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レード山林地帯開拓編
第27話 鍛冶師
しおりを挟む「アトラス様、このままでは食料が足りませぬ」
執務室でサボ……今後の展望を考えていた時。
セバスチャンが詳細の記載された書類と共に報告してきた。
「……想像より人が流れて来てるな」
食料が足りなくなった理由。それは予想よりも人口の増加が激しいことだ。
そもそも人口関係は冒険者ギルドを招致した以外は、ろくな政策をしていない。
今年は全国的に不作。フォルン領は例年よりも多い収穫量だが、別に余裕があるわけではない。
ゆえに本格的な人の招致はもう少し先と考えていた。だが他の領地から逃げるように、フォルン領に難民が来ているようだ。
「フォルン領が芋を配布した領地と広まってますからな。ここならば食料があると思ってるのでしょう」
「やれやれ……フォルン領の正体を知らないと見える」
「まったくですな」
これだから素人は……つい最近まで領主が餓死しかねない状態だったのに。そんな領にやってくるとは……。
一時的な評判に踊らされたら、待ってるのは死だぞ。だから来ないで欲しかった。
いざとなれば金さえあれば、【異世界ショップ】で食料は用意できる。
でも必要以上に金を使いたくないんだよな……今後は金が入用になるのだから。
貴族付き合いとかもせねばならないからな……何で貴族ってバカみたいにムダなことに金かけるんだろうな。
いかに無駄遣いしたかを自慢しあうような。
「仕方あるまい。余ってる土地を耕して農地を増やせ。半年後くらいには収穫できるように」
フォルン領は平野の土地が有り余っている。森を開墾しなくていい分、農地を増やすのは楽だろう。
「労働力が足りませぬ」
「墾田永年私財法でも出すか……いややめておこう」
墾田永年私財法とは、畑にした土地はずっと君の物だよって決める法だ。
昔の日本で行われて実際に畑が大量に作られたらしいが……フォルン領は今後発展していくのだ。
あまり領民に土地を与えたくない。開発に大きな制限がかかってしまうし。
フォルン領の土地がバブルになった時、儲けるのは俺だけでよいのだ!
「臨時で兵士を労働力として使え」
「不満が出ませぬか?」
「酒飲ましてれば黙る」
センダイの集めた兵士の思考回路は単純明快。
酒を与えていればだいたいのことは納得する。ある意味ものすごく扱いやすい奴らだ。
士気を上げやすいことに関してだけは極めて優秀と言える。
「あー……そうだ。農具を改良するか」
「農具でございますか?」
「木製より鉄製のが優秀だ」
今のフォルン領の農具……というよりもこの国の農具は木製だ。
鉄が貴重……というよりは武器以外は木でよいと思われている。
その考えはすごく分かる。鉄を使うと価格も作る難易度も上がる。
だがクワとかスコップとか、鉄のほうが遥かに優秀だ。大量購入しても【異世界ショップ】なら値段もたかが知れているが……。
ここは自前で作るのを挑戦してみるべきだろう。
鍛冶師もいないのに鉄の農具を配布したら、流石に多方面から怪しまれる。
【異世界ショップ】の存在は秘匿したいからな……。
「セバスチャン、鍛冶師にアテはないか?」
「ご安心を。領地で一番の鍛冶師を知っています」
「……うちに鍛冶師いたのか!?」
「こないだ難民としてやってきたようです。フォルン領、唯一の鍛冶師でございます」
一人しかいないからそりゃ一番に決まってるよな……ナンバーワンじゃなくてオンリーワンだ。難民の鍛冶師とか大丈夫なのだろうか。
腕がないから仕事にありつけなかったのでは……。
セバスチャンは俺の考えを読み取ったようで、首を横に振ると。
「ご安心を。腕だけは間違いなくよいです」
「だけってなんだよ、だけって」
「性格に多大な問題があるだけです、些細な問題ですな」
「極めて多大と思うんだが!?」
ダメだろそれ。凄まじく嫌な予感がする。
だが領内で唯一の鍛冶師だ。それに今後の領の発展には鍛冶の力が必要不可欠。
俺の現代知識も鍛冶師の力があれば、より有意義に使える可能性もある。
でもなぁ……最近、変な知り合いばっかり増えてるんだよなぁ。
怨恨狂戦士領主のライナさんに、筋肉紳士ギルド長のドルグさんに。
もうお腹いっぱいである。ここは聞かなかったフリをして、忘れ去ったほうが精神衛生上よいのではないだろうか。
記憶から抹消するか真剣に考えていると。
「アトラス様、何を迷うことがあるのですか?」
「……これ以上、フォルン領が変人で染められるのもどうなんだ」
「ご安心ください! あの鍛冶師はそこいらの変人とはわけが違います! 変人コレクターのアトラス様のお目に叶う逸材です!」
セバスチャンが乗り出すように叫ぶ。
「誰が変人コレクターか!?」
「えっ!? だってアトラス様が領主になってからの知り合いに、まともな方ほぼいませんぞ!? かろうじてカーマ様くらいですぞ」
「やめろ! 目を背けていたことに直視させるな!」
そう! 今まで考えないようにしてきたが! 俺が領主になってから、アトラス領に入って来たのは変な奴ばかりだ!
剣豪ならぬ大酒豪センダイ! お前絶対商人じゃないだろラーク! 暴走貴族ライナさん! 筋肉ドグルさん!
人はみんな個性があると言うが濃すぎる。まるで牛脂をそのまま食うかのような油濃さだ。
胸やけ必死である。ちなみに実際に牛脂を好んで食う人もいるらしい。
もはやフォルン領は変人の宝庫である。やけに有能なところがあるのが質が悪い。
「カーマ様は癒しですな」
「……あいつも別にキャラ薄くないけどな」
ボクっ娘魔法少女だぞ。本来ならだいぶキャラ濃いぞ。周りが超濃縮醤油で、一人だけ刺身醤油だから相対的に薄く見えるだけで結局醤油だぞ。
だが逆に言えば変人はもう集まり切っている。今更一人増えても誤差とも言える。
「……毒を食らわば皿までか」
「ご安心を。あの者はただの皿ではありません。食事を汚染する毒皿でございます」
「安心できる要素がないんだが」
結局鍛冶師は必要なので、その変人の家へとセバスチャンに案内させた。
たどり着いた先は七色に彩られた木の家だった。壁の木の板ごとに違う色が塗りたくられ、趣味の悪い虹模様の家である。
家の前には無駄に精巧な造りの男の彫像。これ見よがしに立つ見上げるほど巨大な看板には、『世界に祝福されしセサル、ここに生きる』と書いてある……。
これもう本人見るまでもないだろ、おうち帰りたい……。
「セサル殿ー。アトラス様が参られましたぞー」
セバスチャンが虹色の扉をノックすると、扉が勝手に開いた。
扉の奥に見えた部屋には色々な物が存在していた。
鍛冶の工具や窯、裁縫道具に料理設備。絵のキャンパスらしきものまである。
そんな統一性のない室内と、極めて趣味の悪い外観を持った家の中には……耳の尖った男が全裸で謎のポーズをとっていた。
何故かその顔は憂いを帯びた笑みを浮かべていて怖い。
「ああ……今日も世界がミーを祝福! ミーの美しさで、国が戦争にならないのを祈るばかりだ……」
「帰る」
「お待ちください! まだセサル殿は全力ではありませぬ!」
「いやもう十分お腹いっぱいだ! 何で服すら着てないんだよ!」
これ以上視界にいれないように、変人に背を向けて逃げ出そうとすると。
「待ちたまえ! このミーがフォルン領を幸福に導こう! ミーは滅びゆく土地を見捨てはしない!」
「人の土地を勝手に滅びの地にすんな! とりあえず服着ろ! ……しまった!? つい返事を!?」
「服か……ヒトが最初に作りし自然との隔絶。一枚の布は、ヒトをヒトたらしめた。ミーもヒトと話すならば着るべきか! ああ、世界よ! ミーはヒトとなろう!」
まるでミュージカルのように仰々しく、肺活量十分な声で変人は叫ぶ。
頭クラクラしてきた。
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