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第十六章
土産
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催涙剤の影響が無くなり、ミールたちが僕たちと合流したのは、第二層を制圧してからの三十分後の事……
さっそく、ミールに捕虜の分身体を作ってもらい、第三層の情報を聞き出した。
それによると、第三層の敵は二百人ほど。そして、第二層と同じ戦法を使うつもりでいる事が分かった。
「カイトさん。それなら、第二層と同じく催涙剤で……」
「いや、ミール。第三層では、同じ手は使えない」
「どうしてですか?」
「第三層は広い。メイン通路だけでも七本ある。すべての部屋に、催涙剤を同時に散布するのは難しい」
「それでは第三層はロボットスーツではなく、あたしとキラの分身体と、ミクちゃんの式神で行きましょう。あたしに良い考えがあります」
「どんな?」
「カイトさんとメイさん、ハシモトさんがロボットスーツを装着した状態の分身体を作るのです。その分身体にメイン通路を歩かせて、伏兵が騙されて攻撃に出てきたところを、キラの分身体とミクちゃんの式神で倒して行くのです」
ううむ、それでもいいのだが、伏兵を一人ずつ始末していくと時間がかかるし……
「お師匠。私にも良い考えがあるのですが……」
「キラ。言ってみなさい」
「はい。その前にお聞きしますが、ここで捕まえた捕虜も、また逃がすのですよね?」
「ええ。分身体を作ったので、もう必要ありません……よね? カイトさん」
僕は無言で頷いた。もちろん、捕虜を殺すわけにはいかない。
情報を聞き出したら、第一層の出口から帝国軍陣地までの地図と食料、水を持たせて解放するつもりだ。
「どうせ解放するなら、第一層から解放するのではなく、土産を持たせて、第三層へ行かせてみてはどうかと……」
土産?
「爆弾でも持たせるの?」
「いえ。師匠、爆弾ではありません。そんな非道なものではありません」
「では、なにを?」
「実は、先ほど捕虜の一人が私を知っていて『裏切り者』と詰ってきたのです。その時に恨みがましく『同胞を、こんな穴蔵に閉じこめやがって』と言っていました」
閉じこめやがって?
キラの話では、どうも捕虜にされたという意味ではなく、第三層の地下通路を潰した事を言っているらしい。
しかし、第六層にも出口があるのだから、閉じこめられてはいないだろう。
「キラ。その人は、帝国軍は地下施設に閉じこめられたと思っているのですか?」
「ええ、師匠。そのようです。ですから、捕虜にこれを持たせて第三層へ行かせれば……」
キラが『これ』と言って差し出したものは、ある意味爆弾だった。
ただし爆薬ではない。
情報と言う名の爆弾。
「でも……」
土産を持たせた捕虜たちが第三層への傾斜路へ入っていくのを見送ったとき、芽依ちゃんが呟くように言った。
「敵は、こんなことを信じるのでしょうか? 私なら欺瞞だと思いますが……」
僕もそう思う。しかし、これは欺瞞情報でもなんでもなく、真実の情報だ。
信じてくれればそれでよし。
ダメなら他の手を考えればいいさ。
「そろそろ良いだろう。芽依ちゃん。ドローンを送り込んでくれ」
「はい」
光学迷彩で姿を隠した蛇型ドローン十体が点検通路へと入り、そのまま第三層へと向かっていった。
さっそく、ミールに捕虜の分身体を作ってもらい、第三層の情報を聞き出した。
それによると、第三層の敵は二百人ほど。そして、第二層と同じ戦法を使うつもりでいる事が分かった。
「カイトさん。それなら、第二層と同じく催涙剤で……」
「いや、ミール。第三層では、同じ手は使えない」
「どうしてですか?」
「第三層は広い。メイン通路だけでも七本ある。すべての部屋に、催涙剤を同時に散布するのは難しい」
「それでは第三層はロボットスーツではなく、あたしとキラの分身体と、ミクちゃんの式神で行きましょう。あたしに良い考えがあります」
「どんな?」
「カイトさんとメイさん、ハシモトさんがロボットスーツを装着した状態の分身体を作るのです。その分身体にメイン通路を歩かせて、伏兵が騙されて攻撃に出てきたところを、キラの分身体とミクちゃんの式神で倒して行くのです」
ううむ、それでもいいのだが、伏兵を一人ずつ始末していくと時間がかかるし……
「お師匠。私にも良い考えがあるのですが……」
「キラ。言ってみなさい」
「はい。その前にお聞きしますが、ここで捕まえた捕虜も、また逃がすのですよね?」
「ええ。分身体を作ったので、もう必要ありません……よね? カイトさん」
僕は無言で頷いた。もちろん、捕虜を殺すわけにはいかない。
情報を聞き出したら、第一層の出口から帝国軍陣地までの地図と食料、水を持たせて解放するつもりだ。
「どうせ解放するなら、第一層から解放するのではなく、土産を持たせて、第三層へ行かせてみてはどうかと……」
土産?
「爆弾でも持たせるの?」
「いえ。師匠、爆弾ではありません。そんな非道なものではありません」
「では、なにを?」
「実は、先ほど捕虜の一人が私を知っていて『裏切り者』と詰ってきたのです。その時に恨みがましく『同胞を、こんな穴蔵に閉じこめやがって』と言っていました」
閉じこめやがって?
キラの話では、どうも捕虜にされたという意味ではなく、第三層の地下通路を潰した事を言っているらしい。
しかし、第六層にも出口があるのだから、閉じこめられてはいないだろう。
「キラ。その人は、帝国軍は地下施設に閉じこめられたと思っているのですか?」
「ええ、師匠。そのようです。ですから、捕虜にこれを持たせて第三層へ行かせれば……」
キラが『これ』と言って差し出したものは、ある意味爆弾だった。
ただし爆薬ではない。
情報と言う名の爆弾。
「でも……」
土産を持たせた捕虜たちが第三層への傾斜路へ入っていくのを見送ったとき、芽依ちゃんが呟くように言った。
「敵は、こんなことを信じるのでしょうか? 私なら欺瞞だと思いますが……」
僕もそう思う。しかし、これは欺瞞情報でもなんでもなく、真実の情報だ。
信じてくれればそれでよし。
ダメなら他の手を考えればいいさ。
「そろそろ良いだろう。芽依ちゃん。ドローンを送り込んでくれ」
「はい」
光学迷彩で姿を隠した蛇型ドローン十体が点検通路へと入り、そのまま第三層へと向かっていった。
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