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第九章
逃避行 (過去編)
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「城に戻れ! 僕を城に戻すんだあ!」
城の上空でホバリングしているヘリに芽衣が戻ると、身なりの良いナーモ族の少年が騒いで、侍従と女官を困らせていた。
「香子さん。何があったのですか?」
芽衣は、操縦席の香子に尋ねる。
「どうも、こうも……みんな王子様には遊覧飛行だと言って、このヘリに乗せようとしていたのよ」
「ええ?」
「無理もないわ。本当は、城が落ちるから脱出するなんて言えないわね」
「でも、王子様は知っているみたいですよ」
「寸前で、誰かが王子様にばらしたらしいの。それで王子様は城中を逃げ回って、やっと捕まえて連れてきたのよ」
「それで、遅くなったのですね」
振り向くと、少年は涙を流していた。
「嫌だ! 僕を城に戻して……みんな死んじゃう……殺されちゃう……」
パシッ!
乾いた音が響いた。
さっきから黙っていた王妃が、王子の頬を叩いたのだ。
「母上?」
「男の子がいつまでも、泣いてるんじゃありません!」
「でも、このままだと、父上も、叔父上も、ミールもみんな殺されてしまいます」
「あなたが、城に戻って、何ができるのです?」
「それは……」
「あなたがいても、足手まといになるだけですよ」
「……」
王妃は、香子たちの方を向いた。
「あなた達には、お手数をかけました。気にせずに全速で城から離れて下さい」
「はい」
香子はヘリの速度を上げた。
城はあっという間に小さくなっていく。
窓の外を見ると、数頭のベジドラゴンが並走して飛んでいた。
その背中には、同じく城から脱出したナーモ族の民間人が乗っていて、ヘリに向かって手を振っている。
芽衣も、ベジドラゴンの方へ手を振った。
「あれで、もっと多くの人を、逃がせなかったのでしょうか?」
芽衣の何気ない呟きに王妃が答える。
「ベジドラゴンの長老が、戦争に巻き込まれるのを恐れて、仲間たちに城へ行く事を禁じたのです」
「では、あのドラゴンさん達は?」
「一部の漢気あるベジドラゴン達が、長老に逆らって駆けつけて来てくれたのです」
「そうだったのですか」
翡翠色に輝く翼竜達は、やがてヘリから離れて行った。
ヘリはしばらく間、鬱蒼とした森林地帯の上を飛び続けていく。
やがて、森林が途切れ草原地帯に入ったところで、香子は一度ヘリを着陸させた。
燃料が無くなったわけではない。
先ほどの砲撃でやられた箇所の点検をするためだ。
脚立に登って砲弾のぶつかった個所を見た芽衣は、ため息をつく。
「芽衣ちゃん。治せそう?」
脚立の下から、声をかける香子に芽衣は首を横にふって答えた。
「ダメです。アンテナが丸ごと無くなっています。プリンターがないと治せません」
プリンターもカートリッジも、リトル東京へ返すヘリに積んでしまったためここにはなかったのだ。
「そう」
芽衣は、脚立から降りてきた。
「他の機能は問題ないのですが、母船との通信だけはできません」
「困ったわね」
「幸いなことにP0371のデータだけは、砲撃を受ける直前に母船に送る事が出来ました」
「P0371? なにそれ?」
「すみません。言ってなかったですね。先日、私が作った人工知能です」
「そんなもの、どうするの?」
「実は、北村さんを再生してほしいとお願いしたときに、電脳空間の北村さんは『カルルと戦う事になるのは嫌だ』と言ったのです。だがら、カルルさんと出会う前のデータから再生してはと提案したのですが……」
「それは無理ね。海斗は電脳空間で目覚めた時、最初にカルルと会っているの。だから、カルルと会っていないセーブデータは無いのよ」
「いいえ、一つだけあります」
「一つだけ?」
「スキャナーで読み取った直後の生データなら……」
「ダメよ! そんな事をしたら。それで再生されたコピー人間は、二十一世紀の日本から、いきなりこんな惑星に連れてこられたと認識するわよ」
「分かっています。だから、生データから作られた北村さんが困らない様に補佐するための人工知能を作ったのです」
「それが、P0371とか言うの?」
「はい。香子さんの記憶をベースに作りました。専用のアンドロイドも、電脳空間の私が用意しています」
香子は、しばらく考え込んだ。
もし、自分が二十一世紀の日本からこんな惑星に放り出されたら、どう思うか?
きっと、混乱してパニックに陥るに違いない。
絶望して死にたくなるかも知れない。
海斗なら、あるいは順応してくれるかもしれない。
それでも、そうとう苦労するだろうし、勝手な都合で再生した自分を恨むかもしれない。
「やっぱり、海斗の再生は止めさせないと。生データから作るなんて、海斗が可哀そうよ」
「でも……」
「私なら大丈夫だから……」
「でも、通信機が治せないのですよ」
「そうだったあ!」
香子は頭を抱えた。
「芽衣ちゃん。こうなったら、急いでカルカに行きましょう。《天竜》の人たちに会えれば、プリンターを借りられるかも知れない」
「はい」
二人はヘリに乗り込み一路カルカを目指したのだった。
城の上空でホバリングしているヘリに芽衣が戻ると、身なりの良いナーモ族の少年が騒いで、侍従と女官を困らせていた。
「香子さん。何があったのですか?」
芽衣は、操縦席の香子に尋ねる。
「どうも、こうも……みんな王子様には遊覧飛行だと言って、このヘリに乗せようとしていたのよ」
「ええ?」
「無理もないわ。本当は、城が落ちるから脱出するなんて言えないわね」
「でも、王子様は知っているみたいですよ」
「寸前で、誰かが王子様にばらしたらしいの。それで王子様は城中を逃げ回って、やっと捕まえて連れてきたのよ」
「それで、遅くなったのですね」
振り向くと、少年は涙を流していた。
「嫌だ! 僕を城に戻して……みんな死んじゃう……殺されちゃう……」
パシッ!
乾いた音が響いた。
さっきから黙っていた王妃が、王子の頬を叩いたのだ。
「母上?」
「男の子がいつまでも、泣いてるんじゃありません!」
「でも、このままだと、父上も、叔父上も、ミールもみんな殺されてしまいます」
「あなたが、城に戻って、何ができるのです?」
「それは……」
「あなたがいても、足手まといになるだけですよ」
「……」
王妃は、香子たちの方を向いた。
「あなた達には、お手数をかけました。気にせずに全速で城から離れて下さい」
「はい」
香子はヘリの速度を上げた。
城はあっという間に小さくなっていく。
窓の外を見ると、数頭のベジドラゴンが並走して飛んでいた。
その背中には、同じく城から脱出したナーモ族の民間人が乗っていて、ヘリに向かって手を振っている。
芽衣も、ベジドラゴンの方へ手を振った。
「あれで、もっと多くの人を、逃がせなかったのでしょうか?」
芽衣の何気ない呟きに王妃が答える。
「ベジドラゴンの長老が、戦争に巻き込まれるのを恐れて、仲間たちに城へ行く事を禁じたのです」
「では、あのドラゴンさん達は?」
「一部の漢気あるベジドラゴン達が、長老に逆らって駆けつけて来てくれたのです」
「そうだったのですか」
翡翠色に輝く翼竜達は、やがてヘリから離れて行った。
ヘリはしばらく間、鬱蒼とした森林地帯の上を飛び続けていく。
やがて、森林が途切れ草原地帯に入ったところで、香子は一度ヘリを着陸させた。
燃料が無くなったわけではない。
先ほどの砲撃でやられた箇所の点検をするためだ。
脚立に登って砲弾のぶつかった個所を見た芽衣は、ため息をつく。
「芽衣ちゃん。治せそう?」
脚立の下から、声をかける香子に芽衣は首を横にふって答えた。
「ダメです。アンテナが丸ごと無くなっています。プリンターがないと治せません」
プリンターもカートリッジも、リトル東京へ返すヘリに積んでしまったためここにはなかったのだ。
「そう」
芽衣は、脚立から降りてきた。
「他の機能は問題ないのですが、母船との通信だけはできません」
「困ったわね」
「幸いなことにP0371のデータだけは、砲撃を受ける直前に母船に送る事が出来ました」
「P0371? なにそれ?」
「すみません。言ってなかったですね。先日、私が作った人工知能です」
「そんなもの、どうするの?」
「実は、北村さんを再生してほしいとお願いしたときに、電脳空間の北村さんは『カルルと戦う事になるのは嫌だ』と言ったのです。だがら、カルルさんと出会う前のデータから再生してはと提案したのですが……」
「それは無理ね。海斗は電脳空間で目覚めた時、最初にカルルと会っているの。だから、カルルと会っていないセーブデータは無いのよ」
「いいえ、一つだけあります」
「一つだけ?」
「スキャナーで読み取った直後の生データなら……」
「ダメよ! そんな事をしたら。それで再生されたコピー人間は、二十一世紀の日本から、いきなりこんな惑星に連れてこられたと認識するわよ」
「分かっています。だから、生データから作られた北村さんが困らない様に補佐するための人工知能を作ったのです」
「それが、P0371とか言うの?」
「はい。香子さんの記憶をベースに作りました。専用のアンドロイドも、電脳空間の私が用意しています」
香子は、しばらく考え込んだ。
もし、自分が二十一世紀の日本からこんな惑星に放り出されたら、どう思うか?
きっと、混乱してパニックに陥るに違いない。
絶望して死にたくなるかも知れない。
海斗なら、あるいは順応してくれるかもしれない。
それでも、そうとう苦労するだろうし、勝手な都合で再生した自分を恨むかもしれない。
「やっぱり、海斗の再生は止めさせないと。生データから作るなんて、海斗が可哀そうよ」
「でも……」
「私なら大丈夫だから……」
「でも、通信機が治せないのですよ」
「そうだったあ!」
香子は頭を抱えた。
「芽衣ちゃん。こうなったら、急いでカルカに行きましょう。《天竜》の人たちに会えれば、プリンターを借りられるかも知れない」
「はい」
二人はヘリに乗り込み一路カルカを目指したのだった。
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