570 / 893
第十四章

その情報に対する報酬は?

しおりを挟む
 確かに妙だと思っていた。

 同じマトリョーシカ号から降りてきた人達なのに、帝国人はカートリッジを使い果たしたとたんに科学文明を失い、一方でこの村の人達は電灯などを自作している。

 電灯だけでなく、生活に必要な物はほぼ自作していた。

 帝国の方はナーモ族奴隷がいなければ、十六世紀水準の生活を維持するのも難しいときているのに。

 この違いは、いったい何だろうと思っていた。

 二十二世紀の人達はプリンターに頼り切って、物作りを忘れてしまった。だから、《イサナ》や《天竜》には、技術を持っている二十一世紀人のデータを入れたわけだが、マトリョーシカ号などの初期の亜光速船には、二十二世紀人のデータしか入れていなかったので、現地に着いてから科学文明の維持にかなり苦労したそうだ。

 苦労はしたが、さすがにそこまで文明が後退する事はなかったという。二十二世紀にも、技術者がまったくいないわけではないからだ。

 アーリャさんが言っていた職人会という組織の人達がいたのだ。マトリョーシカ号には、その職人会の人達のデータがあったので、この村にはある程度の科学文明がもたらされていた。

 ということは、ジジイが消したという人材のデータとは……

「職人会の人達のデータを消したのか?」
「そうじゃ。物作りの技術を継承していた者がいなければ、いくら科学知識があってもそれを生かすことはできんからな。それと、わしのデータも消した」
「あんたの?」
「娘は思い違いをしているが、わしは職人会などという堅苦しい組織には所属しとらん。ガラス工芸は趣味で覚えた。そもそも、わしは二十一世紀人じゃ」
「二十一世紀人?」
「レイラ・ソコロフからも聞いたかもしれんが、マトリョーシカ号の目的の一つは、同時複数再生されたコピー人間が発狂する原因を調べる事じゃ。それには、わしが必要になるかもしれんという事で、わしのデータも入れられたのじゃ」

 なるほど。脳間通信機能が原因かもしれないという予測はあったのだな。

「おや? 酒がなくなった。おかわりくれ」

 ジジイは、空になったショットグラスを差し出した。

「もうない」
「そうか。では、話はここまでだな」

 このクソジジイ……

「あんたには、責任感というものはないのか!?」
「責任? わしになんの責任があるというのだ?」
「レムが、こんな事を始めた事に対して……」

 いや、それってこのジジイの責任じゃないよな。

「わしはレム君を止めたぞ。やるべき事はやった。後は、おぬしらで好きにやってくれ」
「だから、せめて情報をくれ」
「レム君に関する情報なら、もう十分じゃろう」
「レムの事はもういい。あんたは、式神を研究していたのだろう。北島の地下施設で、式神が使えなくなったんだ。原因が分かるなら教えてくれ」

 正確には式神ではなく、ミールの分身体だが……

「北島の施設で、式神が使えなくなっただと?」
「原因は分かるか?」
「知らん」
「あ! 爺さんにも、分からないんだ。だったら、もう帰っていいよ」
「待て、待て。まったく分からんとは言っておらん。心当たりならあるぞ」
「心当たり? 報酬ほしさに、適当な事言っているんじゃないのか?」
「そんな事はない。おぬし、わしらが北島の地下施設にいて、そこでレムに接続されていたことは知っているな?」
「ああ、知っている」
「北島のコンピューターが破壊された途端、わしらとレムの接続が切れた事は聞いたか?」
「聞いたけど」

 レムのコンピューターは、惑星上に複数存在していた。コンピューターの一つが破壊されても、すぐに別のコンピューターがバックアップに入るので、レムとの接続が途切れるはずはないのだ。

 それなのに、なぜか地下施設にいた人達の接続は切れてしまった。

「レイラ・ソコロフは、原因不明と言っていた」
「そうじゃろうな。わしは、あいつに原因を話していないからな」
「原因を知っているのか?」

 ジジイは頷いた。

「スーホから聞いている。そして、おそらくそれは式神が地下施設で使えない理由と関係がある」
「なんだって?」
「若者よ。知りたいか?」
「知りたい」
「その情報に対する報酬は?」
「う!」
「言っておくが、美女以外の報酬では話せんな」

 このクソジジイ……

 ドアがノックされたのはその時……

「北村さん、ミールさん。入っていいかい?」

 アーリャさんの声……

「いかん! わしはちょっと隠れるぞ」

 ジジイは慌てて地下道へ姿を隠した。

 何も自分の娘から逃げることないのに……
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...