397 / 893
第十二章
盗聴
しおりを挟む
「Pちゃん?」
『私は、ご主人様の翻訳ディバイスとリンクして話しております。それと私は今、ポケットの中にはいません』
「じゃあ、どこに?」
『テーブルの下です』
ベッドから身を乗り出して、テーブルの下を覗いた。
最初に目に入ったのは、僕のリュックサック。
そこから引っ張り出されたと思われるタブレットPCと、Pちゃんの頭がケーブルでつながっていた。別のケーブルがPCから伸びて、盗聴器用のアンテナとつながっている。
『ご主人様。ミールさん。盗聴器の電波を受信しました。今から、お二人の翻訳ディバイスに送ります』
イヤホンから聞こえてきたのは、木の床を踏みしめる足音。船長はどこかの建物内の廊下を歩いているようだ。
足音が複数聞こえる。三人~五人くらいかな?
『あの……なぜ、提督とはお会いできないのですか?』
女の声……これは町長だな。
船長の声がこれに答える。
『もう、今さら隠すまでもないから話しておこう。提督のオルゲルト・バイルシュタイン中将は戦死された。おまえ達がこれからお会いするのは提督代理だ』
バイルシュタインの戦死は伏せられていたようだな。
やがて、若い男の声が聞こえてきた。
この若い男が提督代理のようだ。
しばらく話し合いが続いた後、提督代理は『検討しておく』と言って町長らを帰した。
その後……
『おい。すぐに日本人達を呼べ』
成瀬真須美達に、なんの用だろう?
程なくして、扉の開く音が聞こえた。
『お呼びですか?』
女の声……これは成瀬真須美だな。
『ナルセか。この町で、これ以上の奴隷調達は打ち切る事にした』
なに?
『漕ぎ手のいない船が四隻残っている。済まないが、今夜にでも艦隊は出発するから、もうしばらく《アクラ》で曳航していてくれ』
なんだって!? こいつ逃げる気か?
『私はかまいませんけど、なにがあったのですか?』
『盗賊団だ。盗賊団がこの町に迫っている。ロータスの町はそれと戦うために戦闘奴隷を集めているのだ。その為に奴隷の調達が難しくなっている』
おい! おまえらが盗賊団を討伐すれば回してくれるという話だろ。
『盗賊団? では、帝国軍の戦力で討伐すれば……』
『戦力が残っていると思っているのか?』
『ないのですか? カルカでかなりの戦死者は出ましたが、盗賊を討伐するぐらいの人数は……』
『人数はともかく、もう弾薬がないのだ。ロータスの町で硝石と木炭を買い付けたが、硫黄が入手できないので弾薬を調合できない。残っている弾薬だけでは、まともに戦えない』
『だから逃げると?』
『無駄な戦いで、これ以上戦死者を出せるか』
『では、私達のロボットスーツとドローンで爆撃して、盗賊団の戦力を削いで……』
『話は最後まで聞け。この町にファースト・エラがいるという話は聞いているか?』
『ええ。最初に再生されたエラ・アレンスキーですよね。よりによって、この町に現れたとか……』
『そうだ。軍法会議にかけられる前に脱走した後、行方不明になっていた奴だ。しかも、今分かった事だが、奴は盗賊団に加わっていたらしい。盗賊団を討伐するとなるとエラとも戦う事になる』
『あの……提督代理』
船長がおずおずと口を挟んだ。
『どういう事です? エラ・アレンスキーが軍法会議にかけられたとか……最初に再生されたとか……』
『ち! おまえは知らなかったのだな』
スラ!
サヤから刃物を抜く音?
『て……提督代理! なにを……』
『この場で誓え。ここで聞いた事は絶対に口外するな』
『誓います! 誓いますから、剣を納めて下さい』
『いいだろう。だが、艦隊内でこの噂が広まった時は真っ先に貴様を殺す。たとえ、貴様が情報漏洩に関わっていなくてもな』
『そんな無茶な』
『情報が漏れなければ済む事だ。分かったら、おまえも情報が漏れないように気を配れ』
この提督代理、バイルなんたらより冷酷だな……
『ついでだから、教えておいてやる。エラ・アレンスキーは帝国がその存在を否定しているコピー人間だ。しかも、三十年前に禁忌を破って八人作られた』
『なんですと!?』
『それをやったのは、亡くなったオルゲルト・バイルシュタイン中将と、その兄である俺の父だ』
冷酷だと思ったら、あいつの甥だったのか。
『父は今、国防大臣の職にあるが、いずれは帝国の実権を握る予定だ。そんな時に、過去の不祥事が明るみになると色々とやっかいなのだよ』
『さ……さようで……』
『さて、ここまで知った以上、貴様も仲間になってもらうぞ』
『は?』
『嫌か? 嫌なら仕方ない』
『いえ、なります。仲間にして下さい』
『いいだろう。さて、ナルセ。邪魔が入ったな。どこまで話した?』
『ファースト・エラが盗賊団に入ったというところまでですが……』
『そうか。奴はどうやら、魔法回復薬の原料を求めてこの町に来たらしい。しかも、すでに入手したようだ』
何だって?
『私は、ご主人様の翻訳ディバイスとリンクして話しております。それと私は今、ポケットの中にはいません』
「じゃあ、どこに?」
『テーブルの下です』
ベッドから身を乗り出して、テーブルの下を覗いた。
最初に目に入ったのは、僕のリュックサック。
そこから引っ張り出されたと思われるタブレットPCと、Pちゃんの頭がケーブルでつながっていた。別のケーブルがPCから伸びて、盗聴器用のアンテナとつながっている。
『ご主人様。ミールさん。盗聴器の電波を受信しました。今から、お二人の翻訳ディバイスに送ります』
イヤホンから聞こえてきたのは、木の床を踏みしめる足音。船長はどこかの建物内の廊下を歩いているようだ。
足音が複数聞こえる。三人~五人くらいかな?
『あの……なぜ、提督とはお会いできないのですか?』
女の声……これは町長だな。
船長の声がこれに答える。
『もう、今さら隠すまでもないから話しておこう。提督のオルゲルト・バイルシュタイン中将は戦死された。おまえ達がこれからお会いするのは提督代理だ』
バイルシュタインの戦死は伏せられていたようだな。
やがて、若い男の声が聞こえてきた。
この若い男が提督代理のようだ。
しばらく話し合いが続いた後、提督代理は『検討しておく』と言って町長らを帰した。
その後……
『おい。すぐに日本人達を呼べ』
成瀬真須美達に、なんの用だろう?
程なくして、扉の開く音が聞こえた。
『お呼びですか?』
女の声……これは成瀬真須美だな。
『ナルセか。この町で、これ以上の奴隷調達は打ち切る事にした』
なに?
『漕ぎ手のいない船が四隻残っている。済まないが、今夜にでも艦隊は出発するから、もうしばらく《アクラ》で曳航していてくれ』
なんだって!? こいつ逃げる気か?
『私はかまいませんけど、なにがあったのですか?』
『盗賊団だ。盗賊団がこの町に迫っている。ロータスの町はそれと戦うために戦闘奴隷を集めているのだ。その為に奴隷の調達が難しくなっている』
おい! おまえらが盗賊団を討伐すれば回してくれるという話だろ。
『盗賊団? では、帝国軍の戦力で討伐すれば……』
『戦力が残っていると思っているのか?』
『ないのですか? カルカでかなりの戦死者は出ましたが、盗賊を討伐するぐらいの人数は……』
『人数はともかく、もう弾薬がないのだ。ロータスの町で硝石と木炭を買い付けたが、硫黄が入手できないので弾薬を調合できない。残っている弾薬だけでは、まともに戦えない』
『だから逃げると?』
『無駄な戦いで、これ以上戦死者を出せるか』
『では、私達のロボットスーツとドローンで爆撃して、盗賊団の戦力を削いで……』
『話は最後まで聞け。この町にファースト・エラがいるという話は聞いているか?』
『ええ。最初に再生されたエラ・アレンスキーですよね。よりによって、この町に現れたとか……』
『そうだ。軍法会議にかけられる前に脱走した後、行方不明になっていた奴だ。しかも、今分かった事だが、奴は盗賊団に加わっていたらしい。盗賊団を討伐するとなるとエラとも戦う事になる』
『あの……提督代理』
船長がおずおずと口を挟んだ。
『どういう事です? エラ・アレンスキーが軍法会議にかけられたとか……最初に再生されたとか……』
『ち! おまえは知らなかったのだな』
スラ!
サヤから刃物を抜く音?
『て……提督代理! なにを……』
『この場で誓え。ここで聞いた事は絶対に口外するな』
『誓います! 誓いますから、剣を納めて下さい』
『いいだろう。だが、艦隊内でこの噂が広まった時は真っ先に貴様を殺す。たとえ、貴様が情報漏洩に関わっていなくてもな』
『そんな無茶な』
『情報が漏れなければ済む事だ。分かったら、おまえも情報が漏れないように気を配れ』
この提督代理、バイルなんたらより冷酷だな……
『ついでだから、教えておいてやる。エラ・アレンスキーは帝国がその存在を否定しているコピー人間だ。しかも、三十年前に禁忌を破って八人作られた』
『なんですと!?』
『それをやったのは、亡くなったオルゲルト・バイルシュタイン中将と、その兄である俺の父だ』
冷酷だと思ったら、あいつの甥だったのか。
『父は今、国防大臣の職にあるが、いずれは帝国の実権を握る予定だ。そんな時に、過去の不祥事が明るみになると色々とやっかいなのだよ』
『さ……さようで……』
『さて、ここまで知った以上、貴様も仲間になってもらうぞ』
『は?』
『嫌か? 嫌なら仕方ない』
『いえ、なります。仲間にして下さい』
『いいだろう。さて、ナルセ。邪魔が入ったな。どこまで話した?』
『ファースト・エラが盗賊団に入ったというところまでですが……』
『そうか。奴はどうやら、魔法回復薬の原料を求めてこの町に来たらしい。しかも、すでに入手したようだ』
何だって?
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる