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レード山林地帯開拓編
第24話 レード山林地帯調査①
しおりを挟む「センダイ。お前が選抜した者で、レード山林地帯を偵察してきてくれ。入り口付近だけ確認してくれればいい。選んだ者には普段の業務は放置し、偵察を優先するように伝えておく」
「承知。人選は拙者任せでよいのでござるな?」
「ああ。お前の目で最も相応しい者を連れていけ」
先日、俺はセンダイとこんなやり取りをした。
レード山林地帯には強力な魔物が多数徘徊している。それは一般常識として知られている。
だが実際にレード山林地帯に入った者はほぼいない。危険すぎて冒険者も避けている土地だから、実際の目撃情報がないのだ。
レード山林地帯が危険と言われているのも、昔からの言い伝えの部分が大きい。
実情を知るために調査が必要だと思って、センダイに指示を出したのだが……。
何故か俺はレード山林地帯の前にいる。
「何でっ! 俺がっ! レード山林地帯の調査隊に選ばれてるんだよっ!」
「人選は拙者任せとおっしゃっていたでござる」
センダイは薄暗い森を見物しながら、酒瓶を口につけた。
「言ったけど!? 兵士の中から選ぶだろ!?」
「何を仰るか! こんな危険な場所に大事な部下を連れていけないでござる!」
「俺はお前の大事な主君なんだが!?」
しかもだ。他の面子はと言うと……。
「このセバスチャン! アトラス様の雄姿を目に焼き付けますぞ! フォルン領の偉人書を作成しますぞ!」
「おね……ラーク、楽しみだね。レード山林地帯って噂ではすごいところって聞くけど」
「興味あり」
セバスチャンが感激の叫びをあげ、カーマとラークが楽しそうに話している。
彼らは普段通りの服装で、どう考えても冒険に向かう雰囲気ではない。
そして最後の一人は……。
「も、申し訳ありません! こんな私が仲間になってて申し訳ありません!」
ナイラ領主ことライナさんが土下座をしていた。土の上なので本当の意味で土下座……いや土上座?
凄まじい人選だ。兵士が誰一人として選ばれていない!
「センダイ。マジで何でフォルン領の兵士が誰もいないんだ! これだといつものメンバーとライナさんでピクニック行くみたいだろうが!」
「ひっく……この面子が一番強いからでござる! 参ったでござるか!」
「何で偉そうなんだよ! 強い兵士一人くらいいないのか! 魔法使いはともかく、非戦闘員のセバスチャンよりマシなのいるだろ!」
「いないでござる!」
フォルン領はどうやらダメダメなようです。
この後にセバスチャンが重装騎士のフル装備で軽々動き、度肝を抜かれたりしたが割愛。
俺達はレード山林地帯へと入っていった。
周囲を警戒するが、足を踏み入れた直後はただの森に見える。
「今のところは普通の森だ……な……」
軽口を言おうとして、寝転んでいるドラゴンと目があった。象くらいの大きさあるんですが……。
急いで目を逸らして気づいていないフリを……よし、このままゆっくり立ち去れば。
「ドラァァァァァァ!」
「やっぱダメかぁ! ドラゴンが出たぞぉ!」
踏み入れて三歩でドラゴンとか、どんな魔境だここは!?
皆に警告して急いで逃げようとしていると。
「すぐにドラゴンとは物騒なところでござるな」
「ドラゴンなんてボク初めて見たよ」
「同じく」
他の面子もドラゴンに驚いて……いや何故か落ち着いてる。
まるで森でウサギでも見たかのような雰囲気だ。
「ボクがやるね」
カーマが片手を上げると、ドラゴンの足もとに巨大な魔法陣が発生する。
「焔の柱。叫びを奏でよ」
カーマの詠唱と共に、ドラゴンを覆いつくすほどの火柱が地面から吹きあがった。
ドラゴンは断末魔の悲鳴と共に、こんがりドラゴンステーキと化した。
センダイがドラゴンの死体に近づいて、しばらく観察した後。
「カーマ殿、これでは素材がダメになってるでござる。火加減をお願いしたい」
「あ、そうだね。焦がすのはよくないから次から気をつけるよ」
まるで料理に失敗したかのような会話だが、ドラゴン退治後である。
……実はドラゴンって雑魚だったりするんだろうか。
「なあセバスチャン。あのドラゴンって弱かったりするのか?」
「あれは平均的なドラゴンですな。小さい領ならあのドラゴン一頭で滅ぼされますぞ。強豪冒険者パーティーが苦戦する相手かと」
「あのドラゴンは瞬殺されたんだが」
「カーマ様が強すぎるのでしょう」
……俺の予想よりカーマが数倍は強かった件について。
これあれだろうな、ラークも同じくらい強いだろどうせ。何となくだが、彼女らは同じくらいの力な気がする。
「姉さま、木が多いところはお願い。山火事になっちゃうから」
「承諾」
和気あいあいと話すカーマとラーク。ドラゴンを倒した後とは思えない気楽さ。
普段ならば彼女らの可愛さに癒されるところだ。
「せっかくのドラゴンでござる。少し早いがここで昼飯はいかがかな?」
「いいですな。調理はお任せくだされ」
センダイが剣を引き抜いて、焼けたドラゴンを食べやすく解体していく。
もしかしてこのメンバー、かなり強いのでは?
センダイは未だに底が見えないし、カーマとラークは優秀な魔法使い。
俺もバズーカとか撃てるし、セバスチャンは丈夫な荷物持ち。
それにライナさんもバーサーカーだし……ってあれ?
「なあ、ライナさんはどこ行った?」
「彼女ならその辺で気絶しているでござる」
「いや気づいてるなら助けてやれよ!?」
「大丈夫でござる。何かあったら発狂して暴れるでござるよ」
酒を飲みながらドラゴンを解体していくセンダイ。
ライナさんも魔法を発動させれば強いだろうし、このパーティー最強じゃね?
ドラゴンがダース単位で来るとかでなければ、そうそう負けるビジョンが思い浮かばない。
「なんだ、レード山林地帯恐れるに足らずだな! 警戒して損した!」
「お兄さん、まだ山林地帯の入り口だよ。油断しすぎじゃ……」
カーマにたしなめられるが、俺の心は安心しきっていた。
ドラゴンを瞬殺できるのだから、そうそう怖い物はない。そう思っていた時期が俺にもありました。
「ははは。なあセバスチャン、俺の目に先ほどのドラゴンがダース単位で見えるんだが。まさかそんなことはあり得まい。蜃気楼が発生するとは魔境だなぁ」
「アトラス様、現実にお戻りください。あれは間違いなくドラゴンの群れです」
「ドラゴンの群れって何!? 群れる必要あるのかあいつら!?」
あれからドラゴンを食べて休憩し、十分くらい歩いた後。
先ほど食べたドラゴンの群れが現れて、仲間の復讐とばかりに襲い掛かって来た。
「死ぬ! 死ぬってこれ!? 何だここ魔境か!?」
「魔境だってば! お兄さん、早く魔法使って!」
俺は急いでバズーカを【異世界ショップ】で購入し、ドラゴンの一頭に打ち込む。
バズーカの直撃を顔に喰らったドラゴンは、力尽きて地面に倒れた。
だがその間に他のドラゴンたちが、一気に距離を詰めてくる!
なんでこいつらこんなに連携取れてるんだよっ! 単体でバカみたいに強い奴らが群れる必要ないだろうが!
「業火の壁!」
「氷壁」
カーマとラークの叫びと共に。炎の壁と氷の壁が、俺達を覆うように百八十度ずつ周囲に展開される。
とあるドラゴンは炎の壁を前にして突撃をやめる。またとあるドラゴンは氷の壁に体当たりするが、壁はビクともしない。
どうやらドラゴンたちに壁を壊す手段はないらしい。
「後は壁の中から魔法で倒せば終わりだね」
「完勝」
「流石は魔法使い。楽で助かるでござる」
相変わらず気楽そうなカーマたち。……マジで魔法使いチートだわ。
そりゃ魔法使いは一人いれば、戦いに大きな影響を及ぼすわけだ。
ドラゴンがダース単位で出てくるレード山林地帯を恐れるべきか、それをあっさり倒すカーマたちを恐れるべきか分からん。
本当に負ける要素ないなこれ……と俺は思っていた。
だがよく考えるべきだったのだ。単体で強力なドラゴンが群れている。
つまりレード山林地帯は、ドラゴンが群れなければ生きていけない環境だということを。
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