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イレイザー最終決戦編

第203話 勢いのままに

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 イレイザーの上半身と下半身を両方とも潰した。

 もはや後顧の憂いはない。なので俺達は……ベフォメットに向けて艦隊で進軍していた。

 今回の機を逃してはならない。今ならば戦艦たちは整備万全の状態で動かせる!

 【異世界ショップ】はもうイレイザーを倒したから有料なのだ。後に回したらパーツなどの関係で整備が完全にできるか怪しいのだから。

 しかもベフォメットから攻めてきたので義も完全にこちらにある!

 証人にラスペラス国のうわきつBBAまでいるんだ! あいつ腐っても女王だぞ!?

 ここで攻めないということはベフォメットを許すことになる!

 俺は甲板で拡声器を使って指示を出していた。

「進めぇ! 今度こそあのクソ国の王家の息の根をとめる! 助けないだけならまだし、邪魔までしておいて許されると思うなよ!」
「あなた、どうどう」
「なだめても無駄だ! 今回ばかりは堪忍袋の緒が切れたぞ! 降伏しないなら王宮ごと砲撃で生き埋めにしてやると伝えろ!」

 イレイザーを倒した勢いのまま、ベフォメット王都に向けて進んでいく。

 ベフォメットからすれば黒船来航……いやそれ以上の脅威だ。

 だって黒船は古い戦艦だが、この艦隊は第二次世界大戦時のもの。
 
 性能に間違いなく差があるはずだ。具体的に何が違うのかは知らないが。

「ふーむ、流石は私の親族。私ですらキレさせられなかった君を見事にブチギレさせた」

 クズ王子は何が愉快なのかほくそ笑んでいる。

 お前にも内心では激怒していたが?

「やかましいぞ元祖クズ王子! お前にも十分怒ってたからな!」
「それはなにより。それと安心して欲しい。私の親族は確実に投降などしない。例え砲撃で国が焼かれようが何十万人死のうが、自分の命を優先するだろう」
「このクズ親族どもめ……なら軍に降伏を迫れ! そいつらの親族全員引き渡させろ!」

 そんなわけで人的被害の出ない山とかに、撃つぞと宣言してから戦艦で砲撃した。

 しばらく続けているとベフォメット内でクーデターが起きて、クズ王家親族一同を引き渡すと使者が告げてきた。

 そういえば江戸時代に来航した黒船は四隻だったらしい。

 『泰平の眠りを覚ます上喜撰、たつた四杯で夜も寝られず』なんて言葉もあるくらいだ。

 今回の場合は戦艦十隻に空母五隻、それと自動車専用船が一隻……オーバーキルもはなはだしいな。

 そして俺達はベフォメットの港に戦艦を停泊させると、そこにクズ王家一同が両手を縛られた状態で連行されてくる。

「ふ、ふざけるなよ貴様ら! 軍のくせにワシらを守らずに降伏するとは何事か! 肉の盾となるこそが軍の本懐だろうが!」

 ひげを蓄えた偉そうなやつが、ベフォメット兵士に何かを叫んでいる。

 だがお前が悪いだろ。勝ち目もないのに俺達に宣戦布告してきたんだから。

 クズ王子は性格はアレでもうまくやれば俺達に勝つ見込みはあった。

 今回も勝ち目がないと寝返ったので、何だかんだで無能ではなかったのだ。死ぬほど腹立ったけど。

 そもそも俺が相手にしてきた奴らは、どいつもこいつもクズだったが……せこい策略とかしてきて厄介ではあった。

 クソデブハゲと組んで経済制裁した上に魔法使いを雇った元カール領主、俺の偽物を擁立したバフォール領、エフィルンを使ったクズ王子、武力を使わせなかったライダン領主……どれも面倒な策を弄じて! 勝ち目を作ろうとしていた!

 レザイ領民なんぞ今もなお俺達を苦しめてくる恐敵だ。

 だがこいつは自分では何もしていない。イレイザーに便乗しただけの奴だ。

 つまりクズで無能なのでマジで救いようがない。

「この者たちをレスタンブルク国に献上いたします! どうかベフォメット国への沙汰を軽くして頂きたい」

 ベフォメット軍の隊長が俺達に頭を下げる。

 もはや彼に王家への忠誠心など欠片もないか……当然だろう。肉壁になれなどは部下が自分から言うことであって、上の者が求めるものではない。

「いいだろう。今回の件はベフォメット王家の独断として、ベフォメット国への処分は軽くなるように動く。ただしこの者たちの処遇は保障しない」
「無論です! ありがとうございます!」
「ふ、ふざけるな! ワシらはベフォメット王家だぞ!? お前に敵対した者はみんな生かしておるだろうが! そこの息子のように!」

 未だにピーピーわめくクズどもに、俺は呆れかえっていた。

 はっきり言おう。今回の件はもう俺の裁量だけでは無理だ。

 こいつらは結果的に見ると、レスタンブルク国とラスペラス国の連合軍に攻撃を仕掛けた。

 つまりは……ラスペラス国にも喧嘩を売ったのだ。

 今までの敵とは違ってレスタンブルク国内で完結しない。なので俺は知らない。

 こいつらの助命嘆願を交渉するならば対価が必要だ。

 こんな奴らのために、何で俺が骨を折ってラスペラス国に頭を下げねばならないのだ!

「やかましい! お前らごときが今まで戦って来たクズと同格だと思うなよ!? その程度の卑怯さで恥を知れ!」
「酷い言葉だね……」
「心がこもってる」

 あのクズどもは敵に回すと面倒だったからな……色々と動いてきたし、俺達が他の敵と戦っている間に漁夫の利なんて手段はとらなかった。

 己のクズさを武器にして俺達と渡り合おうとしていたのだ。

 ベフォメット王家はクズ王子以外、全員がレスタンブルク国へと連行された。

 ベフォメット国はクズ王子を王に置いて、レスタンブルク国の属国となり……こうしてイレイザー事変は終わりを告げた。

 結局クズ王子が勝ち組なのは仕方がない。無理やり外から王を持ってくると、ベフォメット国内の貴族から不満が出て荒れる危険性もあった。

 だが自分たちの王家の者が継ぐならば、流石に逆らうにも限度がある。

 ベフォメットの主権自体はかろうじて守られているからな。

 それも見越してクズ王子は裏切ったのだ、本当に嫌な奴だ。

 なお最後に俺が言い放った言葉は、アトラス伝記にてこう記されている。

「貴君ごときくだらぬ卑怯な者が今までの強敵と同様だと? 恥を知れ! 私が今まで相対した者たちは、貴様とは比較にならぬ傑物であった!」

 ……クズを傑物に変換するとか、リズの文才は恐るべきものかもしれない。

 まるでこれまでの強敵を侮辱されたことに怒ってるようではないか。

 純粋にこいつらにブチギレただけなのに……。

 しかも俺がブチギレてベフォメット王家を捕らえた理由も、こいつらがイレイザーを盗んで操ろうとしたからとされていた。

 すごい、アトラス=サンの性格を守るために歴史的事実が歪んでいる。

 しかも俺の伝記はすごく有名なので、百年後にはこの事実が正しいと認識されそうだ。

 後世に伝わる歴史とはこんな感じで、少しずつ事実に脚色が入っているのだろう……。

 こうしてイレイザー事変は完全に終了して俺は……。

「アトラス様! ドラゴンたちが危険手当が少ないと不満を!」
「あなた! レザイ領民がまた蜂起したよ!? 吐いてまで戦ったのにこんな報酬で納得できるかって!」
「ラスペラスの女王が頑張って肌荒れたから化粧品欲しいって」
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ひたすらに事後処理に追われることになる……。

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