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ライダン領との争い
第108話 スパイスきめてる
しおりを挟む王都で豪遊……しようとしてセバスチャンに無駄遣いを叱られた次の日。
俺とライダン領主は王城の玉座の間にて、王の目の前で跪いている。
見本市での勝負を褒め称えられるためだけにだ。何とも時間のムダだと思う。
いつものように部屋には貴族のエキストラが詰め寄っている。本当に彼らは普段何をしているのだろうか?
「二人とも顔をあげよ。よい勝負であった、特にフォルン領のカレーとやらは真に美味であった」
王は満足そうな顔をしながら呟く。どうやら王もカレー食べたようだ。
たぶん配下の誰かに買いに行かせたのだろう……いいんだろうか? 片方の商品だけ買うって下手したらエコヒイキに見られるぞ。
「フォルン領は文化、技術、教養を確かに示したと余は考える。誰ぞ異論のある者はおるか?」
部屋に王の声が響く。だが誰も反論のある者は出ない。
当然だ、これで更に文句を言われた日には流石の俺もキレるぞ。
これでフォルン領は名実ともに有力貴族の仲間入りだな、どうでもいいけど。
俺の目的はエフィルンをもらい受けることで、そのために周囲に名実ともに認めさせただけに過ぎない。
「ライダン領もないな?」
「もちろんでございます。ライダン領と渡り合うために、フォルン領は持てる全てを投げ打ったのですから」
ライダン領主は張り付いた笑みを浮かべる。別に持てる全てなんて投げ打ってないけどな。
更に何か言いたいことがあるようで、そのまま口を開き続けると。
「フォルン領はこれより有力貴族です。より一層、国のために忠義を尽くす義務が生まれる。そこで気になる点がひとつ。発言してもよろしいでしょうか?」
「申してみよ」
「王城の兵士たちの中には、カレーを食べれず不満を抱いている者が多いようです。国に雇われた者は公平を期すために購入禁止にしたがためですが……ここはフォルン領に銀貨4枚で売ってもらうのが筋かと」
ライダン領主は下卑た笑みでこちらを見てくる。
相変わらず謎の筋だがアリと言えばアリだな……。ライダン領主の言葉に従うのは吐き気がするが。
王城の者たちからの覚えが悪くなるのは避けたい。何かあった時に味方に引き込んでおきたい陣営だ。
俺の考えを知ってか知らずか王は少し悩んだ後。
「それは理不尽であろう。あの高級料理を、勝負に関わらずそんな少額で振るまえとは」
「いえ、これはフォルン領のためでもあります。フォルン領は見本市で大量の金を得ています。儲けるだけ儲けて民に一切の還元をしないのは……」
「その言葉に一理はあるが……」
王はチラリとこちらの顔を見る。
流石の王も超高級品のカレーを、無料で配れとは言えないらしい。
この国は基本的に金欠だから、カレー代金を全額支払うとも言いづらいのだろう。
だが俺からすれば無銭飲食、じゃなくて炊き出ししても問題はない。だって【異世界ショップ】の力を使えば、何百人分程度のカレーなどポケットマネーで用意できる。
「王よ、お任せください。フォルン領が王城に務める者たちにカレーを用意しましょう」
「……大丈夫か? 見本市でも捨て値の価格で、大量に売ったと聞いておるが」
少し心配そうな声音で訪ねてくる王。返答しようとすると何故かライダン領主が割り込んできて。
「かのアトラス伯爵が言っているのです。ここは甘えるべきと存じます。いやはや金が無限に湧き出るようで羨ましい限り」
イヤミったらしい声をあげるライダン領主。
こいつの言葉に従うのは本当にしゃくだが、俺としてもこの話を拒否する必要はない。
「王よ。フォルン領にお任せください」
「無論、民衆たちに食らわせたものよりも豪華なのだろうな。王の身を守る者たちに食べさせるものをケチるわけないだろうな?」
何故か横からしゃしゃり出てくるライダン領主。こいついい加減に首から上が吹っ飛んで欲しい。
豪華だと? ああいいとも! 豪華にしてやるよ!
「温玉置いてやるよ、これで満足か!」
そうして王都の謁見は終了。俺達はカレーの炊き出しを王城で行うことになった。
実はこの話は俺達にも好都合だったりする。王城の者たちの覚えがよくなるし、王に対して恩も売れるのだから。
問題は更に王都の金を吸い上げてしまうことだが……まあそこはライダン領主のせいだから知らん。
諸悪の根源はライダン領主。これは合言葉にしていきたい。
俺は玉座の間から出て行って王城の待合室へと戻る。
そこにはセバスチャンが一冊の本を持って待っていた。
「アトラス様、伝記の続刊の試作ができました。どうかご確認を」
「はやくね!? 最新刊売り始めたところだろ!?」
「せっかく売れているのです。急いで続きを売るのがよいと考え、我が孫を馬車馬のごとく働かせました! 力尽きてまた寝込んでおります」
「もう少しいたわってあげよう!?」
よく毎月連続刊行とかあるけどあれはたぶん事前に準備してるから!
決して売れたから急いで続きをと、鞭で著者を叩いて書かせてるんじゃないから!
「ご安心ください。我が孫もフォルン領の礎になれるなら本望ですぞ」
「安心できる要素が欠片もない!?」
『定礎 セバスチャンの孫ここに眠る』になってしまう。
昔は人柱って文化もあったのでそちらのほうが正しいだろうか?
「父様とのお話どうだった? 特に何もなかったと思うけど」
「勝利宣告」
カーマとラークが俺のそばに寄って来た。彼女らも面倒だからと玉座の間に行かなかったのだ。
気持ちはすごく分かる。俺も不要なら絶対にサボっている。
「なんかカレーを王城の兵士たちに振舞うことになった。温玉マシマシで」
「……なんで?」
冷静に考えたらぶっちゃけ俺にもよく分からん。
ライダン領の卑劣な策略だと思う。やっぱあそこはクズだなうん。
「兵士がカレー食べたかったのにって不満持ってるらしいぞ」
「あー……カレーの匂い、すごかったらしいからね。風が強かったせいか王城にも漂ってきて生殺し。カレーを求めて王城の厨房に駆け込んだ兵士たちの怨嗟の叫びが木霊したって」
「……肉を求めるゾンビか何か?」
思わぬところで風評被害……いやカレーの被害が出ていたようだ。
……これで王はコッソリ食べてました、なんてバレたらヤバイのでは?
カレー革命で国家転覆の危機なんてことになったら世も末である。
「まあそういうわけで。三日後に王城でカレーをふるまうことになった。セバスチャン、用意を頼む」
「お任せください! 明日から行えるように、広場でカレーを作っておきますぞ!」
「腐るからやめろっ!」
そうして三日後。王城の広場でカレーの炊き出しを開催しようとしたのだが。
王城の城門前に大量に民衆が詰め寄っているのだ。
「いやー、楽しみだなぁ。またカレー売ってくれるんだって」
「見本市の時と同じ値段なんだろ? 金貯めておいてよかったよ」
「あの美味をまた味わえるとは!」
広場からでも民衆たちの声が聞こえてくる。
おかしい、王城の兵士たちだけに振る舞う予定なのに。
困惑しているとワーカー農官侯がこちらに走ってきた。
「アトラス伯爵! カレーに余分はありますか!? 誰が言ったのか、王城でカレーを売ると民衆の間で広まったようで……ここで何もなしに帰すと暴動、最悪革命が起きかねません!」
「何? この国、カレーで滅ぶの? バカなの?」
本当にこの国どうかしてるんじゃなかろうか?
冗談の類かと思いたかったが、ワーカー農官侯はいたって真剣な顔をしている。
この人の場合、笑顔でも呪いが降りかかるので嫌だけど。
「……まあだいぶ余裕はあるので。民衆にも振る舞えますよ」
「本当ですか! なら私は至急、民衆に伝えてきます!」
走り去っていくワーカー農官侯。俺はその後ろ姿を見送りながら。
「…………この国、一度滅んだほうがよいんじゃなかろうか」
つい思ったことを呟いてしまった。
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