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第十一章

人工知能ロンロン誕生(天竜過去編)

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 医療室に着いた時、アーニャとすれ違った。

「や……やあ……」

 ぎこちなく挨拶した僕を見て、アーニャは驚いたような顔をする。

「白龍君! なぜ医療室に!?」
「え?」
「まさか! 私があんな事をしたせいで……」

 あんな事? キスの事だと思うけど……キスしたぐらいで、なんで医療室に行くような事になると思うのだろう?
 まさか!? この子変な病気を……いやいや、そんなはずはない!
 アーニャは、絶対そんな女じゃない!

「ああ、違うから」

 楊さんが間に入ってきた。

「あれから白龍君の身体は検査したけど、プルトニウムは出なかったから」
「そうでしたか」

 二人とも何を言ってるんだ? アーニャの体内にプルトニウムはあったけど、それは人に移るような物じゃないし……

「それより、アーニャの方はどう?」
「私は、問題なかったようです。今のところは……」
「そう。よかった」
「それでは」

 アーニャは通路の奥に消えていく。

「楊さん。今のどういう事です?」
「問題ないから、黙ってようと思っていたのだけどな」
「黙っていていい問題じゃないでしょ。プルトニウムってどういう事です? 確かに《朱雀》が帰った後、僕だけ検査されたので変だと思っていたけど……」
「聞いても、アーニャの事を嫌いにならないであげてほしい」
「どういう事です? 嫌いになるって?」
「彼女……医者から当分の間、キスはしないように止められていた」
「なぜ?」
「除染用ナノマシンは、体内の放射性物質を回収した後、尿や汗から排出されるのだけど、中には涙や唾液から出てくることもある」
「え?」
「つまり、キスをすると相手に放射性物質を移す危険があったわけだ」
「ええ!?」

 だから、キスの後で謝ったのか。

「まあ《朱雀》に乗り込んだ時点では、もうほとんど除染は終わっていたけど、念のためにキスはしないように医者から言われていたわけ」
「悪気はなかったのですよね?」
「無かったと思う。少なくとも、君に移す気なんてなくて、衝動的にキスしてしまったようだ」
「いいです。それなら」
「白龍君は心が広いな。身体は小さいけど……」

 僕達は医療室に入った。

 スキャナーを頭に取り付けられながら、僕は念を押すように楊さんに言う。  

「僕の記憶から人工知能AIを作るのは良いとして、それに「章 白龍」と名付けないで下さいよ。僕の記憶をベースにしたってバレバレになるし……」
「いいじゃないか。プログラマーにはどうせ分かってしまうし、プログラマー以外の人には、ラッキースケベの記憶は見られないし……」
「だーかーらー! ラッキースケベ言うなあ!」
 
 結局、人工知能AIの名称は龍龍ロンロンになった。
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