上 下
290 / 828
第十章

敵船に侵入

しおりを挟む
「芽依ちゃん。一分経ったら、この船から離れよう」
「でも、敵があんな事をわざわざ言ってきたのは、やはり船を失いたくないからです」
「分かっている。でも、奴はやるだろう」

 時計に目をやる。残り、五十秒。

 それにしても妙だ。この船の船員は、さっぱり撃ってこない。甲板からこっちの様子を見ようともしない。

「ブースト!」

 船腹に穴を開けて船内に入ると、ナーモ族の漕ぎ手がいるだけ。

「帝国人は?」

 いきなり船腹をぶち破って入ってきた僕の姿に驚いているナーモ族に尋ねた。

「逃げた」

 ナーモ族は上を指さした。

「ありがとう」

 天井をぶち破って、上の階層に出た。火薬の樽と大砲があるだけで、人の姿はない。
 さらに天井をぶち破って甲板に出ると、帝国人がボートを降ろして逃げ出そうとしているところだった。

「芽依ちゃん!」

 火薬の樽を持って船腹の穴から出るなり、僕は芽依ちゃんに呼びかけた。

「すぐに、この船から離れる。盾を構えて」
「はい……でも……」
「船員が船の反対側から脱出している。全員降りたら、レーザーを撃つ気だ」

 なんのかんの言ってもやはり、帝国人の犠牲はなるべく出したくないようだ。

「それと、チャフを放出して」
「はい」

 チャフを放出しながら、僕達は船尾の方へ移動した。

「一、二の三で飛び出すよ」
「はい」

 呼吸を整えて……

「一、二の三!」

 僕達は船の陰から飛び出した。同時に僕は火薬の樽を投げつける。
 レーザーは僕達ではなく、火薬樽の方へ向かった。ミサイルと勘違いしたのだろう。
 
 しかし、なかなか当たらない。

 レーダーの精度も、かなり落ちているようだ。

 レーザー攪乱幕として蒔いた金属箔は、同時にレーダーを妨害する効果も期待していたが、どうやら期待通りの効果があったようだ。

 ようやく、火薬樽にレーザーが命中。空中で爆発すると同時に、あたりが黒煙に包まれる。いい煙幕になった。これで、しばらくは光学照準も使えないぞ。

 実際、煙幕の中を、レーザー光線が動き回っているのが見えるが、でたらめなところばかりを狙っている。

「芽依ちゃん。あの船の陰に」

 僕は一隻の船を指さした。

「はい……でも……」
「レーダーが使えなくなった上に、煙幕で僕らの姿を見失った今なら、《マカロフ》からは僕らがどの船の陰に隠れるか分からないはずだ」
「なるほど。そうですね」

 煙幕が晴れる前に、僕らは木造船の陰に隠れた。
 当然、僕らに気がついた船員達は銃撃をしてくるが…… 
 
「ブースト!」

 船腹を、ぶち破って船内に入った。
 漕ぎ手のナーモ族と、その見張り役の帝国人が驚いてこっちを見る。

「おい!」

 逃げようとした見張り役の襟首を掴んで持ち上げた。

「苦しい! 放してくれ!」
「船長のところへ案内しろ! 僕は話をしたいだけだ」
「分かった。案内するから、降ろしてくれ」
「北村さん。この人達は、どうします?」

 後から入って来た芽依ちゃんは、ナーモ族の漕ぎ手達を指さしていた。
 みんな鎖で足をつながれている。

「おい! 鍵はどこだ?」

 僕は男の方に向き直る。

「鍵って?」
「とぼけるな! 今すぐ死にたいか?」
「鎖の鍵なら、そこだが……」

 男の指さす柱に、鍵がかかっていた。

「芽依ちゃん。鎖を外してあげてくれ」
「はい」
「おい! やめろ! こいつらを逃がしたら、俺が罰を受けるんだ」
「罰を受けるのと、今すぐここで死ぬのと、どっちがいい?」
「罰を受ける方が……いいです」

 分かればよろしい。
 
 その場に芽依ちゃんを残して、僕は男の案内で船長室へ向かった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:136

異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1,180

ベテラン冒険者のおっさん、幼女を引き取り育てて暮らす

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,362

【完結】理想の人に恋をするとは限らない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:1,185

京都駅で獏を見た。

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...