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第九章

偵察任務 (過去編)

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 今すぐシーバ城まで行って確かめたい。
 本当に城は爆破されたのか?
 海斗は来ているのか?

 思いは募るが、今の香子にはそんな時間も手段もなかった。
 帝国軍がカルカシェルターのすぐ近くまで迫っていたのだ。
 シェルターの防御態勢を固めるために、カルカシェルターへ物資を輸送するのに使っていたヘリはとうとう燃料がなくなり、砂漠に放置することになってしまっていた。
 
「芽衣ちゃん、なんとかなりそう?」

 シェルター内で、二人に割り当てられた部屋に香子が入った時、芽衣はテーブルの上で古い電子レンジを解体していたところだった。

「ダメでした。マグネトロンを取り出したのですが、壊れていました」

 二人はカルカシェルターの中にあったガラクタで、母船と交信できる通信機が作れないかと悪戦苦闘していたのだ。

「そっか。母船は無理としても、リトル東京と連絡可能な通信機は作れない?」
「カルカの町にいるときに何度か試みたのですが、無理でした」

 香子は、大きくため息をついた。自分が寝込んでいる間に、芽衣はやるべき事をやっていたのだ。

(五年の間に変わったな。この子も……)

 電脳空間サイバースペースにいる時の芽衣は、海斗など問題にならないほどの重度のコミ症。
 地球でデータを取られたオリジナルが、入学以来一度も登校していない、重度の引きこもり女子高生なのだから無理もない。
 勉強はできるが、人と接するのがとにかく苦手だった。
 そんな彼女が、この惑星に降りてから五年の間に随分変わったものだ。
 とくにカルカに来てからは、寝込んでいる香子に変わって様々な交渉ごとをこなしてきた。

「人って、変われば変わるものね」
「何がですか?」

 芽衣は、不思議そうに香子を見つめた。

「なんでもないわ。交信はあきらめるとして、モールス信号でSOSを送れないかしら?」
「どっちにしろ、マグネトロンが手に入らないことには……」
「そっか」  
「レーダーに使っているマグネトロンを、分けてもらえないでしょうか?」
「それは無理よ。帝国軍が攻めてくるというのに、貴重なレーダーを解体できないわ」
「ですよね。でも、レーダー必要なのですか?」
「それがね。今回奴らはドローンを飛ばしているのよ」
「カルルさんが持ち出したカートリッジで作ったのでしょうか?」
「他に考えられないわね」

 その時、インターホンの呼び出し音が鳴った。
 画面に現れたのは楊 美雨。

『ロボットスーツで、偵察に出てもらいたいの。いいかしら?』
「ロボットスーツで? という事は、ドローンでは手に負えない状況になったと考えていいのですか?」
『ええ。ちょっと、この動画を見て』

 インターホンの画面に、砂漠の様子が映っていた。
 ドローンからの空撮映像だ。
 遠くの方にオアシスが見えてくる。
 オアシス周辺を拡大すると、帝国軍の宿営地があるのが分かった。
 しかもその宿営地には、屋根にソーラーパネルのある電動車両が何台も停車している。

「あいつら、プリンターでこんな物まで作ったのね」
『この時、ドローンはレーダー波をキャッチしたの』
「レーダー?」
『帝国軍がそんな物を持っているなんて思っていなくて、高度を上げ過ぎていたわ。急いで、高度を落としてレーダー波から逃れたの。そしたら』

 画面に帝国軍の騎兵隊が映った。人数は十人ほど。騎兵たちは一斉に銃を構えた。

『フリントロック銃ごときで、ドローンは落とせない。そう思っていたわ』

 実際、撃ってきたが弾は当たらない。当たっても、ドローンの装甲を貫けなかった。しかし……

 突然、映像が発光し、直後ブラックアウトした。

「何があったのです?」

 香子の質問に、楊は首を横にふる

『何があったか、分からないから困っているの。ミサイルでも対空砲でもないわ。ただ、ドローンのセンサーがロストする寸前に、一万度の高温を感知したのよ』
「一万度!?」

 香子は芽衣の方へ振り返った。

「芽衣ちゃん。どう思う?」
「レーザー兵器ではないでしょうか?」
『レーザーとも、違うみたいなのよ。ただの故障とも思えないし……』
「分かりました。私が偵察に行ってきます」
「芽衣ちゃん。大丈夫なの? ロボットスーツだって、無敵じゃないのよ」
「大丈夫とは言えませんが、ドローンよりマシだと思います。九九式の装甲は磁性流体とセラミックの複合装甲。レーザーの一発や二発なら耐えられます」

 そう言って、芽衣はカルカシェルターから飛び立った。
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