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カール領との対決編

第16話 決着

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 カール領の魔法使いに狙いを定めて、購入しておいたバズーカを発射する。

 敵軍から少し離れた後方。カール領主を守るようにしている魔法使いに、バズーカの弾が向かって行く。

「防壁!」

 魔法使いが杖を振るいながら叫ぶと、光の壁が奴を守る様に出現。

 バズーカの弾は壁に直撃して爆発を起こし、光の壁は砕けた。だが魔法使いたちに被害はない。

「あの程度の魔法使いが、あの威力の魔法を防げたの? すごい爆発だったし、あんなもろい防御魔法じゃ無理と思ったのに」

 馬車の窓から顔を出して、カーマが独り言のように呟く。彼女の疑問には簡単に返答できる。

 バズーカは魔法ではない。防御魔法がもろかったとしても、何かに当たった時点で爆発するからな。

 魔法使いから少し離れて光の壁が発生したので、爆風も届かなかったのだ。

 これは爆発するタイプの弾のデメリットか。だが別に構わない。

「じゃあもう一発」

 俺は【異世界ショップ】でバズーカを追加購入し、もう一度敵の魔法使いに向けて撃つ。

 敵の魔法使いはそれを見て狼狽しながらも、再び杖を振るって光の壁を出す。

 後は先ほどと同じように、弾は防がれて爆発した。

「なっ、なっ……!? あの威力の魔法を連射だと!?」

 敵の魔法使いの悲鳴のような叫びが聞こえる。
 
 どうやらバズーカの連射に驚いているようだ。そんなにすごいことなのか、魔法使いのことはよく分からんからな……。

「少なくとも並みの魔法使いなら無理だね。トップクラスの魔法使いなら可能だけど」

 カーマが俺の疑問に答えてくれる。バズーカの威力の魔法を連射できる者はあまりいないのか、覚えておこう。

 俺の役目は敵の魔法使いを抑えること。倒す必要はないので、何も考えずに更にバズーカを追加購入して撃つ。

 こうして防御に徹しさせて、攻撃さえさせなければよいのだ。

 兵士たちの戦いなら間違いなくこちらが勝つ。

 敵の魔法使いも防壁を発生させるが、先ほどよりも薄くなっていた。

 バズーカの弾の性質上、防壁が薄くなっても防がれてしまった。だが敵の魔法使いはもはや杖を支えにしてかろうじて立てている状態だ。

「ば、バカな……! たかが貧乏貴族が、何故あそこまで魔力をもっている!?」

 敵の魔法使いは何やらわめいている。答えは簡単である、魔力ではなくて金力で撃ってるから。

「あの魔法使い、もう魔力ないよ」
「ならトドメの一発だな」

 どうやら勝てそうなのでこのままやってしまおう。

 バズーカを追加購入して、魔法使いに構えて引き金を引こうとすると。

「待って。魔法使いは捕らえたほうがいいよ。捕虜にして保釈金をもらってもいいし、国に売り飛ばすこともできるから。貴重だからね」

 カーマの言葉に俺は撃つのをやめて、バズーカの銃口を下に降ろした。

 危ない危ない、歩く金塊を吹き飛ばしてしまうところだった。

 俺は地面に置いた拡声器を拾うと、兵たちを指揮しているセンダイに向けて。

「センダイ! 歩く金塊……じゃなかった、魔法使いは捕獲しろ!」
「承知でござる!」

 センダイが大声で返事をしてくる。

 フォルン領とカール領の兵士の戦いだが、一方的な戦いになっていた。

 フォルン領の兵士たちが三人がかりで、カール領の兵士一人を倒していく。

 おそらく一対一でも勝てるのに、三人がかりだから負けるほうが難しい。

 敵の武器は少し錆びているし、鎧にいたってはまともに着ている者が少ない。

 剣を振るうのにもへっぴり腰。そもそもこちらの主兵装は槍である。

 武具の質も、兵の練度も、兵数も全てで上回っている。そもそも戦いにすらなっていない。

 センダイの指揮のもと、カール兵士は次々と倒れていく。

 カール領で立っているのは領主と、魔力切れの魔法使いに兵士十人。もはや趨勢は決した。

 センダイがトドメを刺すべく、指示を出そうとすると。

「ま、待て! 今ならば許してやる! 特別に約束していた賠償金も払ってやるから!」

 カール領主が意味不明な叫びをあげる。

「もはや話し合いの余地はない。センダイ、やれ!」
「ひっく……御意にござる」

 センダイは酒瓶片手に兵士たちに突撃の指示を出す。

 ……また飲んでやがる。勝利は確実だが、戦争中に隊長が酒飲みやがって……。

「ま、待ってくれ! 降伏する!」

 カール領の兵士長らしき者が叫び、武器を放り投げて両手をあげた。

 他の兵士たちもそれに追随する。

「ば、馬鹿者! 何をやっている! 命を懸けて俺を守らぬか!」

 カール領主が必死の形相で叫ぶが、奴の兵士はそれを完全に無視だ。

 奴はムダを察したのか、雇った魔法使いのほうを向くと。

「魔法使い殿! 奴らを倒してくださ……れ……」

 カール領主の最後の希望は、杖を捨てて倒れながら両手をあげていた。

「どうやら命をかけてくれる忠臣はいないようだな。大人しく捕縛されろ」
「ふ、ふざけるな! 俺はカール領主だぞ! 貴様のような格下が上から目線だと! 俺を誰だと思って……!」
「センダイ、捕らえろ」

 俺の言葉にセンダイは頷いて、カール領主に近づいて腹に拳をいれた。

 白目をむいて倒れるカール領主。戦争は俺達の完全勝利で集結した。




ーーーーーー



 屋敷の執務室に戻った俺は、セバスチャン、センダイ、カーマを集めた。

 それと何故かレスタ商会のラークが参加して、今後どうするかの会議を開いている。

「さて。カール領には完全勝利した。問題はこの後だ……カール領を接収するつもりでいたが……木の根を食べるような状態の領地は、はっきり言って足手まといだ」

 カール領に完勝した後、カール領の領主館に攻め込んだ。

 そこで得た財政状況は想像していたよりも数倍酷い物だった。カール領主が無駄遣いをして、多額の借金を持っていたのだ。

 美術品や嗜好品、高級な食事代……あげればキリがない。

 それらを購入するために領の貯蓄も今年の税収も使い果たし、金不足を補うためにフォルン領に攻めてきた。

 もし領民が自分の無駄遣いのために、餓死しそうだと知ればどうなるかは明白だ。

 カール領主からすれば、フォルン領から金を奪うか失脚かの二択だったと。

 道理でフォルン領に無理やり攻めてくるわけだ。

「そうでございますな。仮にカール領を接収すれば、凄まじい足手まといを引き入れることになりますぞ」

 セバスチャンも同意見か。正直な話、この財政状況では以前に約束した賠償金すら危うい。

 水の含まれていない雑巾は、いくら絞っても何も出ない。

 不幸中の幸いなのは完勝したために、フォルン領の被害がなかったことか。

「ですがアトラス殿。隣領にカール領があるのは危険でござる」
「そうなんだよなぁ……」

 またバカ領主の暴走で攻められても困る。今のカール領主は交代させるにしても、次の領主も信じられるものではない。

 なにせ去年のフォルン領よりひどい状況だ。領内に金は一切なく、カール領主の多額の借金。さらに俺達へ前回と今回の戦いの賠償金を払う必要もある。

 俺達としても賠償金を要求しないわけにはいかないのだ。もし今回何もせずに許せば、他の領地に完全に舐められてしまう。

 次のカール領主はどれだけ有能でも難しい。【異世界ショップ】を持っている俺でも、賄えるか断言できないレベルだ。

「国の立場としては、フォルン領にカール領を接収して欲しいだろうね。今のままじゃカール領民は全員餓死だよ」
「……だとしてもだ。俺達が救う義理はない」

 カーマの言葉は理解できる。だが俺は承諾できない。

「そうですぞ! カールなど焼き滅んでしまってよろしいのです! 奴らは先代アトラス領主にどれほどの嫌がらせを……! それをずっと耐えて、先代は頭を下げておったのですぞ!」

 セバスチャンが激怒しながら叫んでいる。かなり鬱憤が溜まっているようで少し過激だな。

 うちとて完全な慈善事業を行う余裕はない。カール領民全員をメリットなく食わせるなど、考えただけでも恐ろしい。

 戦勝金が得れない状況では、大赤字になってしまう。

「「「うーむ……」」」

 部屋にいる全員が黙り込んでしまう。完全勝利したのにまるで敗北したかのようだ。

 カール領があまりにひどすぎて、接収すれば大損する。だが放置していても危険。

 レスタンブルク国に何とかして欲しいのだが……。チラリとカーマを見ると、彼女は察したようで首を横に振った。

「王家もこんな大赤字の領地は嫌だろうね。相談したら最後、褒美の名のもとにフォルン領に押し付けるよ」
「ぐっ……」

 手詰まりである。せめてカール領主の借金が何とかなれば……それでも赤字ではあるが。

「案がある」

 そんな俺達に救いの手を出したのは、今まで黙っていたラークだった。

「カール領主の借金。特定の商会からのみ借りている。国に無効にしてもらう」
「……流石に無理だろ。そんなことを国が許すわけがない」

 国が簡単に借金の帳消しを命じれば、商会からの信用がなくなってしまう。

 日本でも徳政令で借金を帳消しにすることはあったが……。

 少なくとも簡単に出してくれはしないと思う。一商会と一領地の間での借金だし。

「大丈夫。今回ならできる」
「……本当か? なら詳しい話を聞かせてもらおう」

 ベールで表情こそ見えないが、ラークは頷いた。

 どういったカラクリかは知らないが、それができるならば接収の選択肢もある。

 話を聞くだけなら損はない。ラークから詳細な話を聞くことにした。
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