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レード山林地帯開拓編
第40話 悩んだ末に
しおりを挟む俺は屋敷に戻ってから、執務室でものすごく苦悩していた。
カーマかラークのどちらかという、王の無慈悲すぎる宣告によってだ。
「……そもそもさ。どちらかしか選べないってのがダメだよな。よくゲームとかで片方だけでもう片方は回収できないのあるけどさ、あれって本当ダメというか、もう儲け主義なんだよな、金なら払うからもう片方のバージョンも買わせてくれよ」
「お兄さん、何言ってるか全くわからない」
俺と一緒に戻って来たカーマが突っ込んできた。大丈夫だ、俺も何言ってるかよくわからん。
彼女らの衣装が結婚衣装のドレスのままなのが、更に見ていて辛くなる。
少しは落ち着くかと思い、いつも執務してる椅子に座るが何も変わらない。
むしろ気分が悪くなった。仕事したくない。
「私かカーマの二者択一。カーマをおススメ」
「ボクは姉さまをおススメするよ」
二人が暗い笑みで追い打ちをかけてくる。両方とも俺に選ばれるのを避けている……だと……!?
…………少しは好かれてると自惚れていた。まさか好感度マイナスだったなんて。
「そこまで二人とも嫌ならさ、王に頼んで両方ともなしにしてもらっても」
「「それはダメ!」」
二人の意思に沿う俺の提案は、即座に拒否されてしまった。
ダメだよくわからん。この二人の考えてることが全くわからん。
「はぁ……ちょっと一人ずつ話していいか?」
恐る恐る口に出す。い、今までも二人きりだったことはあるし、これくらいならいいはず。
二人とも頷いた後、ラークが執務室から出て行った。
この部屋は俺とカーマだけの空間となる。とりあえず逃げる雰囲気はないので一安心だ。
……断れたら俺の心が木っ端みじんになるところだった。座っている気分じゃないので、椅子から立ち上がると。
「俺、よく分からないんだけど。お前は俺にラークを選んで欲しいんだよな?」
カーマとラークのどちらを選ぶか決まってないが、片方が望まないならもう片方にする。
そんな気持ちだったが両方ともに嫌われてたら心折れそう。
「うん。姉さまはすごく綺麗だし、おしとやかで静か。すごくいい結婚相手だと思うよ!」
カーマは笑みを浮かべている。だがその表情は見たことがない。
何故ならば、明らかに無理をして笑っていると分かるからだ。
「正直に言ってくれ。何でラークを選んで欲しいんだ? 俺と結婚したくなさすぎるなら、それでもいいから」
「違うよ……お兄さんのことが嫌いなわけじゃない!」
カーマは首を勢いよく横に振る。その目には涙を浮かべていた。
「ボクがお兄さんに選ばれたら、姉さまがバフォメットに出されちゃう! あの酷い王子のところへ! そんなのダメ……」
「ひどいのか」
「ひどいよ! ボクたちのこと見て、手足をもいで犯すような想像してくる最低の人間だ! あの人間より酷い心の中を見たことないよ! ……あれより変な人ならこの領地にいるけど」
カーマは激高して叫ぶ。変な人は絶対七色お化けだろうなぁ……。
しかしベフォメットの王子とやらは想像以上にクズだ……。だが分かっているのだろうか、ラークが選ばれれば、その王子に嫁ぐのは。
「わかってる。わかってるよ。でもボクなら魔法で焼き尽くせる。姉さまよりも火力があるから、いざとなれば王子を城ごと燃やせるし!」
カーマは必要以上に明るく叫ぶ。どう見ても空元気だ。
「そんな縁談、無効にすべきだろ。王だってカーマの心を読む能力を知ってるはずだ。ちゃんと言えば……」
「言ったよ。でもダメだった。いつもなら優しいのに、今回に限っては全く聞く耳をもってくれなかった。隣国と戦争になったら、経済力の差で負ける可能性が高いからって……」
……何でだよ。仮にも親なら娘の幸せを願えよ。勝ってやるくらい言え!
それにカーマもラークもこの国最強の魔法使いだぞ! 王子と姫の政略結婚なんて話で収まらない。
レスタンブルクで最強の兵器の半分を譲り渡すのと同義だ。
あまりにも意味不明すぎる。今の王は敵国の間者と入れ替わってるとか、そんなレベルじゃないと考えつかない愚策だろ。
「そうか……」
「だから姉さまを助けてあげて。ボクは大丈夫だから」
「……ラークを呼んできてくれ」
カーマの痛々しい笑顔を見ていられなかった。
彼女は逃げるように部屋から走り去っていった。涙を床に落としながら。
しばらくすぐと無表情のラークが部屋に入ってくる。
「ラーク、いやクーラと呼んだ方がいいか?」
ラークは王の間でクーラと紹介されていた。あの場所で名前を間違えるなど、打ち首ものだしあり得ない。
つまり彼女の本当の名前はクーラ。ラークは偽名だったと。
「ラークは商会用偽名。でもラークでいい」
「そうか……名前を反対にしただけとは安易だな」
「気づかなかった」
「ふっ。安心しろ、本名で名乗られても気づかなかった」
悲しい事実である。ド田舎の領主だし国の姫の名前なんか知らん。
無理やり場を和ませようとしたが、ラークはくすりとも笑わない。まあ元から無表情だけど……。
「カーマを選んで」
「お前も、カーマをベフォメットの王子に嫁がせないためか」
「そう。あの王子に、カーマを嫁がせはしない」
ラークは頷くと、真剣な目で俺を見つめてくる。
この国最強の魔法使いになって、と言われた時と同じ目だ。蒼い目に見つめられて、思わず息をのむ。
「いいのか? 俺がカーマを選んだら、お前が嫁ぐことに」
「構わない。私は、姉だから」
顔色を変えずにそう言い放つラーク。だが気づいてしまった、手が少しばかり震えていることに。
そんな様子を見た俺は、思わず言葉に詰まり。
「……そうか」
と言い放つのが精いっぱいだった。だがもうひとつ、聞いておかなければならない。
「ラーク、お前は俺のこと嫌いか?」
「……嫌いなら、好きにしていいとは言わない」
この国最強の魔法使いになるなら、自分を好きにしていい。
ラークに言われた言葉を思い出していた。元々、この言葉自体もカーマを責任から助けるためだった。
この姉妹……お互いに自分よりも相手を大事にしている。
俺が彼女らの立場なら何が何でも、そんな王子のもとには嫁ぐまい。
普通に高飛びなりして逃げるだろうなあ……。
そして彼女らと話し終えて、悩んでいる間に二日が経った。
再び王の間に通された俺は、貴族たちの奇異の視線に晒されながら王の前に跪いた。
「アトラス・フォン・ハウルク子爵。答えを聞こう」
王が睨みながら俺に問いを投げてくる。そんな王に対して、俺は顔を上げて睨み返した。
結局、どちらかを不幸にする選択肢だ。こんな悲しい二者択一を選べるわけがない。
俺はカーマもラークも好きだ。両方と結婚できないのはよいとしても、幸せになってもらいたい。
少なくとも不幸になるのを見て見ぬフリなどできない。
この二日間、考えたが時間のムダだった! 最初から答えは決まっていたのだから!
本当に馬鹿らしい時を過ごしてしまった!
「カーマとラーク。二人とも俺がもらいうけます。ベフォメットの王子なぞに渡しはしません」
初めから選択肢は一択だけだ、二人ともよこせ。
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