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第十四章

その情報に対する報酬は?

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 確かに妙だと思っていた。

 同じマトリョーシカ号から降りてきた人達なのに、帝国人はカートリッジを使い果たしたとたんに科学文明を失い、一方でこの村の人達は電灯などを自作している。

 電灯だけでなく、生活に必要な物はほぼ自作していた。

 帝国の方はナーモ族奴隷がいなければ、十六世紀水準の生活を維持するのも難しいときているのに。

 この違いは、いったい何だろうと思っていた。

 二十二世紀の人達はプリンターに頼り切って、物作りを忘れてしまった。だから、《イサナ》や《天竜》には、技術を持っている二十一世紀人のデータを入れたわけだが、マトリョーシカ号などの初期の亜光速船には、二十二世紀人のデータしか入れていなかったので、現地に着いてから科学文明の維持にかなり苦労したそうだ。

 苦労はしたが、さすがにそこまで文明が後退する事はなかったという。二十二世紀にも、技術者がまったくいないわけではないからだ。

 アーリャさんが言っていた職人会という組織の人達がいたのだ。マトリョーシカ号には、その職人会の人達のデータがあったので、この村にはある程度の科学文明がもたらされていた。

 ということは、ジジイが消したという人材のデータとは……

「職人会の人達のデータを消したのか?」
「そうじゃ。物作りの技術を継承していた者がいなければ、いくら科学知識があってもそれを生かすことはできんからな。それと、わしのデータも消した」
「あんたの?」
「娘は思い違いをしているが、わしは職人会などという堅苦しい組織には所属しとらん。ガラス工芸は趣味で覚えた。そもそも、わしは二十一世紀人じゃ」
「二十一世紀人?」
「レイラ・ソコロフからも聞いたかもしれんが、マトリョーシカ号の目的の一つは、同時複数再生されたコピー人間が発狂する原因を調べる事じゃ。それには、わしが必要になるかもしれんという事で、わしのデータも入れられたのじゃ」

 なるほど。脳間通信機能が原因かもしれないという予測はあったのだな。

「おや? 酒がなくなった。おかわりくれ」

 ジジイは、空になったショットグラスを差し出した。

「もうない」
「そうか。では、話はここまでだな」

 このクソジジイ……

「あんたには、責任感というものはないのか!?」
「責任? わしになんの責任があるというのだ?」
「レムが、こんな事を始めた事に対して……」

 いや、それってこのジジイの責任じゃないよな。

「わしはレム君を止めたぞ。やるべき事はやった。後は、おぬしらで好きにやってくれ」
「だから、せめて情報をくれ」
「レム君に関する情報なら、もう十分じゃろう」
「レムの事はもういい。あんたは、式神を研究していたのだろう。北島の地下施設で、式神が使えなくなったんだ。原因が分かるなら教えてくれ」

 正確には式神ではなく、ミールの分身体だが……

「北島の施設で、式神が使えなくなっただと?」
「原因は分かるか?」
「知らん」
「あ! 爺さんにも、分からないんだ。だったら、もう帰っていいよ」
「待て、待て。まったく分からんとは言っておらん。心当たりならあるぞ」
「心当たり? 報酬ほしさに、適当な事言っているんじゃないのか?」
「そんな事はない。おぬし、わしらが北島の地下施設にいて、そこでレムに接続されていたことは知っているな?」
「ああ、知っている」
「北島のコンピューターが破壊された途端、わしらとレムの接続が切れた事は聞いたか?」
「聞いたけど」

 レムのコンピューターは、惑星上に複数存在していた。コンピューターの一つが破壊されても、すぐに別のコンピューターがバックアップに入るので、レムとの接続が途切れるはずはないのだ。

 それなのに、なぜか地下施設にいた人達の接続は切れてしまった。

「レイラ・ソコロフは、原因不明と言っていた」
「そうじゃろうな。わしは、あいつに原因を話していないからな」
「原因を知っているのか?」

 ジジイは頷いた。

「スーホから聞いている。そして、おそらくそれは式神が地下施設で使えない理由と関係がある」
「なんだって?」
「若者よ。知りたいか?」
「知りたい」
「その情報に対する報酬は?」
「う!」
「言っておくが、美女以外の報酬では話せんな」

 このクソジジイ……

 ドアがノックされたのはその時……

「北村さん、ミールさん。入っていいかい?」

 アーリャさんの声……

「いかん! わしはちょっと隠れるぞ」

 ジジイは慌てて地下道へ姿を隠した。

 何も自分の娘から逃げることないのに……
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