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第十六章

あの人

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 見上げると、銀色の九十九式が空に浮いている。

 それを見て、芽依ちゃんが上を指さす。

「あの人です」

 小淵! 技師って小淵の事だったのか。

 小淵は小さな、コンテナを持っていた。あの中にレーダーの機材が入っているのだろうか?

「海からモーターボートで攻めてくると我々に思わせておいて、ヘリでやってきた。という事は、ミーチャ・アリエフ君を通じて我々が情報を得ていたという事は、すでにばれていたということですね」
「なんの事かな?」

 と、今更とぼけても無駄か。

「隊長。いえ、北村さん。いつから気がついていました?」
「さあ、いつからだろうね?」
「素直に教えてくれるとは期待していませんが、少なくとも、昨夜の作戦会議の時点では分かっていたのでしょうね?」
「それは、認めよう」
「僕もおかしいと思ったのですよ。ロケット砲多数が待ちかまえている海岸線に、モーターボートで上陸をしようだなんて。あなたは、そんな無謀な作戦をする人ではない。すでにミーチャ君を介して我々が情報を得ていることに気がついて、反間計はんかんけいを仕掛けてきたのではないかと疑っていたのですが……」
「そう思っていたのなら、なぜ戦力を海岸線に集中させた?」
「僕に作戦の決定権はありません。一応、司令官には助言をしておきましたが……」
「君の助言を聞いた司令官はどうした?」
「『考えすぎだ』と言って、僕の助言を無視しました」
「なるほど。いくら、ヤンが有能でも、無能なパエッタが上官では、勝てる戦いも勝てないよな」
「すみません。あなたの表現は、時々分からない事があります」

 う!

「ま……まあ、その事は深く考えないでくれ。ところで、これからどうする? 僕たちはここに橋頭堡を築いたが……」
「この状況で、僕の勝ち目は万に一つもありません。見逃していただけるならありがたいのですが……」
「では、なぜ声をかけた? こっそり、帰ればよかっただろう?」
「あなたは、僕が声をかけても見逃すだろうと予想しましたので。もし、僕の予想が外れて、殺されたのなら僕はそれまでの男という事です」
「僕らの反応を見るために、声をかけたのか?」
「そうです。で、どうします? 僕を見逃しますか? それとも、戦いますか?」

 レムと接続された人たちを解放することが可能と分かった今、僕たちが接続者をどう扱うか見ようという事か?

 もちろん、接続者は可能な限り助けたいが……

 僕は縛ってある二人の捕虜を指さした。

「この二人を連れて帰ってくれ」
「いいのですか? せっかくの捕虜を……」
「捕虜を見張る人手がない。かと言って、捕虜を殺すわけにもいかない。解放して自力で山を降りさせようにも怪我をしている。ちょうど君が通りかかったので、捕虜を連れて帰ってもらいたい。けっして、君を見逃すわけではない」
「分かりました。そう言うことにしておきましょう」

 小淵は、二人の捕虜を抱えて帰っていった。
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