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第十二章

過去の経緯 3

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「ところで、北村海斗さん。聞くところによると、あなたは、二十一世紀初頭に取られた生データから作られたそうね」

 え? アーニャは、なぜそんな事を気にするのだ?

「そうですけど」
「では、知らない事が、まだいろいろとあるのじゃないかしら? なぜ地球人が、近隣恒星系に亜光速宇宙船を送るようになったかとか」

 そういえば、聞いてなかったな。

 Pちゃんは、人型筐体に移った時に、その手のデータが無くなってしまったし、ミクにその手の説明をしてもらうのは止めた方がいいと赤目が言っていたし、香子と再会してから、ゆっくり話をする機会がなかったし……

「いい機会だし、教えてもらってもいいですか?」
「良いわよ。何から聞きたいかしら?」
「まず。科学技術について、亜光速宇宙船を使っているという事は、人類は光の速度を超える事は出来なかったのですか?」

 アーニャは首を横にふった。

 という事は光の速度を超える事は出来たのか? じゃあなんで亜光速宇宙船なんか?

「光の速度を超える事は成功しました。ワームホールを使って」
「ワームホール? ワープじゃなくて?」
「ワームホールです。二十一世紀後半に月の溶岩洞窟内で異星人の残した時空穿孔機と、エキゾチック物質が発見されました。これによって、ワームホールの利用が可能になったのです」
「ワームホールが使えるなら、なんで亜光速宇宙船なんか使うのですか?」
「ワームホールは、どこにつながるか分からないという困った問題があります」
「え? そうなんですか?」
「時空穿孔機を使って、量子ワームホールを拡大しても、それがどこにつながっているのか予測する事はできないのです。それともう一つ、距離の問題もあります」
「距離?」
「ワームホールが繋がるのは一光年以内の近距離か、三十五光年以上の遠距離になります。一光年から三十五光年の間の宙域にはなぜか繋がらないのです」

 便利なようで不便だな。

「したがって、太陽系近郊恒星系に行くのにワームホールは使えません。しかし、いつかは他のワームホールを経由して繋がるかもしれない。そこで、ワームホールが繋がる前に、近郊恒星系に亜光速宇宙船を送り込んでコピー人間を入植させてしまえば、その惑星の権利を独占できます。そんな思惑から、各国は近郊恒星系に亜光速宇宙船を送り送むようになったのです。それはタウ・セチに限りません。アルファケンタウリ・プロクシマ、バーナード、ウォルフ359、ラランド21185、シリウスと片っ端から船を出しました」
「ちょっと待って下さい」
「なんでしょう?」
「船を出したはいいけど、宇宙条約では国による天体の領有は禁止されているはずでしょ」
「ええ。だから、国連からの信託統治という形で惑星を統治するのです」
「それって、事実上植民地では?」
「そうなりますね」
「それに、僕がデータを取られた後で、宇宙条約には知的生命体のいる恒星系を侵略する事を禁止する条項が加わったと聞いたけど」
「侵略は禁止されていますが、知性体との交渉は禁じられていません。交渉の末、入植の許可を取れたら入植できます」

 そういえば、章 白龍も似たような事を言っていた。

 しかし、なんか納得いかない。ナーモ族をうまく騙して、禁じられた言葉を言わせて惑星ごと巻き上げようなというメ○ィ○スみたいな事をする奴だっているかも……
 
 そんな話をしている間に料理はかなり減ってきていた。

 不意にレイホーが立ち上がる。

「みんな。そろそろ飲茶にするね」

 飲茶の用意もしていたのか。

「ロンロン。飲茶持ってきて」

 レイホーが《水龍》に向かって叫ぶと返事が返ってきた。

『了解しました。レイホー様』

 この声、確かに《水龍》のAIだな。
 しかし、どうやって持って来るのだ?
 潜水艦のハッチが開いて、一人の少年が出てくる。
 その姿を見て、ミクが声を上げた。

「白龍君!?」

 それは、少年時代の章 白龍の姿をしていた。   
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