びながら、通信機でミールを呼び出す。
「ミール。今からそっちへ向かう。状況を教えてくれ」
『カイトさん。カルルとコブチは薬で眠らせましたが、キラも分身体をやられてしまいました』
「分身体がやられた? どうやって?」
『マルガリータ姫の鎌に、憑代を貫かれて』
前回使っていた鎖鎌か。
チタニウム合金の憑代を破壊するとは、高周波ブレードの類かもしれないな。
『キラはもう憑代が残っていません。今は、ハシモトさんが戦ってくれているのですが、苦戦しています』
「橋本君が苦戦?」
『ええ。マルガリータ姫ってアホなのに、戦闘能力が無駄に高くて、ハシモトさんの刀と互角に渡り合っています』
「分かった。すぐに救援に向かう」
通信を切ると、《海龍》はもう目の前。
僕の目には、良い情報と悪い情報が同時に入る。
良い情報は、芽依ちゃんがネットから脱出した事。
悪い情報は、ワームホールから新手のドローン群が出てきた事。
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