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第五章

そこはアドリブ入れないで、シナリオ通りにやって下さい。

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 松明を持った兵士に案内されて、ドロノフは屋敷の前に来た。
 村長の屋敷のようだが、ここは最初から火をかけられなかったようだ。
 しかし、松明のほのかな明かりに照らされた敷地内には、ナーモ族の亡骸がそこかしこに倒れている。
 屋敷の前には二人の兵士が警備していたが、二人ともドロノフの姿を見ると敬礼して、ドロノフを中に招き入れた。
 中で待っていたのは、ドロノフより若そうなくせにやたら偉そうな男。
『無様だな。ドロノフ。帰ってきたのは貴様を含めて十二人だけ。しかも、魔法使いは取り逃がす。どう弁明するつもりだ?』
『申し訳ありません。ダサエフ大尉』
『俺は詫びを入れろと言ってるんじゃねえ。なぜ捕り逃がしたか? と聞いている』
『それが、思わぬ邪魔が入りまして……』
『邪魔? 他の魔法使いか?』
『いえ。日本人です』
『日本人? バカ言え! こことリトルトーキョーが、どれだけ離れていると思っている? 奴らの飛行機械でも、ここまでは来れない』
『本当です。我々の物より遥かに強力な銃を持ち、我々の銃がまったく効かない鎧を身に着け、信じられない怪力を使い……』
『寝ぼけてんのか!』
『いえ……本当です』
『ふざけんなよ。お前。こんなところまで日本人が……ん? なんだ?』
 副官らしき男が、ダサエフの耳元に何かを囁き、丸めた紙を渡した。
『そうか。なるほど』
 ダサエフは副官から渡された紙を広げてドロノフに見せる。
 『その日本人というのは、この男か?』
 それは一人の男の写真だった。

 しかし、どっかで見た顔だな……て、僕じゃないか!
「カイトさん。なんと答えさせますか?」
 ミールはPCの画面を指差した。
 そこに映っているのは、ドロノフの分身に持たせたウェアラブルカメラから送られてきたもの。
「『そうです。この男です』と言わせて」
「いいんですか? とぼけなくて?」
「こいつが、なぜ僕の写真を持っているか知りたい」
「分かりました」
 
『そうです。この男です』
 画面の向こうでドロノフが言った。
 ダサエフは、それを聞いて凶悪な笑みを浮かべる。

 う……やだなあ。

『ククク……そうか。こいつか』
 ダサエフはそのまま黙り込んだ。

 何かよからぬ事を企んでるな。

「ミール。ドロノフに『こいつはいったい何者ですか?』と言わせてくれ」
「はーい」

『このイケメンは、いったい何者ですか?』
 と、ドロノフが言う。

 おいおい、『イケメン』と言えなんて言ってない。
 そこはアドリブ入れないで、シナリオ通りにやって下さい。
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