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イレイザー最終決戦編

閑話 なんちゃって漁業

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 イレイザーを倒した後、俺はひたすらに事後処理に追われていた。

 そしてその中でも特に優先すべき内容……それはドラゴンへの報酬である。

 イレイザーとの戦いだけでなくて、予定にないベフォメット国への進軍にもつきあわせたのがまずかった。

 勤務外労働手当と超過労働手当を要求してきやがった!

 しかも超割りマシマシだぞ! だが……ここで払わないとドラゴン便がサボタージュされかねない。

 せっかく動き始めたドラゴン便を止めるのは困るので、報酬を支払うしかないのである。

 だが……奴らの報酬は何も金銭だけではない。

 美味いメシを出すことも奴らとの契約であり、金は入用なので物で済ませることにした。

 そんなわけで俺達は……再び戦艦一隻で大海原に繰り出している。

 魚を捕獲してドラゴンへの飯とすることで、金の出費を減らす作戦だ。

 今のフォルン領は対イレイザーによって強力な海軍を抱えているのだ、これを利用しない手はない!

「さあ釣り糸を垂らせ! ドラゴンのエサを釣って釣りまくれ!」

 俺が拡声器を手に取り、船員たちに甲板から指示を出す。

 戦艦は運航をやめて停止して、みんな釣り糸を垂らし始めた。

 普通の漁船に比べて戦艦は甲板から海面までかなり距離が離れているが……そこはセサルお手製の釣り竿なのでなんかうまくやってるらしい。

 紐すごく伸ばしてるけど切れないらしい、すごい。

「たまにはこういうのも乙なものでござるな。浮世を気にせずノビノビと」

 センダイも釣り竿を構えて気楽そうに呟く。

 だが俺はわりと必死に何だがな? ここでの釣り成果が悲惨だと、フォルン領の財政が圧迫されるんだが?

 まあいい、今日の主戦力はこいつらではない。

 戦艦の上から釣ったところで釣れる魚の量などたかが知れている。

 それよりも……もっと効率よく確実に大物を捕獲する手段がある!

「カーマ、ラーク、エフィルン! 準備はいいな?」
「う、うう……恥ずかしい」
「…………」
「大丈夫です」

 彼女らは水着に着替えて甲板に立っていた。

 カーマとラークは色違いのセパレート、エフィルンはビキニ。

「エフィルンはともかく、お前たちはそこまで露出ないだろ」
「他の人が普通の服なのに、ボクたちだけ水着なのがまず恥ずかしいの!」
「じゃあ野郎どもも水着にするか? 誰得のムサムサしい上半身裸祭りになるけど」
「……別にいいや」

 カーマたちは少し嫌な顔をして顔をそむけた。

 そもそも彼女らだけ水着な理由は、船から離れて空飛んでもらうためである。

 船の近くにいる男どもに比べて、海に落ちたら助ける手段にとぼしい。野郎どもは水着でなくても何とかなる。

 なので彼女らは普通の服だと危ないから水着なのだ。決して俺の趣味ではない。

 魔法で空飛んでるのに水に落ちることがあるのかは知らない。

「よし! 三人とも、大物を狙ってくれ! でかければでかいほどいいぞ! 魔法漁業の始まりだ!」
「いいけど……これって漁業なの?」
「いっぱい魚捕獲できれば何でも漁業だろ」

 少し何か言いたげなカーマだったが、納得したのか甲板から飛び立っていく。

 ラークとエフィルンもそれに続いたので、後は彼女らの成果を期待するだけである。

「姉さま、あっちに魚の群れがいるよ」
「ん」

 カーマが指さした先のあたりの海を、ラークが魔法で氷漬けにした。

 これは読心魔法で魚の心を読んで場所を把握する……魚群探知レーダーかお前は。

 なんだろうなー、カーマの使い道がとことんフォルン領とかみ合わない。

 うちの領は海に面してないので、今後はあまり漁業を行うことは難しいだろうし……。

 そうして氷漬けにした箇所を、カーマが炎の剣で海から切り抜いた。

 そうしてくり抜かれた全長6mほどありそうな巨大な氷の山を、彼女らは二人がかりで海へと落とした。

 そうしてからカーマが氷の山に背を預けて、火炎放射を手から噴射して船の近くまで運んできた……なんだその魔法の使い方は。

「どう? これで足りる?」

 カーマたちが運んだ氷の中を甲板の上から覗くと、全長60cmほどの魚が大量に泳いでいた。

 魚群全部氷に閉じ込めてるのもすごいけど……普通に魚泳いでるよこれ。あれか、外側だけ氷漬けにして中は普通の水温なのか。

 氷が水槽代わりとは……鮮度がやべぇな。

「いやまだまだ。ドラゴンに腹を満たすなら雑魚より大物が欲しい」
「大物ってどれくらい?」
「全長2mくらいのマグロとか。あるいはクジラとか……は流石にいないか」

 クジラなんて捕獲できたら最高なんだけどな。

 大量の肉の塊だしドラゴンの腹をしばらく満たせる。

 だが流石に捕獲するのは難しいだろう。クジラって海中に潜ってることが多いイメージだし。

「ねえねえ、クジラってすごく大きいの?」
「すごい大きい。まるで小さな島のような魚でな。実は厳密に言うと魚じゃない」
「よくわからないけど……それってあれのこと?」

 カーマが指さした先では……遠くで巨大な魚がお化けワカメに絡めとられて海の上に吊るされていた。

 ……わけの分からない光景に幻覚かと目をこするが、いくらこすってもクジラがワカメによって海上に吊るされていた。

 急いで指示を出してそのワケワカメな場所に近づくと。

「主様、大きい魚が捕れました。これでいかがでしょうか?」

 ワカメのそばにいたエフィルンが甲板に降りてきた。

 なるほど、彼女のワカメがクジラを捕縛したのか。

 そういえば同じような方法で、イレイザーも捕縛してたっけ……光景が衝撃的過ぎて忘れていた。

「ああ……十分だ、十分なんだが……」
「どうしたの? クジラが欲しいって言ってたじゃない」
「いやそうなんだけど……これどうやって持って帰るんだ……?」

 でかい、デカすぎる。こんなの戦艦で引っ張っても無理では?

「ご安心ください。ワカメで陸上まで運べます」

 俺の懸念をエフィルンが払しょくしてくれるが……どうやってワカメが動くんだ……。

 そんなことを考えていると、ワカメがクジラを釣り上げたまま海を進み始めた。

 わけわからんがなんかいけるみたい。海の中から伸びているので、どうやって進んでいるのか全くわからないが。

「なあエフィルン……このワカメ、どうやって動いてるんだ……?」
「普通に海底を歩いてますが」
「海底を歩く」

 俺はもうこのワケワカメを考えることを諦めた。

 あれだ。エフィルンは以前も大木を走らせたこともあるし、このフォルン領で一番不思議な魔法使いは彼女だろう。

 ま、まあこれでレスタンブルク国では貴重な魚が大量に手に入った。

 これでドラゴンたちも満足して、フォルン領の出費も抑えられるだろう。

 そうして苦労してクジラ肉を持って帰って来て、フォルン領に運んで調理してドランに出したのだが……。

「何が高級魚か! これただの肉じゃろ! 魚じゃない!」
「はぁ!? クジラは魚だろうが!?」
「違う! この肉を魚などとは認めんからな! 高級食ではなくて普通の料理として換算する!」
「この畜生どもめぇ!」

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