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第九章

芽衣VSエラ(過去編)

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 芽衣のロボットスーツが、砂漠を低空で飛んでいた。
 その直上では、ステルスドローンが飛行し、ロボットスーツにデータを送り続けている。
 敵がレーダーを持っている以上、こっちのレーダー波もキャッチされるはず。
 だから、こちらからはレーダー波を出さず、逆探のみを使っていた。
 不意にロボットスーツが砂漠に降りる。
 ドローンもその直上で、旋回飛行を始めた。
 砂漠に落ちていた物体を、芽衣は拾い上げる。
 ドローンの残骸だった。

「これは?」

 高温によって装甲が溶けていた。

「違う! これは、レーザーなんかじゃない」 

 まるで、雷にでも撃たれたような壊れようだ。

 突如、芽衣の背筋に悪寒が走る。
 その感覚を、芽衣は知っていた。
 特に根拠はないが、誰かが自分を狙っている。
 その誰かが放つ殺気を感じたのだ。

「ジャンプ!」

 芽衣は高々と飛び上がった。
 その直後、今まで芽衣のいた場所に白い光球が着弾する。
 
「イナーシャルコントロール 0G」

 芽衣は三十メートルの高さに滞空し、敵の姿を求めた。

「いた」

 騎兵隊だった。数は十騎。その先頭の一騎が異様な殺気を放っている。

「何者です!?」

 返事など期待していなかった。ただ、芽衣は思わず口に出してしまったのだ。
 だが、相手は返事をした。兜を取って……

「礼儀を知らぬ奴だな」

 兜の下から現れたのは女だった。歳は四十代ぐらい。整った顔立ちをしている。

「人に名を尋ねる時は、先に自分から名乗るのが礼儀だろう」
「これは、失礼しました」
 
 芽衣は素直に謝る。

「私はリトル東京防衛隊、機動服中隊所属、森田芽衣一尉です」
「そっちが、名乗った以上こちらも名乗らねばなるまい。私は帝国陸軍魔法中隊所属、エラ・アレンスキー大尉」

 時代劇を見ているみたいだと芽衣は思った。この女が時代劇マニアだと知るのは、もっと後の事になる。

「魔法!? 帝国軍に、魔法使いが?」
「ナーモ族や、ブシダー族の魔法使いには散々苦しめられたからな。我々も魔法を軍事利用することにしたのだよ。お前が持っている飛行機械も、先ほど私の魔力で撃墜したのだ」
「そんな事を、私に喋ってしまっていいのですか?」
「これから死んでいく者に、何を喋ったところでどうという事あるまい」

 エラは両手を前に突き出した。その掌が発光する。

「なにをするのです?」

 光球が芽衣に向かってきた。
 それにどんな威力があるかは分からないが、触れたらただでは済まないという事だけは分かった。

「ホバー」

 芽衣は、ホバー機能で移動して光球を避ける。

 それを見てエラは猟奇的な笑みを浮かべた。

「これを避けられるかな?」
 
 エラの周辺に、十個の光球が出現して向かってきた。
「イナーシャルコントロール マイナス二G」
 芽衣は急上昇して光球から逃れる。
「ワイヤーガン セット ファイヤー」

 ワイヤーガンの弾丸が命中すると、光球はシャボン玉のように爆ぜる。

「これは!」

 ワイヤーガンを撒き戻して先端の弾丸を見ると、高温で融解していた。
 芽衣は確信した。一万度の高温は、あの光球によるものに間違いない。

 芽衣は下を見下ろした。
 エラが馬上で、芽衣に向かって何かを叫んでいる。
 集音マイクのスイッチを入れた。
「こらあ! 降りてこい! 降りてきて私と勝負しろ! 怖くて降りて来れないのか! この卑怯者! それでも、男か!」

 芽衣はスピーカーのスイッチを入れた。

「私は女です!」
「なに?」
「でも、卑怯者ではありません。勝負します!」

 この時、芽衣の脳裏に、海斗に言われた言葉が過った。

『芽衣ちゃん。戦いに卑怯もへったくりもない。卑怯と言われようが、生き延びた者の勝ちだよ』

(それなら、卑怯者に徹して下さいよ、北村さん。死んだら、何もならないじゃないですか)
 
 芽衣は、エラを睨みつけてコマンド叫ぶ。

「イナーシャルコントロール二G」 

 芽衣はエラに向かって急降下する。
 その動きにエラの対応は遅れた。
 慌てて、光球を放つがことごとく外れる。
 芽衣は砂漠にぶつかる直前で停止した。
 芽衣はショットガンを構えると、砂塵を巻き上げて低空飛行で突進。
 エラの周囲にいた騎兵が、銃撃をするが、そんな物ではロボットスーツの装甲を貫けない。
 逆に芽衣の銃撃で、二人の騎兵が倒される。

「お覚悟!」

 エラを狙ってトリガーを引いた。
 だが、次の瞬間、光の壁がエラの周囲に出現。

「え?」

 芽衣は光の壁を掠めたが、バイザーにエラー報告が現れる。

「通信機がやられた!?」

 空中に制止して振り返ると、無傷のエラがそこにいた。

「ショットガンが通じない?」

 このまま、勝負を続けるべきか? いや、自分の任務は偵察。絶対に生きて帰らなければならない。

「エラ・アレンスキーさん。先ほど、私は卑怯者ではないと言いましたね」
「ああ、そうだ。さあ、勝負を続けろ」
「あれは嘘です」
「なに?」
「では、さようなら」
「こらあ! またんか! この卑怯者!」
「ほめ言葉と取っておきます」
 
 芽衣はフル加速で戦場を離脱した。
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