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レード山林地帯開拓編
第28話 鍛冶師変人
しおりを挟む「おお! ミーの鍛冶は神業さっ! ご所望のクワとノコギリさっ!」
「……マジか」
俺の屋敷の庭で、クワとノコギリを試し使いして出来に驚愕する。
鍛冶師変人のセサルとやらに鉄製のクワとノコギリの製作を頼んだ。
【異世界ショップ】で購入した見本を渡して、同じものを作って欲しいと頼んだら二日後には完璧なものが渡される。
いやむしろ見本よりも質が良いのでは……。ノコギリは木がすごく切りやすいし、クワは土が雪のように耕せる。
「セサル殿はやはり優れた鍛冶師でございますな」
「ミーは鍛冶師じゃないサッ! 世界に祝福された者さっ」
セサル変人は髪を片手でかきあげる。恐ろしいナルシストである。
「変人だろ。てかよく世界に祝福された者とか言えるな。何の根拠もないのに」
「ミーはドワーフとエルフの子供。交わらざる種族の交わりで生まれた奇跡なのサッ!」
「何それすごい」
エルフとドワーフって、混ざったらダメだろ……この世界に存在しているのは知っている。
だが絶対数が少ないし、彼らは人間とは違うコミュニティで生きている。
エルフもドワーフも独自の集落などで暮らしているのだ。稀に人間の街で生きてる奴もいるらしいが……見たことはない。
やはりと言うかエルフとドワーフは犬猿の仲で、こんな言い伝えまであるくらいだ。
ドワーフとエルフは二人きりにするな。翌日には一人になってるぞ。水と油は混ざらない。
そんな種族間の子供とか、世界に祝福されてるかは知らんが確かによく生まれてきたなと……。
ドワーフとエルフで子を成せるとか聞いたことがない。
そんな状態で生まれてくるとかゴキブリ並みに優れた生命力……いや運命力か?
「ミーは鍛冶以外に裁縫、料理、絵画……大抵のものは作れるのサッ! 世界に祝福された者として、ヒトにはミーから祝福するのサッ!」
「ふーん……じゃあ皿とか作れる? 最近、人口が増えて陶器類も不足してるんだが」
「おやすい御用さっ!」
お願いしてから三日後。セサルは大量の皿を屋敷に納品してきた。
屋敷の食堂に皿を並べて出来を確かめてみたが……ひび割れた物はないどころか丈夫そうで、皿に描かれた模様なども綺麗だ。
文句の一つも出ないような質のよい皿ばかりだ。
……陶器って焼くのだけでも時間かからなかったっけ。それに皿の造形のセンスがよすぎる。
あの七色の家を作った男の作品とは到底思えない……まさか。
「おい、あの家に色々な職人とか匿ってるだろ! 出せ!」
「セバスチャン君。アトラス君は何を言ってるのサッ?」
「たまに突拍子もないことを言い出すだけですので」
いや俺の言ってることはおかしいだろうか? こんな破滅的センスの奴が美しい皿を作り出すなんておかしいだろ。
ノコギリなどは見本ソックリに作ればわかる。だが芸術品ならば、自宅と同じように七色に仕上げてくると思うのが普通だろう。
「ならば何故、この皿は七色に塗りたくらない?」
「七色は世界に祝福されしミーに似合う色サッ。ヒトにはヒトに相応しい彩があるから、それを再現しただけサッ」
……和訳すると、七色は自分の好きな色。他の人間が好きそうな色に合わせて作りました。
何だそれは。こんな変人がそんなことできるなんてアレだろ、そんなバカな。
ヤバイ、なんか言語化できなくて抽象的な言葉ばかり出てくる。落ち着け。
「お前は何者だっ!」
「ミーは世界に祝福されし者サッ!」
「……お前に聞いた俺がバカだった」
何者か聞いたら、この答えが返ってくるに決まっている!
セサル変人は未だに自分の名前も名乗ってないからな! セバスチャンから聞いたから名前わかるだけで!
両腕を広げて謎ポーズをとっているセサルを観察する。
こいつの技術は間違いない。もしやり方を教えたら、火薬でも作ってくれるのではなかろうか。
……もし火薬をフォルン領の兵士が持てば最強の領になれる。この世界には火薬が作られてないのだから。
魔法使いが火薬の代わりになってるが絶対数が少ない。もし銃を兵士全員に装備させれば、敵からすればフォルン領の兵士全てが魔法使いみたいなものだ。
うまくやればこの国を奪取することすら可能かもしれない。
……ないな。そのうち火薬の作り方を盗まれるのがオチか。
俺が【異世界ショップ】で使う。もしくは特別信頼できるものに、武器を使わせるくらいがちょうどよい。
そんなことを考えながらセサルをしばらく見ていたら。
「ミーの姿に見惚れているのだね。脱ごうか」
「黙れ」
やっぱりセサルに火薬を作ってもらうのはないな。絶対あり得ん。
技術はあるようなので今後も変わった物を作ってもらおう。最悪、盗まれても諦めつくやつを。
俺はコホンと咳払いをすると。
「セサル変人。ノコギリやクワなどを大量に作ってくれ。それと強力な武器はないか? 俺達はレード山林地帯を攻略したいんだ」
「変人……いい響きだね。特別ということか。武器なら凄いのがあるサッ! 自宅にあるから見るといいサッ!」
こわ……イヤミでつけた変人が褒め言葉に変換されてる……。
戦慄を覚えながらも、凄い武器を確認するためにセンダイを呼んでセサルの家へと向かった。
ーーーーーーー
ひっく。新しい武器があるとアトラス殿に呼ばれて、案内されてやって来たのはいいのだが……。
何やら七色にきらめく家が見える。そんなバカな。
「はっはっは。家に大量の虹が見えるでござる。拙者も酔いが回ってるでござるなぁ」
「安心しろ。珍しく正常だ」
「なんと。また面白い人物がやってきたでござるなぁ」
またこの御仁は変わった人物を雇ったらしい。
拙者を雇った時点で頭がおかしいと思っていたが、筋金入りのようだ。
だが雇った人物は自分を除いて真面目で優秀。悪いところに惑わされずに、長所を見抜く目があると言うべきなのかもしれぬな。
自分がアトラス殿の立場なら、面接で酒飲む馬鹿者など雇わぬ。
「こいつがセサル変人。うちの領地の鍛冶師とかやってくれる奴だ」
「よ、ろ、し、く、サッ!」
セサル変人と紹介された何某は、派手な孔雀のような服を着て両手を大きく広げた。
……どうやら酔いが回ったようだ。
「ひっく。よろしくでござる」
酒瓶を口にくわえて挨拶をする。挨拶すると返事が来るので、礼儀は弁えてるらしい。
なら特に問題ないでござるな。
「して新しい優れた武器とは?」
「こちらサッ!」
セサル殿は家の外の庭に案内してくれた。そこには一本の巨大なくの字の形をした物が、地面に刺さっていた。
人の身の丈よりも巨大なそれは、分厚い鉄で作られていた。
一般兵が五……いや六人がかりでかろうじて運べる重さくらいに見える。
アトラス殿は何やらご存じのようで、そのくの字を見て狼狽しながらも。
「そ、それもしかしてブーメランとか……言わないよな? 投げて戻ってくるやつじゃないよな?」
「正解さっ! これを投げれば当たった物は粉砕され、魔法《ねがい》を込めてるから武器は戻ってくるさっ! ブーメランっていい響きなので採用さっ!」
……どうやらあの巨大な鉄の塊は、投てき道具らしい。凄まじい発想である。
それに投てきして戻ってくるのが本当ならば、理想的な武器だ。
投てき武器は放てばなくなる。そんな常識を覆しているのだから。
……魔法まで込めてるので、相当高額な武器になりそうなのが問題だが。
並みの人間ならば不可能と断じる物を作るとは、やはりこの御仁はタガが外れておる。
アトラス殿はブーメランとやらに近づいて、掴んで持ち上げようとする。
だがビクともしない。
「いやこれ無理だろ!? 投げるどころか運べないんだが!?」
「そこは考えてなかったサ」
「作る前に考えろ!」
どうやら投てきする手段がないらしい。投てき武器なのに、投げれないとはこれいかに。
置物くらいの価値しかないでござるな。
アトラス殿はブーメランを触りながらため息をつくと。
「……てかこれ。仮に投げられたとして、むしろ戻ってくるの危険じゃね? 誰も受け止められないから大惨事だと思うんだが」
「周囲を傷つけるなら、自らもその痛みを味わう……ミーはまた祝福の武器を作ってしまったサッ」
「いろんな意味で欠陥品だなこれ!?」
何やらアトラス殿とセサル殿の言い合い、いや話し合いが始める。
「ブーメランの発想は悪くない。常識的なサイズまで小さくして、投げれるように改良すれば……」
「いいさっ。小さくすればいいんだね? 虫くらいの大きさにするさっ!」
「常識的な範囲と言っただろうが!」
言い争いながらセサル殿の家へと入っていく二人とセバスチャン殿。
アトラス殿は扉を閉める直前に、自分へと振り向くと。
「センダイ、兵士を使ってそのブーメランを俺の屋敷の庭に運んでおいてくれ」
そう言い残して部屋へと入っていった。何か使い道でも思いついたのだろうか。
「やれやれ。ここにいると退屈しないでござるな」
ブーメランとやらを片手で持ち上げて、肩に担いで運んでいく。
酒瓶を口につけて空を見ると、レード山林地帯のほうから暗雲が立ち込めていた。
今まで誰も入らなかった地。そこに触れてしまったならば、何かが変わるのは自明の理。
近いうちに一波乱ありそうでござるなぁ。今日も酒がうまい。
応援ありがとうございます!
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