749 / 848
第十六章
天才でも不可能だと思うが、変態なら可能なような気がする。
しおりを挟む
「やはり、ダメだったか」
と、僕が呟くように言ったのは、マテリアル・カートリッジが入っている倉庫の前まで移動してきた時のこと。
倉庫の扉には、張り紙が貼ってあった。
それには日本語でこう書かれている。
『北村海斗殿
この扉の向こうに貴殿の欲するカートリッジがある。この扉はエラ・アレンスキーNo.3(以後エラ)の体内に打ち込んだチップが、心臓停止を感知すると開く。エラが逃亡した場合でも、地下施設内部で補足して始末すれば開くが、施設外まで逃亡した場合は、お手数だが遺体をこの扉の前まで運んで来てもらいたい。なお、エラが取引を持ちかけて来ても話には乗らないように。もしエラを逃がしてから、扉を無理矢理こじ開けた場合、内部に仕掛けた爆薬が爆発する』
やはりね。こういう事になっていたか。しかし、レム神はなぜ、ここまでしてエラを始末したいのだろうか?
「北村さん。仕方ありませんね。エラを追いかけましょう」
芽依ちゃんの方を振り向く。
「ああ。では、傾斜路に戻ろう」
「しかし、そうなると中央広場を通らなければなりませんね。そうすると帝国軍兵士と戦闘になって、エラ・アレンスキーが私たちの接近に気が付いて逃げられるかもしれません」
「ううむ……そうなると、中央広場を通らず迂回してエラの背後を突くか……」
テントウムシのガルウイングが開いてミクが顔を出したのはその時。
「お兄ちゃん。もっといい方法があるよ」
「どんな?」
「あたし達も、エレベーターで第六層へ行くのよ」
「しかし、僕達に動かせるのか?」
「あの子達が、使い方を知っているって」
あの子達? どうやら少年兵達の事らしいな。
よし!
芽依ちゃんの方を振り向く。
芽依ちゃんは、意識を失った子ヤギを抱き抱えていた。
この子ヤギも、エラが中継機を破壊した時にレム神との接続が切れて倒れてしまっていたのだ。
傾斜路に一頭だけで残してはかわいそうと言って、芽依ちゃんがここまで抱き抱えてきたのだが……
「芽依ちゃん。僕達はこれからエラを追いかけて第六層へ向かう。その子ヤギは、ここに置いて行こう」
「どうしてですか? せっかくレム神とユキちゃんの接続が切れたのに……」
「だからだよ。このまま第六層に連れて行ったら、再接続されてしまうだろう。後で迎えにくればいい」
「そうでした。でも……目を覚ました時に近くに誰もいなかったら……」
芽依ちゃん、すっかり子ヤギに情が移ってしまったようだな。
ん? ジジイが芽依ちゃんの前に進み出た。
「メガネっ娘や。その子ヤギは、わしがここで面倒見ていてやるから、安心して第六層へ行ってこい」
「博士。よろしいのですか?」
「ああ。どうせわしが第六層に行ってもやる事はないし、ここで倉庫が開くのを待っておった方がよいじゃろう」
「でも……」
「遠慮することはないぞ」
「いいえ、遠慮しているのではなくて不安なのです」
「何が不安なのじゃ?」
「博士が、ユキちゃんにおかしな事を教えるのではないかと……」
「なんじゃと! わしが子ヤギに、女の子の下着を食べるように調教するような事をするとでも思っているのか!?」
「はい。思っています」
実は僕も思っていた。
「ぐぬぬ……鋭い読みじゃ」
図星かい!
「じゃが安心しろ。いくらわしが天才でも、そんな事は不可能じゃ」
確かに天才でも不可能だと思うが、変態なら可能なような気がする。
「安心して第六層へ行ってこい」
あまり、安心はできないがこれ以上時間はかけられない。
一抹の不安を残しつつ、僕達はジジイと子ヤギを残してエレベーターホールへ向かった。
と、僕が呟くように言ったのは、マテリアル・カートリッジが入っている倉庫の前まで移動してきた時のこと。
倉庫の扉には、張り紙が貼ってあった。
それには日本語でこう書かれている。
『北村海斗殿
この扉の向こうに貴殿の欲するカートリッジがある。この扉はエラ・アレンスキーNo.3(以後エラ)の体内に打ち込んだチップが、心臓停止を感知すると開く。エラが逃亡した場合でも、地下施設内部で補足して始末すれば開くが、施設外まで逃亡した場合は、お手数だが遺体をこの扉の前まで運んで来てもらいたい。なお、エラが取引を持ちかけて来ても話には乗らないように。もしエラを逃がしてから、扉を無理矢理こじ開けた場合、内部に仕掛けた爆薬が爆発する』
やはりね。こういう事になっていたか。しかし、レム神はなぜ、ここまでしてエラを始末したいのだろうか?
「北村さん。仕方ありませんね。エラを追いかけましょう」
芽依ちゃんの方を振り向く。
「ああ。では、傾斜路に戻ろう」
「しかし、そうなると中央広場を通らなければなりませんね。そうすると帝国軍兵士と戦闘になって、エラ・アレンスキーが私たちの接近に気が付いて逃げられるかもしれません」
「ううむ……そうなると、中央広場を通らず迂回してエラの背後を突くか……」
テントウムシのガルウイングが開いてミクが顔を出したのはその時。
「お兄ちゃん。もっといい方法があるよ」
「どんな?」
「あたし達も、エレベーターで第六層へ行くのよ」
「しかし、僕達に動かせるのか?」
「あの子達が、使い方を知っているって」
あの子達? どうやら少年兵達の事らしいな。
よし!
芽依ちゃんの方を振り向く。
芽依ちゃんは、意識を失った子ヤギを抱き抱えていた。
この子ヤギも、エラが中継機を破壊した時にレム神との接続が切れて倒れてしまっていたのだ。
傾斜路に一頭だけで残してはかわいそうと言って、芽依ちゃんがここまで抱き抱えてきたのだが……
「芽依ちゃん。僕達はこれからエラを追いかけて第六層へ向かう。その子ヤギは、ここに置いて行こう」
「どうしてですか? せっかくレム神とユキちゃんの接続が切れたのに……」
「だからだよ。このまま第六層に連れて行ったら、再接続されてしまうだろう。後で迎えにくればいい」
「そうでした。でも……目を覚ました時に近くに誰もいなかったら……」
芽依ちゃん、すっかり子ヤギに情が移ってしまったようだな。
ん? ジジイが芽依ちゃんの前に進み出た。
「メガネっ娘や。その子ヤギは、わしがここで面倒見ていてやるから、安心して第六層へ行ってこい」
「博士。よろしいのですか?」
「ああ。どうせわしが第六層に行ってもやる事はないし、ここで倉庫が開くのを待っておった方がよいじゃろう」
「でも……」
「遠慮することはないぞ」
「いいえ、遠慮しているのではなくて不安なのです」
「何が不安なのじゃ?」
「博士が、ユキちゃんにおかしな事を教えるのではないかと……」
「なんじゃと! わしが子ヤギに、女の子の下着を食べるように調教するような事をするとでも思っているのか!?」
「はい。思っています」
実は僕も思っていた。
「ぐぬぬ……鋭い読みじゃ」
図星かい!
「じゃが安心しろ。いくらわしが天才でも、そんな事は不可能じゃ」
確かに天才でも不可能だと思うが、変態なら可能なような気がする。
「安心して第六層へ行ってこい」
あまり、安心はできないがこれ以上時間はかけられない。
一抹の不安を残しつつ、僕達はジジイと子ヤギを残してエレベーターホールへ向かった。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
光のもとで1
葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。
小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。
自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。
そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。
初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする――
(全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます)
10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

平和国家異世界へ―日本の受難―
あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。
それから数年後の2035年、8月。
日本は異世界に転移した。
帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。
総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる――
何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。
質問などは感想に書いていただけると、返信します。
毎日投稿します。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる