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第十二章
独裁者
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しばらくして、彼女は何か思いついたかのように再び話し始めた。
「なるほど。ブレインレターで奴の傀儡にされてしまった人達を見たのですね」
僕は無言に頷いた。
「確かにブレインレターを使って、ある程度の洗脳は可能ですが、レムがブレインレターで行っていたのは洗脳ではありません」
なんだって!? 洗脳ではない?
「そもそもブレインレターを使って洗脳を行うには、洗脳対象者に合わせていろいろと細かい調整が必要です。レムがブレインレターを使ってやっていたのは、脳間通信機能を覚醒させて自分と接続状態にすることだったのです。私も最初は、レムと接続されていましたが洗脳はされていません」
「今は接続されていないのですか?」
「当然です。接続されていたら、ナンモ解放戦線のリーダーなんかできませんよ」
ごもっとも……
「三十年ほど前、私とレムの接続はなんの前触れもなく突然切れました。接続が切れたのは私だけではありません。私と一緒に研究をしていた人達全員の接続が一斉に切れたのです。後で分かったのですが、その時にレムの入っていたコンピューターの一つが電磁パルス攻撃で破壊されたのです。それによって私たちはレムから解放され自由の身になりました」
やったのは、カルカの人達だな。
「ただ、電磁パルス攻撃によって破壊されたのはレムの器となっていたコンピューターだけでなく、私たちが暮らしていた研究施設の電気系統すべてが駄目になってしまったのです。やっとの事で、研究施設を出た私たちは、その時になって初めて自分たちはベイス島という孤島にいる事を知ったのです」
ベイス島! レムのコンピューターセンターがあった一つだ。
「島から出る手段はなく、私たちはその後五年ほどベイス島で農作物を育て、魚を捕って暮らしていました。レムの事は不安でしたが、その後何の音沙汰もなかったのでレムは滅びたと思っていたのです。そうでない事を知ったのは、島で暮らして五年後。通りがかったナーモ族の船に乗せられて大陸に渡ってからです。レムは滅びるどころか巨大な帝国を築いていました。ただ、地球の科学文明を失ってしまったらしく、かなり文明は後退していました。しかし、この惑星の住民にとって、黒色火薬も驚異的な兵器です。私たちはナーモ族、プシダー族と手を結んで、帝国と戦うための組織を作り機会を待ちました。そして一年後、機会が訪れたのです。空から大量のビラが降ってきたことにより、私たち以外の地球人が来た事を知りました」
ちょうど、《イサナ》が到着した時だな。
「しかし、時期尚早だったようです。隕石攻撃の後、帝国に戦いを挑みましたが、仲間たちは次々と倒されていき一年後には組織は散り散りになってしまったのです。その後も小さな抵抗運動を続けていましたが、七年ほど前に私は捕らえられて投獄されてしまいました。それからは、孫娘たちに救出されるまで刑務所で過ごしていたのです」
「刑務所の中で、接続はされなかったのですか?」
「それはありませんでした。なぜそれをやらなかったのか不明ですが」
「そうですか。ところで、レムに接続された人達の精神はそのまま残っているのですか?」
「そうです」
「では、接続を断てば元通りに……」
「必ずしも元通りになるとは限りません」
え?
「レムはブレインレターを洗脳には使っていません。しかし、脳間通信機能を通じて、時間を掛けて洗脳しているのです。ですから、接続されて一年程度の人なら接続を断てば元に戻れますが、長く接続されていた人を元に戻すのは難しいでしょう」
「長くって……具体的にどのくらいですか」
「人によりますが、五年から十年ですね」
「でも、あなたたちは……」
「私たちは接続されている間も洗脳はされなかったのです」
なぜ?
「レムが脳間通信機能を通じて時間をかけて洗脳をするようになったのは、私たちの研究成果によるものなのです」
どういう事だ?
「私たちはレムに命じられて安全に精神融合をする方法を研究していました。その結果出た結論は、いたってシンプルです。時間をかけてじっくりと対象者をレムの精神に馴らしていき、レムを受け入れられる状態になったら融合するというものでした」
確かにシンプルだ。
「それ以前は、接続してすぐに融合をしようとしていました。その結果、精神に異常をきたして廃人となる人が続出したのです。ただ、安全に精神融合を行うにはそれだけでは駄目でした」
まだ条件があるのか?
「融合する精神は、厳格に選別する必要があったのです」
選別?
「例えば、あまりにも身勝手な人間を融合すると、レム全体に悪影響が出る恐れがあります。だから、融合する前にその者の精神を調べて、融合しても安全だと思った者だけを融合する事になったのです。あるいは刑務所に入った私を接続しなかったのは、選別された結果かもしれません」
だから矢納課長は融合されないのか。
しかし、確かに安全ではあるが、それって『全人類の心を一つにする』という目的から完全に逸脱していないか?
「そう。完全に逸脱しています。選別した場合、レムと適合できる人間は一割いるかいないか。本来の目的である恒久平和の実現など到底不可能です」
だったら、止めればいいのに……
「おそらくレムも、全人類の融合は無理という事は分かっているのでしょう。それでも、精神融合を続けているのは、せめて自分だけでも超生命体となって、その力で人類を支配下に置こうと考えているものと思われます。つまり、彼の行き着くところは結局のところ……」
独裁者か。
「なるほど。ブレインレターで奴の傀儡にされてしまった人達を見たのですね」
僕は無言に頷いた。
「確かにブレインレターを使って、ある程度の洗脳は可能ですが、レムがブレインレターで行っていたのは洗脳ではありません」
なんだって!? 洗脳ではない?
「そもそもブレインレターを使って洗脳を行うには、洗脳対象者に合わせていろいろと細かい調整が必要です。レムがブレインレターを使ってやっていたのは、脳間通信機能を覚醒させて自分と接続状態にすることだったのです。私も最初は、レムと接続されていましたが洗脳はされていません」
「今は接続されていないのですか?」
「当然です。接続されていたら、ナンモ解放戦線のリーダーなんかできませんよ」
ごもっとも……
「三十年ほど前、私とレムの接続はなんの前触れもなく突然切れました。接続が切れたのは私だけではありません。私と一緒に研究をしていた人達全員の接続が一斉に切れたのです。後で分かったのですが、その時にレムの入っていたコンピューターの一つが電磁パルス攻撃で破壊されたのです。それによって私たちはレムから解放され自由の身になりました」
やったのは、カルカの人達だな。
「ただ、電磁パルス攻撃によって破壊されたのはレムの器となっていたコンピューターだけでなく、私たちが暮らしていた研究施設の電気系統すべてが駄目になってしまったのです。やっとの事で、研究施設を出た私たちは、その時になって初めて自分たちはベイス島という孤島にいる事を知ったのです」
ベイス島! レムのコンピューターセンターがあった一つだ。
「島から出る手段はなく、私たちはその後五年ほどベイス島で農作物を育て、魚を捕って暮らしていました。レムの事は不安でしたが、その後何の音沙汰もなかったのでレムは滅びたと思っていたのです。そうでない事を知ったのは、島で暮らして五年後。通りがかったナーモ族の船に乗せられて大陸に渡ってからです。レムは滅びるどころか巨大な帝国を築いていました。ただ、地球の科学文明を失ってしまったらしく、かなり文明は後退していました。しかし、この惑星の住民にとって、黒色火薬も驚異的な兵器です。私たちはナーモ族、プシダー族と手を結んで、帝国と戦うための組織を作り機会を待ちました。そして一年後、機会が訪れたのです。空から大量のビラが降ってきたことにより、私たち以外の地球人が来た事を知りました」
ちょうど、《イサナ》が到着した時だな。
「しかし、時期尚早だったようです。隕石攻撃の後、帝国に戦いを挑みましたが、仲間たちは次々と倒されていき一年後には組織は散り散りになってしまったのです。その後も小さな抵抗運動を続けていましたが、七年ほど前に私は捕らえられて投獄されてしまいました。それからは、孫娘たちに救出されるまで刑務所で過ごしていたのです」
「刑務所の中で、接続はされなかったのですか?」
「それはありませんでした。なぜそれをやらなかったのか不明ですが」
「そうですか。ところで、レムに接続された人達の精神はそのまま残っているのですか?」
「そうです」
「では、接続を断てば元通りに……」
「必ずしも元通りになるとは限りません」
え?
「レムはブレインレターを洗脳には使っていません。しかし、脳間通信機能を通じて、時間を掛けて洗脳しているのです。ですから、接続されて一年程度の人なら接続を断てば元に戻れますが、長く接続されていた人を元に戻すのは難しいでしょう」
「長くって……具体的にどのくらいですか」
「人によりますが、五年から十年ですね」
「でも、あなたたちは……」
「私たちは接続されている間も洗脳はされなかったのです」
なぜ?
「レムが脳間通信機能を通じて時間をかけて洗脳をするようになったのは、私たちの研究成果によるものなのです」
どういう事だ?
「私たちはレムに命じられて安全に精神融合をする方法を研究していました。その結果出た結論は、いたってシンプルです。時間をかけてじっくりと対象者をレムの精神に馴らしていき、レムを受け入れられる状態になったら融合するというものでした」
確かにシンプルだ。
「それ以前は、接続してすぐに融合をしようとしていました。その結果、精神に異常をきたして廃人となる人が続出したのです。ただ、安全に精神融合を行うにはそれだけでは駄目でした」
まだ条件があるのか?
「融合する精神は、厳格に選別する必要があったのです」
選別?
「例えば、あまりにも身勝手な人間を融合すると、レム全体に悪影響が出る恐れがあります。だから、融合する前にその者の精神を調べて、融合しても安全だと思った者だけを融合する事になったのです。あるいは刑務所に入った私を接続しなかったのは、選別された結果かもしれません」
だから矢納課長は融合されないのか。
しかし、確かに安全ではあるが、それって『全人類の心を一つにする』という目的から完全に逸脱していないか?
「そう。完全に逸脱しています。選別した場合、レムと適合できる人間は一割いるかいないか。本来の目的である恒久平和の実現など到底不可能です」
だったら、止めればいいのに……
「おそらくレムも、全人類の融合は無理という事は分かっているのでしょう。それでも、精神融合を続けているのは、せめて自分だけでも超生命体となって、その力で人類を支配下に置こうと考えているものと思われます。つまり、彼の行き着くところは結局のところ……」
独裁者か。
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