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第十六章

土産がかなり利いているようだな。

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 しばらくして、ドローン一号から送られてきた映像に映っていたのは帝国軍司令部で行われていた口論の様子。

 口論をしている者たちの声を拾ってみた。

『少佐! 我々をだましていたのですね!』

 どうやら上手くいったようだな。

『少尉。落ち着け。こんなのは敵の欺瞞情報だ。狡猾こうかつなカイト・キタムラならやりそうな事だろう』

 狡猾……まあ、ほめ言葉と取っておくか。

『では、第六層のカルル・エステス隊は、なぜ上に上がって来て我々と合流しようとしないのです?』
『第六層にはプリンターがある。それを守る必要があるのだ』
『何から守るというのです? 第一層と第三層にしか出入り口がないのなら、敵が第六層にたどり着くには我々を突破する必要がある。やはり第六層に通路があるのですね』

 捕虜に持たせた土産とは、外部への通路が載っている第六層の詳細な図面だったのだ。

 キラの話を聞いてから、あらためて捕虜たちを尋問したところ、第六層から外部へ抜ける通路がある事を知っている者は一人もいなかった。

 どうやら帝国軍の方では、第六層からの通路がある事を一部の者だけが知っていたようだが、その事実は伏せられていたらしい。

 だから、第三層にいる兵士たちは、第三層の通路を潰された今、唯一の出口は第一層にしかなく、自分たちは地下施設に閉じ込められたと思いこんでいたのだ。

 当然、ここから脱出するには、第一層を制圧している僕らを倒すしかない。帝国兵たちは外へ出るために、死に物狂いで戦おうと決意している事だろう。

 そんなところへ、こんな図面を持ち込んだらどうなるか?

 映像をドローン二号に切り替えてみた。

 一般兵士たちが輪になって会話している様子が映る。

『第六層から、外へ出られるだと?』
『本当か?』
『敵の言っている事だから、あまり信用はできないけどな』
『はっきり言おう。俺は敵よりも、味方の方が信用できない』
『ああ、俺もだ』
『あたしも……特にあの大隊長。あたしたちを、消耗品としか考えていないわ』
『第一層にしか出口がないと俺たちに思わせておいて、必死で戦わせようという魂胆かもしれないぞ』
『かもしれないじゃない。実際そうなんだよ』
『しかし、このまま戦いもしないで逃げるというのも。こっちから、第二層に攻め込んではどうだ?』
『おまえは第二層の惨状を知らないから、そんな事が言えるんだ』
『え? そんなひどいのか?』
『あれは地獄だ。はっきり言おう。俺たちの装備では、勝ち目など万に一つもない』
『そんなにすごいのか? だってこっちにはロケット砲が……』
『あんなガラクタ役に立つか!』

 こりゃあ、がかなり利いているようだな。
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