262 / 848
第九章
偵察任務 (過去編)
しおりを挟む
今すぐシーバ城まで行って確かめたい。
本当に城は爆破されたのか?
海斗は来ているのか?
思いは募るが、今の香子にはそんな時間も手段もなかった。
帝国軍がカルカシェルターのすぐ近くまで迫っていたのだ。
シェルターの防御態勢を固めるために、カルカシェルターへ物資を輸送するのに使っていたヘリはとうとう燃料がなくなり、砂漠に放置することになってしまっていた。
「芽衣ちゃん、なんとかなりそう?」
シェルター内で、二人に割り当てられた部屋に香子が入った時、芽衣はテーブルの上で古い電子レンジを解体していたところだった。
「ダメでした。マグネトロンを取り出したのですが、壊れていました」
二人はカルカシェルターの中にあったガラクタで、母船と交信できる通信機が作れないかと悪戦苦闘していたのだ。
「そっか。母船は無理としても、リトル東京と連絡可能な通信機は作れない?」
「カルカの町にいるときに何度か試みたのですが、無理でした」
香子は、大きくため息をついた。自分が寝込んでいる間に、芽衣はやるべき事をやっていたのだ。
(五年の間に変わったな。この子も……)
電脳空間にいる時の芽衣は、海斗など問題にならないほどの重度のコミ症。
地球でデータを取られたオリジナルが、入学以来一度も登校していない、重度の引きこもり女子高生なのだから無理もない。
勉強はできるが、人と接するのがとにかく苦手だった。
そんな彼女が、この惑星に降りてから五年の間に随分変わったものだ。
とくにカルカに来てからは、寝込んでいる香子に変わって様々な交渉ごとをこなしてきた。
「人って、変われば変わるものね」
「何がですか?」
芽衣は、不思議そうに香子を見つめた。
「なんでもないわ。交信はあきらめるとして、モールス信号でSOSを送れないかしら?」
「どっちにしろ、マグネトロンが手に入らないことには……」
「そっか」
「レーダーに使っているマグネトロンを、分けてもらえないでしょうか?」
「それは無理よ。帝国軍が攻めてくるというのに、貴重なレーダーを解体できないわ」
「ですよね。でも、レーダー必要なのですか?」
「それがね。今回奴らはドローンを飛ばしているのよ」
「カルルさんが持ち出したカートリッジで作ったのでしょうか?」
「他に考えられないわね」
その時、インターホンの呼び出し音が鳴った。
画面に現れたのは楊 美雨。
『ロボットスーツで、偵察に出てもらいたいの。いいかしら?』
「ロボットスーツで? という事は、ドローンでは手に負えない状況になったと考えていいのですか?」
『ええ。ちょっと、この動画を見て』
インターホンの画面に、砂漠の様子が映っていた。
ドローンからの空撮映像だ。
遠くの方にオアシスが見えてくる。
オアシス周辺を拡大すると、帝国軍の宿営地があるのが分かった。
しかもその宿営地には、屋根にソーラーパネルのある電動車両が何台も停車している。
「あいつら、プリンターでこんな物まで作ったのね」
『この時、ドローンはレーダー波をキャッチしたの』
「レーダー?」
『帝国軍がそんな物を持っているなんて思っていなくて、高度を上げ過ぎていたわ。急いで、高度を落としてレーダー波から逃れたの。そしたら』
画面に帝国軍の騎兵隊が映った。人数は十人ほど。騎兵たちは一斉に銃を構えた。
『フリントロック銃ごときで、ドローンは落とせない。そう思っていたわ』
実際、撃ってきたが弾は当たらない。当たっても、ドローンの装甲を貫けなかった。しかし……
突然、映像が発光し、直後ブラックアウトした。
「何があったのです?」
香子の質問に、楊は首を横にふる
『何があったか、分からないから困っているの。ミサイルでも対空砲でもないわ。ただ、ドローンのセンサーがロストする寸前に、一万度の高温を感知したのよ』
「一万度!?」
香子は芽衣の方へ振り返った。
「芽衣ちゃん。どう思う?」
「レーザー兵器ではないでしょうか?」
『レーザーとも、違うみたいなのよ。ただの故障とも思えないし……』
「分かりました。私が偵察に行ってきます」
「芽衣ちゃん。大丈夫なの? ロボットスーツだって、無敵じゃないのよ」
「大丈夫とは言えませんが、ドローンよりマシだと思います。九九式の装甲は磁性流体とセラミックの複合装甲。レーザーの一発や二発なら耐えられます」
そう言って、芽衣はカルカシェルターから飛び立った。
本当に城は爆破されたのか?
海斗は来ているのか?
思いは募るが、今の香子にはそんな時間も手段もなかった。
帝国軍がカルカシェルターのすぐ近くまで迫っていたのだ。
シェルターの防御態勢を固めるために、カルカシェルターへ物資を輸送するのに使っていたヘリはとうとう燃料がなくなり、砂漠に放置することになってしまっていた。
「芽衣ちゃん、なんとかなりそう?」
シェルター内で、二人に割り当てられた部屋に香子が入った時、芽衣はテーブルの上で古い電子レンジを解体していたところだった。
「ダメでした。マグネトロンを取り出したのですが、壊れていました」
二人はカルカシェルターの中にあったガラクタで、母船と交信できる通信機が作れないかと悪戦苦闘していたのだ。
「そっか。母船は無理としても、リトル東京と連絡可能な通信機は作れない?」
「カルカの町にいるときに何度か試みたのですが、無理でした」
香子は、大きくため息をついた。自分が寝込んでいる間に、芽衣はやるべき事をやっていたのだ。
(五年の間に変わったな。この子も……)
電脳空間にいる時の芽衣は、海斗など問題にならないほどの重度のコミ症。
地球でデータを取られたオリジナルが、入学以来一度も登校していない、重度の引きこもり女子高生なのだから無理もない。
勉強はできるが、人と接するのがとにかく苦手だった。
そんな彼女が、この惑星に降りてから五年の間に随分変わったものだ。
とくにカルカに来てからは、寝込んでいる香子に変わって様々な交渉ごとをこなしてきた。
「人って、変われば変わるものね」
「何がですか?」
芽衣は、不思議そうに香子を見つめた。
「なんでもないわ。交信はあきらめるとして、モールス信号でSOSを送れないかしら?」
「どっちにしろ、マグネトロンが手に入らないことには……」
「そっか」
「レーダーに使っているマグネトロンを、分けてもらえないでしょうか?」
「それは無理よ。帝国軍が攻めてくるというのに、貴重なレーダーを解体できないわ」
「ですよね。でも、レーダー必要なのですか?」
「それがね。今回奴らはドローンを飛ばしているのよ」
「カルルさんが持ち出したカートリッジで作ったのでしょうか?」
「他に考えられないわね」
その時、インターホンの呼び出し音が鳴った。
画面に現れたのは楊 美雨。
『ロボットスーツで、偵察に出てもらいたいの。いいかしら?』
「ロボットスーツで? という事は、ドローンでは手に負えない状況になったと考えていいのですか?」
『ええ。ちょっと、この動画を見て』
インターホンの画面に、砂漠の様子が映っていた。
ドローンからの空撮映像だ。
遠くの方にオアシスが見えてくる。
オアシス周辺を拡大すると、帝国軍の宿営地があるのが分かった。
しかもその宿営地には、屋根にソーラーパネルのある電動車両が何台も停車している。
「あいつら、プリンターでこんな物まで作ったのね」
『この時、ドローンはレーダー波をキャッチしたの』
「レーダー?」
『帝国軍がそんな物を持っているなんて思っていなくて、高度を上げ過ぎていたわ。急いで、高度を落としてレーダー波から逃れたの。そしたら』
画面に帝国軍の騎兵隊が映った。人数は十人ほど。騎兵たちは一斉に銃を構えた。
『フリントロック銃ごときで、ドローンは落とせない。そう思っていたわ』
実際、撃ってきたが弾は当たらない。当たっても、ドローンの装甲を貫けなかった。しかし……
突然、映像が発光し、直後ブラックアウトした。
「何があったのです?」
香子の質問に、楊は首を横にふる
『何があったか、分からないから困っているの。ミサイルでも対空砲でもないわ。ただ、ドローンのセンサーがロストする寸前に、一万度の高温を感知したのよ』
「一万度!?」
香子は芽衣の方へ振り返った。
「芽衣ちゃん。どう思う?」
「レーザー兵器ではないでしょうか?」
『レーザーとも、違うみたいなのよ。ただの故障とも思えないし……』
「分かりました。私が偵察に行ってきます」
「芽衣ちゃん。大丈夫なの? ロボットスーツだって、無敵じゃないのよ」
「大丈夫とは言えませんが、ドローンよりマシだと思います。九九式の装甲は磁性流体とセラミックの複合装甲。レーザーの一発や二発なら耐えられます」
そう言って、芽衣はカルカシェルターから飛び立った。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

平和国家異世界へ―日本の受難―
あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。
それから数年後の2035年、8月。
日本は異世界に転移した。
帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。
総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる――
何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。
質問などは感想に書いていただけると、返信します。
毎日投稿します。
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる