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第十六章

ストックホルム症候群?

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 エレベーターのゴンドラ内部は広かったが、テーブルや椅子があったり、食べかすが床に散乱していたりと生活の痕跡が残っていた。

 中継機の交代要員だったクローン達が、しばらく生活していたからだろう。

 とにかく、テントウムシを入れるのに邪魔になりそうなテーブルや椅子を外へ放り出し、軽く掃除をしてから、僕らは少年兵達を連れてエレベーターに乗り込んだ。

「そろそろ、いい時間ですね」

 芽依ちゃんが時計を見ながらそう言ったのは、エレベーターが上昇を始めた時。

「いい時間って? 何が?」
「北村さんとミールさんが、この……」

 芽依ちゃんは天井を指さす。

「上にある中継機を破壊してから、すでに十時間は経過しました。第五層の小部屋で待機しているクローン達は、そろそろ地上に出しても大丈夫でしょう」
「そうか。もうそんなに時間が経ったのか」
「地雷原構築に時間が掛かりましたし、戦闘前に私たちも仮眠も取っていますから」
「こんな事なら、中継機を破壊した時点で、ミーチャも呼んでおけば良かったな」
「ああ! そうでした。あの時に、ミーチャ君をここに呼んでおけば、今頃レム神の影響下から解放できていたのに」
「あの時は考えつかなかった。まあ、慌てることはないさ。ここが安全になってから、連れてくればいい。急いで連れてきて、ミーチャをむざむざ危険な目に遭わせる事もない」
「でも、それを聞いたら、ミーチャ君怒るのじゃないでしょうか?」
「なんで?」
「ミーチャ君だったら『僕だって男です。女の子みたいに、保護しないで下さい』って言うのでは?」
「言いそうだな。まあ、しょうがないよ。ミーチャは女の子みたいな可愛い顔をしているし」
「北村さん。ご自分も『可愛い』と言われるのは、嫌なのでしょ」

 う! そうだった。

「あの」

 エレベーターを操作していた少年兵が、僕の方を振り向く。

「第六層に着きました」
「おお! ご苦労さん」

 第六層のエレベーターホールは、外側から二番目の環状通路の途中にあった。

 だから、地雷原を通らないで中央広場へ行ける。

「君たち、ありがとう。助かったよ。僕達はこれからエラ・アレンスキーを追いかける。君たちは、ここで待機していてくれ」
「あの……」

 少年兵の一人が、不安そうな顔で尋ねてきた。

「アレンスキー大尉を、殺すのですか?」
「ああ。君たちもあいつには、非道い事をされていたのだろ?」
「ええ……」「でも……」

 どうしたのだろう?

「殺すのは可哀相な気が……」「それに……僕……アレンスキー大尉の事……嫌いになれないのです」

 これは、もしや……ストックホルム症候群か?

「僕は……どっちにしても、施設では他の子達に虐められていました。施設の先生からも、いやな事を……」

 施設内で児童虐待があったのか。

「アレンスキー大尉にその事を話したら、急に優しくなって『よし。その悪い先生は、私が殺しておいてやる』と言ってくれて……案外、いい人じゃないかなと……」

 いやいや、騙されちゃだめだって……あいつはいい奴なんかではないから……

 とは言っても、ストックホルム症候群になった子たちは納得しないだろうな。

「よし、考えておくよ。とにかく、僕達はエラを追いかけるから、君達はここで待機していてくれ」

 この子達に、エラが死ぬところを見せるわけには行かないな。

 さて、次の問題は……エラがどこに行ったかだ。

 中央広場へ行くのは間違えないとして、どのルートを通るのか?

 だが、その問題はすぐに解決した。

 少年兵達と別れて数分経ってから、環状通路から放射状通路へ入る交差点を曲がったとき、プラズマボール多数が通路の奥から飛んできたからだ。
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