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第六章
消えていく分身たち
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「ミール、どうしたんだ? 急に戦闘モードになって?」
問いかけても、分身は何も答えない。
どうやら、向こうで手の離せない事態があって、分身の操作ができなくなったようだ。
通信機で呼び出してみたが応答がない。
通信機はダモンさんの部屋に置いてあるはずだが、そこにいないのか? それとも通信機の使い方が分からないのか……一応使い方は教えてあるけど、まだ使っているのを見た事がないし……
分身が、ようやく動き出しのは、十分ほど経過してから。
困ったような顔をして、経緯を話し始めた。
「すみません。カイトさん。やっちゃったのですよ」
「やっちゃったって? なにを?」
「ベジドラゴン飼育係の男って、かなり性格のねじ曲がった奴で……」
「それは、さっき聞いたけど」
「ベジドラゴンを、執拗にムチで叩くものだから……最初は普通に止めたのですよ。ベジドラゴンを死なせたら、ネクラーソフにどやされるぞって。そしたら、そいつ『こんな玩具、またさらって来ればいい』って」
「それで?」
「それ聞いて、あたし頭にきちゃって」
まあ、分かる。それで頭にこない方がおかしい。
「分身に、その男を殴らせてしまったのです」
「いい事だと思うけど……」
「でも、分身て、普段はそんなに強くないのですよ。軽い作業はできますが、戦闘はできないのですよね。重い剣は持てないし、弓も引けないし、人を殴っても、小突いた程度の威力しかない。だから、逆襲されまして」
「それで引くに引けなくなって、魔法回復薬を飲んで戦闘モードにしたと?」
「はい」
「戦闘モードになる時は、姿も戦士姿に強制的に変わってしまうのかい?」
「はい。その時に出している分身は全部」
周囲を見回すと、こっちに来ている六体の分身が、すべて美少女戦士になっていた。
「という事は、アジトで逃げ回っている三体も?」
「そっちは、ちょうどいいから、暴れさせています」
「問題はそっちにいる三体か……飼育係以外の奴には、見られなかったかい?」
「大丈夫です。目撃者なら……」
いなかったのか。よかった。
「始末しておきましたから。手際よく」
始末したんかい! それも手際よく。
「あたしの変身した姿を見られたからには、このまま帰すわけにはいかないですからね」
なんか、悪役みたいなセリフだな……
「それでもう一つ問題がありまして」
「なに?」
なんか、聞くと不幸になりそうな……
「戦闘モードは、三十分続くのですが、その時間が過ぎると分身は一度消えてしまうのです」
そういえば、いつも戦闘モードの後は消えていた……!
「という事は、こっちにいる分身は!?」
「後、数分で消えます。そっちにあたしがいない以上、新しい分身は作れません。つまり、カイトさんが地下道を通るのに必要な、塩撒き役がいなくなるのです」
「分かった! 今すぐ……」
「待って下さい。今から、地下道に入っても時間が足りません。分身は途中で消えてしまいます」
手遅れだったか……
「一応、こっちにも、塩は残っていますが……」
「ダメだ! ミール聞いてくれ。地下道には放射能が……毒の粒子が漂っているんだ。吸い込んだら、死んでしまう」
「口の周りを布で覆うとかすれば……」
「皮膚に着いただけでも危険だ」
「じゃあ、どうやって……」
困った。とにかく、通信手段だけでも確保できれば……
「ダモンさんの部屋に残してきた通信機は使えるかい?」
「今、部屋にいます。使ってみます」
しばらくして、通信機のコール音が鳴った。
画面にミールの顔が現れる。
『聞こえますか?』
「聞こえる」
とりあえず、通信手段は確保できたか。
『よかった。ちょうど時間切れでした』
ミールがそう言うと同時に、分身たちは溶けるように消えていった。
問いかけても、分身は何も答えない。
どうやら、向こうで手の離せない事態があって、分身の操作ができなくなったようだ。
通信機で呼び出してみたが応答がない。
通信機はダモンさんの部屋に置いてあるはずだが、そこにいないのか? それとも通信機の使い方が分からないのか……一応使い方は教えてあるけど、まだ使っているのを見た事がないし……
分身が、ようやく動き出しのは、十分ほど経過してから。
困ったような顔をして、経緯を話し始めた。
「すみません。カイトさん。やっちゃったのですよ」
「やっちゃったって? なにを?」
「ベジドラゴン飼育係の男って、かなり性格のねじ曲がった奴で……」
「それは、さっき聞いたけど」
「ベジドラゴンを、執拗にムチで叩くものだから……最初は普通に止めたのですよ。ベジドラゴンを死なせたら、ネクラーソフにどやされるぞって。そしたら、そいつ『こんな玩具、またさらって来ればいい』って」
「それで?」
「それ聞いて、あたし頭にきちゃって」
まあ、分かる。それで頭にこない方がおかしい。
「分身に、その男を殴らせてしまったのです」
「いい事だと思うけど……」
「でも、分身て、普段はそんなに強くないのですよ。軽い作業はできますが、戦闘はできないのですよね。重い剣は持てないし、弓も引けないし、人を殴っても、小突いた程度の威力しかない。だから、逆襲されまして」
「それで引くに引けなくなって、魔法回復薬を飲んで戦闘モードにしたと?」
「はい」
「戦闘モードになる時は、姿も戦士姿に強制的に変わってしまうのかい?」
「はい。その時に出している分身は全部」
周囲を見回すと、こっちに来ている六体の分身が、すべて美少女戦士になっていた。
「という事は、アジトで逃げ回っている三体も?」
「そっちは、ちょうどいいから、暴れさせています」
「問題はそっちにいる三体か……飼育係以外の奴には、見られなかったかい?」
「大丈夫です。目撃者なら……」
いなかったのか。よかった。
「始末しておきましたから。手際よく」
始末したんかい! それも手際よく。
「あたしの変身した姿を見られたからには、このまま帰すわけにはいかないですからね」
なんか、悪役みたいなセリフだな……
「それでもう一つ問題がありまして」
「なに?」
なんか、聞くと不幸になりそうな……
「戦闘モードは、三十分続くのですが、その時間が過ぎると分身は一度消えてしまうのです」
そういえば、いつも戦闘モードの後は消えていた……!
「という事は、こっちにいる分身は!?」
「後、数分で消えます。そっちにあたしがいない以上、新しい分身は作れません。つまり、カイトさんが地下道を通るのに必要な、塩撒き役がいなくなるのです」
「分かった! 今すぐ……」
「待って下さい。今から、地下道に入っても時間が足りません。分身は途中で消えてしまいます」
手遅れだったか……
「一応、こっちにも、塩は残っていますが……」
「ダメだ! ミール聞いてくれ。地下道には放射能が……毒の粒子が漂っているんだ。吸い込んだら、死んでしまう」
「口の周りを布で覆うとかすれば……」
「皮膚に着いただけでも危険だ」
「じゃあ、どうやって……」
困った。とにかく、通信手段だけでも確保できれば……
「ダモンさんの部屋に残してきた通信機は使えるかい?」
「今、部屋にいます。使ってみます」
しばらくして、通信機のコール音が鳴った。
画面にミールの顔が現れる。
『聞こえますか?』
「聞こえる」
とりあえず、通信手段は確保できたか。
『よかった。ちょうど時間切れでした』
ミールがそう言うと同時に、分身たちは溶けるように消えていった。
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