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レード山林地帯開拓編

第41話 選択肢をこじ開ける

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「カーマとラーク。二人とも俺がもらいうけます。ベフォメットの王子なぞに渡しはしません」

 俺の言葉に王の間は騒然となる。王の左右に立っているカーマとラークも、驚いた表情をしていた。

 周囲の貴族から様々な声が聞こえる。どうせ俺の無礼に対する不満だろう。

 そんなことを言われるのは百も承知だ。今更悪口なんぞ言われても痛くもかゆくもない。

 俺の相手は、目の前で玉座に座る男だけだ。外野は黙れ。

「……カーマとクーラ。片方は隣国ベフォメットに嫁ぐと言ったはず。ことは国同士の問題、簡単に覆るものではない」

 王が俺を見定めるように睨みながら口を開く。

 簡単には覆るものではない。つまり難しいが覆せる可能性はあると言っている。

 俺は高まる心臓の鼓動を抑えるように、心の中で大きく深呼吸をすると。

「まず第一にこの国で元最強の魔法使いの片割れを、仮想敵国に渡すのは危険すぎます」
「姫を渡せば友誼を結べる。そうベフォメットは言っておるが」
「嘘の可能性も当然あります。いえむしろ高いでしょう。我が領にも間者が紛れ込んでおりました」

 飢饉対策の芋が危うく盗まれかけた事件があったのだから。

 王は俺の言葉に肯定も否定もしない。ただ玉座に座り、黙ってこちらを見つめてくる。

「第二にベフォメットなど恐れるに足りませぬ。負けている経済力も逆転する目があります」
「申してみよ」
「我が領で砂糖の生成に成功いたしました。砂糖に使った作物ですが、この国の他の場所でも栽培できます。レスタンブルクのために献上する用意もございます」

 俺の言葉に周囲の貴族が色めき立つ。

 砂糖はこの世界では超高級品だ。大量に作って輸出できるならば、凄まじい恩恵を得ることができる。

 今後のフォルン領発展の切り札、ここで使わずにいつ使う!

「それにジャイランド討伐により、レード山林地帯の開拓も今後は進んで国に益をもたらします! つまり経済力で挽回する術もある状況で、ベフォメットに我が国の巨大戦力を渡す必要はありません!」

 王は目をつぶって考える素振りを見せた後、俺に対して強く睨んでくる。

 何という眼光だろうか。気が付けば手に汗をかいている、これが王の威圧……。

 いや待て。本当に王の威圧かこれ? 確かにすごい圧なんだが、何か威厳とかとは別の種類のような……なんか気まずいというか……。

「……確かにお主の言うことは理が通っている」
「では!」
「だがお主は本音を言っておらぬ。全てはただの理屈、物事の全てを決めるのは人の意思だ」

 もはや眼光が鋭すぎて光線でも放つかのように、王の目が光った気がした。

 ……本音か。ならばいいだろう、言ってやる。

 俺は王への礼をやめて立ち上がると、カーマとラークを一瞥した後。

「カーマは常に明るすぎて相手していて疲れる時がある、ラークは言葉が足りない」
「ちょっ!? そこは褒めるところじゃないの!?」
「ない」

 彼女らが非難の声をあげるが知らん。思ったことを口にするまでだ。

「でも私はそんな二人に好意を抱いてる。銀の髪の少女の秘められた温かな心を、紅の髪の少女の明るさに秘められた優しさを。そして互いの姉妹愛に……どちらかが不幸になる選択などごめん被る!」
 
 偽らざる本音を投げる。これでダメならば後は知らない。

 クーデターでも起こしてやろうか。そう思いながら王の返答を待つ。

 王は目をつぶって何かを思い出すように天を仰いだ。

 そしてしばらくの静寂の後に俺に顔を向ける。

「…………よい。お主に我が愛しき娘たちを託す」

 王の宣告は小さく静かに、それでいてこの王の間全体に響き渡った。

 俺はこらえきれずに笑みを浮かべる。王の御前なので抑えようとするが全く無理だ。

 カーマとラークを見ると二人も俺と同じく笑っていた。

 勝った。この戦い、完全に俺達の勝利だ! この王の勅命、何者にもひっくり返すことあたわず。

「お待ちください! 異議があります!」
 
 あたわずって言ったろ黙れ! 王の勅命に逆らうな! 誰ぞ声をあげた男を捕縛しろ!

 殺すつもりの視線で声の発生源を見ると、三十後半くらいのオッサンが叫んでいた。

「ノイトラ・バフォール・ベフォマか。発言を許す」

 バフォール!? フォルン領の農具をよこせと脅してきた敵じゃないか!

 何ならベフォメットと繋がっている疑惑のある最低の領地の……あの男がその領主か!

 バフォール領主は俺の横まで歩いてきて、床に膝をつけて礼を示すと。

「はっ! カーマ様とクーラ様の片方は、我が息子に……バフォール領に嫁ぐべきでございます!」

 あまりにも意味不明な言葉に放心する。は? 何で横からしゃしゃり出てるんだこいつら。

「なにゆえだ」
「我がバフォール領は長い間、隣国の脅威を防ぎ王家に尽くしてきた忠臣。ジャイランド討伐が国を救うならば、我らの働きもそれに負けぬものです」
「確かに理は通っている」

 王の返事に俺は激怒する。理なんて通っているかよ!

 仮に通っていても通すんじゃない! 

 そんな俺の怒りを知ってか知らずか、バフォール領主は言葉を続ける。

「それに我らはベフォメットと隣している領地。巨大な戦力が必要です、姫君に嫁いでいただくことでこの国の守りは盤石になります」

 何が盤石か! 裏切り者のお前らに戦力を与えたら、国の守りは盤石どころかコンニャクだ!

 プルップルで硬さの欠片もないどころか、ベフォメットに美味しく食べられるわ!

「幸いにもフォルン領の砂糖や山林地帯の開拓でもうかり、ベフォメットに姫を出す必要はない。ならば我がバフォールに嫁ぐべきです。フォルン領主とて国を想うならば、当然私の意見に賛同するはず」

 俺はいつ金属バットを【異世界ショップ】で購入するか悩んでいた。

 砂糖はカーマとラークの二人をもらえる前提でしか献上するわけないだろ!

 こいつの脳天かち割ってやりたい……!

 バフォール領主は俺を一瞥すると、見下すような視線を投げかけた後。

「それにフォルン領に戦力が集中し過ぎるのは危険です。裏切られる可能性を考慮すれば……」
「フォルン領が裏切ると申すか! これ以上は聞き捨てならん! 王よ! このバフォール領こそ、裏切る危険があります! 芋が盗まれた時の間者も、バフォール領からです!」
「それはベフォメットが、我が領地に間者を潜ませていただけのこと」

 俺はあまりに理不尽な言葉に反論する。

 ふざけるな! うまく行っていたところに邪魔しやがって!

「た、確かにフォルン領にカーマ様とクーラの二人が嫁ぐのは危険が……」
「バフォール領は由緒ある貴族。いっそ二人とも、バフォールに嫁ぐほうが……」

 俺は殺意を込めた目で、戯けたことを呟いた貴族を睨む。

 その貴族たちは俺に気づいて口を閉ざしたが、お前らの顔は憶えた。絶対に許さん、絶対に許さんからな。

「そして我が息子をご紹介いたします」

 バフォール領主の言葉とともに、周りの貴族をかきわけて性格が極めて悪そうな顔の。

 いやどう見ても極悪人の、生きている価値のないゴミ。横から邪魔するクズ少年が王の前へ。

「私はアデル・バフォール・ベフォマでございます! この国のためにもフォルン領などの潰れかけ領地ではなくて、私に姫君をくださいませ!」

 ……どこかで聞き覚えのある声だ。顔は記憶にないが、この声は知っている。

 俺を侮辱してきた人間として、復讐相手として魂の片隅に刻まれた気がする声だ

 男の出てきたところからは、イヤミったらしい顔をした二人のオトモの人間がいた。

 思い出したぞ! 以前に王都で参加したパーティーで、俺をバカにしてきた奴らか!

 王は品定めする視線をアデルに送った後。

「確かにお主らの言葉にも理はある」
「ははっ! このアデル、必ずや姫君を幸せにいたします!」

 王に頭を下げながら、俺に対して見下した笑みを浮かべるアデル。

 よし殺るか。もはや我慢ならん。俺が真剣に金属バットを購入を検討した瞬間。

「だがお主の言葉は軽い! そも他人の横入りが気に食わぬ! そんな者に大事な娘をやれるものか!」

 空気を震わせる叫びが王の間に響き渡る。王は玉座から立ち上がって激怒していた。

 アデルはその言葉に腰をぬかし、床へとへたりこむ。

「……これは失礼いたしました。ですが、私たちの言葉もこの国を思えばこそ」

 バフォール領主は落ち着いた様子で、今までの自分たちのクズ行為をさも正当化するかのような言葉をしゃべる。

 何がこの国を想えばこそか! じゃあ俺もお前らにバットを叩きつけるぞ! この国を想えばこそって!

「よい、だがお主らの言葉は聞けぬ。皆の者よ! 我が娘たるカーマとクーラは、アトラス・フォン・ハウルク子爵に嫁がせる! これは余の王命である!」

 紆余曲折ありすぎたが、俺はカーマとラークをもらえるらしい。

 だがバフォール領主とその息子アデル。お前たちは絶対に許さない。

 ここまで邪魔してくれたのだ、ミサイル百万発くらいは撃たれる覚悟はあるんだろうな……!
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