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第六章

除染作業ロボット

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「カイトさん。ベジドラゴンが見つかりました」
 ミールの分身たちミールズの一人が振り返ってそう言ったのは、地下道の出口付近での事だった。
 他のミールの分身たちミールズは黄色い声を張り上げながら、しつこく現れるスライムに塩を投げつけて追っ払っている。
「何頭捕まっている?」
「三頭です」
 地下道を抜けると、そこに、防護服を着た小柄な人物が待っていた。
 人物は僕たちに向かって手を振ると、銀色に光る円筒形の物体を足元に置いた。
 Pちゃんだろうか? しかし、ロボットに防護服なんか必要なのかな?
 いや、そういえば福一では、何台ものロボットが放射線で故障していたから、ロボットいえども必要なんだろうな。
「ご主人様、ミールさん達。しばらく、そこを動かないでいて下さい」
 Pちゃんの声だった。
 しかし、動くなって……ん?
 
 なんだ? あれは?

 Pちゃんの足下に置いてある円筒から、黒いシミのような物が現れ、地面に広がって行く。
 まるで動く黒い絨毯。
 新手のスライムか? いや、違う。

 虫だ!

 アリのような虫の群がこっちへ向かってくる。
「ひい!」
 瞬く間に、ロボットスーツに虫が這い上がって来て、僕は思わず悲鳴を上げてしまった。
「きゃー!」「いやあーん!」
 隣では、ミールの分身たちミールズにも虫の群れが這い上がってきた。
「ご主人様。ミールさん達。動かないで下さい。それは虫ではありません」
「Pちゃん。これは、なんなんだ?」
「二十二世紀に開発された除染作業ロボットです」
 Pちゃんの説明によると、放射線センサーとマイクロマニピュレーターを持っている、アリぐらいの大きさのマイクロロボットらしい。
 アルファー線やベーター線、ガンマ線などの放射線発生源となっている塵を特定すると、マイクロマニピュレーターで掴み取り回収するそうだ。
 一体だけでは途方もない作業になるので、使用する時は一度に数千体を動員して数で補うらしい。

 それは分かったけど、正直言ってこの状況は気持ち悪い。
 服の中には入ってこないが、身体が痒くなってくる。
「しかし、ミールの分身まで除染する必要あるのか?」
「ありますよ。分身体は疑似物質でできていますが、通常のバリオン物質と相互作用があります。ですから、分身体の表面にも放射性物質が付着するのです。そして、分身体が消滅する時に、表面に付着していた放射性物質も周囲に飛び散ってしまいます」
「それじゃあ、仕方ないか。それで、いつまで、この状態続くんだ?」
「後、二十分ほどです」
 そんなに……一刻も早く向こうに戻りたいのに……
 横を見ると、ミールの分身たちミールズも、数千体のマイクロロボットに集られて真っ黒になっていた。
「ミール。ベジドラゴン達は、どうしている?」
「泣いていました。お母さんに、会いたいって」

 可哀そうに……

「帝国軍の飼育係は、ベジドラゴンの言葉が分からないだけでなく、泣いている事すら分からない鈍感野郎です。鞭で叩いて躾ける事しか考えていません」 
「飼育係を殴り倒して、その場で逃がすというのはできないかな?」
「逃げても、撃ち落とされる危険があります」
 となると、帝国軍の目を何かで逸らして、その隙に逃がすか?
 ちょうど、弾薬庫に爆弾が仕掛けてあるし……
 それとも、ドローンで爆撃して牽制するか?
「除染作業終了です。お疲れ様でした」
 僕らの身体から、マイクロロボット達が引いていく。
 そのまま円筒の中へ戻って行った。
「Pちゃん。放射性物質は着いていたかい?」
「プルトニウムを含んだ塵が回収されました」

 最悪だな。

 続いて、ホールボディカウンターでチェックを受けたが、幸いな事に、僕の体内に放射性物質は確認されなかった。
 しかし、それは僕が最初からロボットスーツを装着していたからだ。
 マスクすら着けていなかったミールは、被曝している危険がある。
 早く連れ戻さないと……
「ミール……?」
 僕は、近くにいた分身に声をかけようとして絶句した。
 分身が真っ裸になっていたのだ。
「な?」
 次の瞬間、分身は光のリボンに包まれ、緑の鎧に包まれた美少女戦士姿になっていた。

 戦闘モード?

 何があったんだ!?
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