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第十二章

まだ終わっていなかった。

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 相模原月菜はヘッドホンを装着して、しばらくの間無言で盗聴記録を聞いていた。

 五分ほど経過した時……

「この音は?」

 どうしたんだ?


 相模原月菜はヘッドホンを僕に差し出した。

「ちょっと聞いてみて」

 言われるままに僕はヘッドホンを装着した。

 聞こえてきたのは、成瀬真須美と帝国軍の提督代理の男の会話。

『お呼びですか?』
『ナルセか。この町で、これ以上の奴隷調達は打ち切る事にしたよ』

 昨日も聞いた会話だ。

「これがなにか?」

 ヘッドホンを外して相模原月菜に訪ねた。

「よく聞いて。会話と会話の間に、カサカサって音が聞こえない?」
「え?」

 もう一度ヘッドホンを装着。

 聞こえる。確かに……カサカサという音が……

「この音は?」
「ペンが紙の上を走る音」
「え? という事は……」
「こいつら筆談していたのよ。もっともらしい事を喋りながら……」

 なんだって?

「成瀬真須美が部屋に入った当たりから、その音が始まったわ」

 盗聴には、かなり最初の方から気がついていたのか。

「弾薬がない事を逃げ出す理由に上げているけど、あまりにもとってつけたような理由ね。筆談で逃げる相談をしていたと思うわ。それと、成瀬真須美は最後に盗聴していたのを北村君だと見破ったような事を言っているけど、これは自信があって言っているのではないわね。二通りのパターンを考えて言っているのだと思う」

 二通り?

「まず一つは、もし盗聴しているのが、ナンモ解放戦線のスパイ……つまり私達だとしたら、『あ! こいつ勘違いしているな。しかも、こっちをただの盗賊団だと思っているようだ。ならば、追いかけてくるとは思うまい。次の寄港先で待ち伏せしてやろう』と考えて帝国艦隊の次の寄港先へ先回りしようとするでしょうね。そして、待ち伏せを予想した艦隊は、次の寄港先を素通りするでしょう」

 もう一つは?

「盗聴しているのが君だった場合、君なら町を守るために戦ってくれると読んだ。実際にそうなったし。おそらく、あいつらはナンモ解放戦線の実力をほぼ掴んでいたと思う。だから、逃げる事にしたのだと思うけど、ただ逃げるだけでなくて、カルカから追撃してきた君をぶつけて同士討ちさせる事を企んだのね」

 なるほど、まんまと乗せられたわけか。

「この筋書きを書いたのは古淵だと思うわ。私達は彼の掌で踊らされていたのよ」
「まあ、だいたいの事情は分かった。とにかく、艦隊が逃げたのなら、もうロータスに用はないだろう。この軍団は引き上げてくれるのだね?」
「もちろんよ。まあ、決めるのは私ではないけど」

 蹄の音が聞こえてきたのはその時。

 女の子の乗った馬が近づいてくる。

 あの女の子は……キーラ・ソコロフ? どうしたのだろう?

 キーラは馬から降りて、相模原月菜に駆け寄った。

「おばあちゃんはどこ?」

 レイラ・ソコロフを探しているのか?

「まだ、役所の中にいるけど、何かあったの? キーラ」
「停戦命令を無視して、ロータスに攻め込もうとしている奴らがいるんだよ!」
「え?」

 まだ、戦いは終わっていなかったようだ。
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