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第九章

芽衣、奮戦する (過去編)

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 次の砲撃は、城壁に命中して大穴を空けた。
 香子は双眼鏡で敵を探す。
「いた」
 小高い丘の上に、十門の青銅砲が並んでいた。
「香子さん。どうですか?」
「次弾を装填している。すぐに次の攻撃がくるわ」
「では、その前にやっつけてきます」
「芽衣ちゃん!」
 香子が双眼鏡から目を離して振り向くと、芽衣はヘリコプターの中に入っていくところだった。
「装着!」
 程なくして、桜色のロボットスーツが出てくる。
「香子さん。敵はどっちですか?」
「あっちよ」
 香子が呼びさす方向を見た。
 映像を拡大する。
 砲兵たちの姿を確認。
「それでは、ちょっと殲滅してきます」
「無理をしちゃダメよ」
「分かっています。イナーシャルコントロール0G」
 ロボットスーツは、ふわりと空中に浮きあがる。
 屋上から二メートルほど浮き上がったところで砲兵陣地を睨みつけた。
「イナーシャルコントロール・プロモーション二G」
 ロボットスーツは、勢いよく飛び出していく。
 速度は、瞬く間に時速五百キロを超えた。
 だが、速度を出し過ぎたために、砲兵陣地を飛び越えてしまい、反転して戻ってくる事になってしまう。
 そして、戻ってきた時には次弾の装填が終わり、砲撃を再開するところだった。
「させません」
 芽衣はショットガンを抜いた。
 フルオートで砲兵たちを薙ぎ払う。
「滅しなさい! 消えなさい! くたばりなさい! この悪魔!」
 芽衣は地表に降りると、大砲を持ち上げた。
「うわわ!」「化け物!」
 芽衣は大砲を投げつける。
 芽衣を『化け物』呼ばわりした兵士は、その重みでつぶされた。
 芽衣は翻訳機を、日本語 ⇔ 帝国語にセットする。
「あなた達は、なんでこんな酷い事をするのですか!」
「酷いのは、おまえだろ!」
「おだまりなさい!」
 芽衣は隣の大砲を、口答えした兵士に投げつけた。
「あなた達だって、地球人なのでしょう!」
 芽衣は言いながら、次の大砲を持ち上げた。
「地球を出る時に、国連の人達から言われたはずです! 余所の惑星の人達を苛めてはいけないって。なんで、それを守れないんですかあ!」
「違う! 我々は地球人ではない」
「嘘おっしゃい」
 嘘を付いた兵士は、芽衣の投げつけた大砲につぶされた。
「撃て!」
 騎兵隊が近づいてきて、芽衣に向かって一斉射撃。
 しかし、フリントロック銃ではロボットスーツに通じない。
 芽衣はショットガンを抜いて、騎兵隊を薙ぎ払った。
「下手な嘘はお止めなさい! 帝国語なんて人工言語で私達を騙せるなどと思っているのですか! あなた達の嘘は、すべてお見通しです!」
 芽衣は次の大砲を持ち上げた。
 そこへ槍を構えた兵士達が向かっていく。
 隊長が芽衣に向かって叫んだ。
「ごちゃごちゃ煩いぞ。化け物! この世界は強い奴が勝つんだよ。弱い奴は死んで当然なんだよ」
「弱い者は、死んで当然ですって?」
「ああ、そうさ」
 芽衣は大砲を、野球のバットのように構えた。
「ならば、ここで私があなたを殺しても、文句はないという事ですね」
「しまったあ!」
 自分の死刑執行令状に自分でサインするような事を言ってしまった事に気が付いた時にはもう遅い。
 芽衣が振った大砲に吹っ飛ばされ、隊長は遥か彼方まで飛んで行った。
「もし、異星人が地球にやってきて、侵略を始めたらどう思います? 辛いでしょ、苦しいでしょ、悲しいでしょ。自分がやられて嫌な事を、どうしてあなた達はするんですかあ?」
 大砲を振り回し、兵士達を追いたてながら、ヘルメットの中で芽衣は涙を流していた。
 本当は、誰も傷つけたくなんかない。人殺しなんかしたくない。
 しかし、帝国兵を殺さなければ、こいつらはさらに多くの人を傷つけ、多くの人が殺される。
 それを防ぐには、こいつらを殺すしかなかった。
  
『芽衣ちゃん、応答して』

 通信機から香子の声が聞こえてきた時には、丘の上に動く兵士はいなかった。

「香子さん、私……」
『王子と王妃が乗り込んだわ。すぐに飛び立つから戻ってきて』
「分かりました」

 芽衣は城に向かって飛び去っていった。
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