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第十章
敵からの呼びかけ
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「北村さん! 危ない!」
芽依ちゃんが新たに展開した盾を持って、僕と《マカロフ》軸先上に割り込むのと、敵のレーザーが来るのと、ほぼ同時だった。
「ありがとう。芽依ちゃん」
僕はロケットランチャーを盾の陰から、上に向けて発射した。
一度、上昇したロケットは、プログラムに従い《マカロフ》に向けて進路を変える。
ロケットはすぐに撃ち落とされたが、レーザー攪乱幕はさらに濃密になった。
「芽依ちゃん。あの船の陰に」
「はい」
僕たちは木造船の陰に隠れた。
だが、敵はまったく躊躇することなく、レーザーで木造船を引き裂く。
くそ! 敵の船シールドが通じないとは、なんて奴!
逃げてくる味方がいるにも関わらず水門を開くような奴だから、味方の命なんかなんとも思っていないのかもしれない。
そうはいっても、他に逃げ場のない僕らは、すぐに隣の船の陰に隠れた。
その船にも、レーザーが撃ちこまれる。この時、弾薬にレーザーが直撃したのか、船は木っ端みじんに吹っ飛んだ。
「あいつ! 味方の命をなんとも思っていないのか!? 敵の陰に隠れても無駄なのか?」
「大丈夫です。北村さん。後、二~三隻犠牲にすれば、攻撃は止みます」
「なぜ?」
「私を信じて下さい」
芽依ちゃんを信じて、僕らは船から船へと飛び回った。
そして三隻目の陰に隠れた時、攻撃はピタっと止む。
「芽依ちゃん。なぜ分かった?」
「敵は何の葛藤もなく、味方の船を攻撃したわけではないと思います。たぶん、苦渋の選択だったかと……」
「というと?」
「私たちに『味方の船は盾にはならないぞ』と思わせるために、敢えて数隻犠牲にするつもりだったのだと思います。しかし、数隻では済まなくなったので、攻撃は止んだのかと」
「なるほど」
「自分が敵ならどう考えるか考えるようにと、よく北村さんに言われていましたから」
「僕に?」
「はい」
前の僕はそんな偉そうな事を言っていたのか……いや、それも人生経験の差かな? 肉体年齢は同じでも、向こうは二百年の経験がある。
「北村さん。敵のレーザーは撹乱幕の影響で四十パーセント威力が落ちています。盾はもう一枚ありますが、攻撃をかけますか?」
芽依ちゃんは、折り畳まれた対レーザーシールドを展開した。
ボロボロになった盾を捨てようとする。
「ちょっと待って。それ貸して」
「え?」
僕は芽依ちゃんが捨てようとした盾を受け取ると上に放り投げた。
盾は船の陰から飛び出してから敵のレーザーを受ける。
「ちょっとでも、船の陰から出たら撃たれるか」
「ですから、盾を……」
「盾は後一つしかない。船の陰から出られるのは、後一回だけ。奴がしびれを切らして、攻撃をしてくるのを待とう」
「そうですね」
「時間を稼げば、《水龍》に残ったミールとミクが《マカロフ》を叩いてくれるはずだ」
時計を見ると、僕達が《水龍》を飛び出して六分経過している。《水龍》の性能ならそろそろ……
不意に通信が入った。
この周波数は!?
『船の後ろに隠れているネズミに告ぐ』
通信機から帝国語で、中年男性の声が流れる。
『私は帝国海軍提督オルゲルト・バイルシュタイン中将。君らの勇戦を湛えよう。ところで、君らは何かを忘れてはいないかね?』
何の事だ? とりあえず、返事はしないでおこう。こっちの電波を逆探知して居場所を確認する気かもしれない。芽衣ちゃんにも、そう合図した。
『我々がナーモ族を奴隷にしているという事を忘れていないかね? そして君達日本人はナーモ族を、守りたいのではなかったかな?』
何を言いたいんだ? こいつ……
『日本人は、我々にナーモ族奴隷解放を要求しているな。いや、実にあっぱれな正義感だ。なので、おかしいと思ったのだよ。そんな正義感溢れる君達が、あっさりとナーモ族を犠牲にするのでね』
ナーモ族を犠牲? まさか!?
『もしかして、君達は気が付いていないのかと思ってね。そして、親切な私は攻撃を一時中断して、君達に大切な事を教えてあげようと思って呼びかけたのだよ。よく聞きたまえ。我々の船では、ナーモ族奴隷を漕ぎ手に使っているのだ』
なんだって!?
『ナーモ族奴隷が乗っている船を、あっさり盾にするところを見ると、君達はそれを知らなかったようだね。ああ! 私の言っている事が嘘かどうかは、船の沈んだ辺りを見れば分かる。君達の使っているロボットスーツという装備なら、その機能があるだろう』
奴の言う通りだった。船の沈んだ辺りでは、木片にナーモ族たちが掴まって浮いている。
帝国人の乗っている救命ボートに縋ろうとするナーモ族が蹴落とされていた。
『さあ。どうする? 一分だけ待ってやる。一分経っても出てこない時は、君達の隠れている船を攻撃する』
くそ! どうすれば……
芽依ちゃんが新たに展開した盾を持って、僕と《マカロフ》軸先上に割り込むのと、敵のレーザーが来るのと、ほぼ同時だった。
「ありがとう。芽依ちゃん」
僕はロケットランチャーを盾の陰から、上に向けて発射した。
一度、上昇したロケットは、プログラムに従い《マカロフ》に向けて進路を変える。
ロケットはすぐに撃ち落とされたが、レーザー攪乱幕はさらに濃密になった。
「芽依ちゃん。あの船の陰に」
「はい」
僕たちは木造船の陰に隠れた。
だが、敵はまったく躊躇することなく、レーザーで木造船を引き裂く。
くそ! 敵の船シールドが通じないとは、なんて奴!
逃げてくる味方がいるにも関わらず水門を開くような奴だから、味方の命なんかなんとも思っていないのかもしれない。
そうはいっても、他に逃げ場のない僕らは、すぐに隣の船の陰に隠れた。
その船にも、レーザーが撃ちこまれる。この時、弾薬にレーザーが直撃したのか、船は木っ端みじんに吹っ飛んだ。
「あいつ! 味方の命をなんとも思っていないのか!? 敵の陰に隠れても無駄なのか?」
「大丈夫です。北村さん。後、二~三隻犠牲にすれば、攻撃は止みます」
「なぜ?」
「私を信じて下さい」
芽依ちゃんを信じて、僕らは船から船へと飛び回った。
そして三隻目の陰に隠れた時、攻撃はピタっと止む。
「芽依ちゃん。なぜ分かった?」
「敵は何の葛藤もなく、味方の船を攻撃したわけではないと思います。たぶん、苦渋の選択だったかと……」
「というと?」
「私たちに『味方の船は盾にはならないぞ』と思わせるために、敢えて数隻犠牲にするつもりだったのだと思います。しかし、数隻では済まなくなったので、攻撃は止んだのかと」
「なるほど」
「自分が敵ならどう考えるか考えるようにと、よく北村さんに言われていましたから」
「僕に?」
「はい」
前の僕はそんな偉そうな事を言っていたのか……いや、それも人生経験の差かな? 肉体年齢は同じでも、向こうは二百年の経験がある。
「北村さん。敵のレーザーは撹乱幕の影響で四十パーセント威力が落ちています。盾はもう一枚ありますが、攻撃をかけますか?」
芽依ちゃんは、折り畳まれた対レーザーシールドを展開した。
ボロボロになった盾を捨てようとする。
「ちょっと待って。それ貸して」
「え?」
僕は芽依ちゃんが捨てようとした盾を受け取ると上に放り投げた。
盾は船の陰から飛び出してから敵のレーザーを受ける。
「ちょっとでも、船の陰から出たら撃たれるか」
「ですから、盾を……」
「盾は後一つしかない。船の陰から出られるのは、後一回だけ。奴がしびれを切らして、攻撃をしてくるのを待とう」
「そうですね」
「時間を稼げば、《水龍》に残ったミールとミクが《マカロフ》を叩いてくれるはずだ」
時計を見ると、僕達が《水龍》を飛び出して六分経過している。《水龍》の性能ならそろそろ……
不意に通信が入った。
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通信機から帝国語で、中年男性の声が流れる。
『私は帝国海軍提督オルゲルト・バイルシュタイン中将。君らの勇戦を湛えよう。ところで、君らは何かを忘れてはいないかね?』
何の事だ? とりあえず、返事はしないでおこう。こっちの電波を逆探知して居場所を確認する気かもしれない。芽衣ちゃんにも、そう合図した。
『我々がナーモ族を奴隷にしているという事を忘れていないかね? そして君達日本人はナーモ族を、守りたいのではなかったかな?』
何を言いたいんだ? こいつ……
『日本人は、我々にナーモ族奴隷解放を要求しているな。いや、実にあっぱれな正義感だ。なので、おかしいと思ったのだよ。そんな正義感溢れる君達が、あっさりとナーモ族を犠牲にするのでね』
ナーモ族を犠牲? まさか!?
『もしかして、君達は気が付いていないのかと思ってね。そして、親切な私は攻撃を一時中断して、君達に大切な事を教えてあげようと思って呼びかけたのだよ。よく聞きたまえ。我々の船では、ナーモ族奴隷を漕ぎ手に使っているのだ』
なんだって!?
『ナーモ族奴隷が乗っている船を、あっさり盾にするところを見ると、君達はそれを知らなかったようだね。ああ! 私の言っている事が嘘かどうかは、船の沈んだ辺りを見れば分かる。君達の使っているロボットスーツという装備なら、その機能があるだろう』
奴の言う通りだった。船の沈んだ辺りでは、木片にナーモ族たちが掴まって浮いている。
帝国人の乗っている救命ボートに縋ろうとするナーモ族が蹴落とされていた。
『さあ。どうする? 一分だけ待ってやる。一分経っても出てこない時は、君達の隠れている船を攻撃する』
くそ! どうすれば……
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