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偶然の一致 ②
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え、その手ってどの手⁇
ちゃんと言葉にしてくれないと適当に反応できないよ……。
「……その手、とは?」
無表情だろうけど、平然を装いそう確認した。
「あ、はい、もちろんちゃんと分かっておりますよ。フェーリ様は徹底的に女神教を乗っ取りたいのですね? 確かに使用を禁じても、女神教を信仰する人は少なからずいます。そして、この国に点在しているアットを全部破壊するのはかなりの時間と労力を要しますから。そこで、逆にアットを神殿の代わりに利用すれば、女神教の痕跡を完全に消すことができます。一石二鳥……いいえ、それどころか、新しい神殿に観光客をかき集めれば、堅い基盤で他国に聖女様の救いの手を届けることができます! 短期間ですべてを可能にできます。……さすがです、フェーリ様‼︎」
……女神教を乗っ取る? ……完全に痕跡を消す?
えぇぇぇ⁈
いや、私はアットと経済を救いたいだけだよ……!
思わずそう釈明したくなったが、かえって仇になりそうでとりあえず黙った。
息を呑み、じっとキーパーを見つめていれば、何を勘違いしたのか、キーパーはあたふたと首を垂れた。
「も、申し訳ございません、フェーリ様。このくらい、あなた様に頼らずとも自分で考えるべきでした!」
うわ、何で一々頭を下げるの? ……すごく気まずいよ。
ひどく困惑したが、これで確信した。
どうやら、私がどう反応しても、キーパーは都合よく解釈してくれるようだ。しかし、それは彼の一方的な都合で、私の意思とまったく関係ない。
そもそも、一度しか会ったことない私を勝手に聖女だと確信して、戦争まで引き起こすところから可笑しいわ。うん、間違いない。キーパーは非常に身勝手な人だ。思考を巡らせながら、ひれ伏すキーパーを宥めた。
「……大丈夫」
「ありがとうございます、フェーリ様……」
キーパーは私の手を自分の額に引き寄せて、恭しく頭をさげた。
その光景をみて、胸にちくりとした痛みを感じた。
キーパーは南の国に多大な影響力を持っている。
この国の復興のためにも、キーパーをうまく利用するしかない、……けれど、下手すると全然違う方向へ進んでしまう。
……ああ、ダメだ。これは諸刃の剣だわ。
女神教を乗っ取るつもりはないけれど、このまま黙っていれば、キーパーはこの国に留まってくれる。加えて、経済の回復にアットの保護、とりあえず目下の問題は全部解決できる。
ここは余計なことを言わない方が賢いかな……?
ちらりと後方へ視線を走らせると、ニロの真顔が視界に飛び込んだ。
黙っておけ、と言わんばかりに、ニロは小さく首をふった。
そう、だよね……。そうしようか。
ついでにジョセフの方も確認すると、そこには呆れたような表情があった。ギロリとキーパーを睨み、ジョセフは座ろうともしない。
……いつも以上に心情があからさますぎるよ、ジョセフ。
呆然とそんなことを考えていた時、バン! と部屋にイグに入ってきた。
「──はぁ、はぁ。……ジョセフ様、聖女様の話題が、港湾都市の方まで広まったようです!」
「えっ⁈」
キーパーが来てから、まだ一時間も経っていない。それなのに、情報が本土まで拡散してしまった。
イグによれば、港湾都市のほうで既に人集りができている。
本来、明後日王都へ出発する予定だった。が、どうもこの調子だと陸地での移動は困難だそう。
急きょ、キーパーに群衆の注目を引いてもらい、明日の朝、私とジョセフは遠回りの海路を使うことになった。
突然の予定変更で、何も言えずに子供たちと別れてしまうのか。そう落ち込んだら、ニロが代わりに会いに行くと言ってくれた。
帰ってきたニロによれば、一家揃ってすごいショックを受けたらしいが、『聖女様と出逢えてよかった!』と大喜びしたとか。
私は手紙で、<アットを大事にしよう> と書いたから、三人はそうすると約束してくれた。
ちなみに、ナック君が新しい絵を描いてくれた。
私とニロ、そしてナック君が三人で抱き合う絵だ。
今度はその下に名前ではなく、『家族』と書いてあった。
……ナック君。まだ私のことを家族だと思ってくれたのね。
本物の家族にはなれないけれど、気持ちは嬉しいわ。
その絵を胸に、私は甲板に立つ。
朝日が出る前の島とさよならして、王都へ向かう。
ここに滞在できて本当によかった。
子供たちと出会え、新しい世界を見せてくれた。
彼らとわいわいして、ニロの手料理を食べたあの夜のことを一生忘れないだろう。
再びアットに観光客が集まれば、出稼ぎに行ったナック君の親も戻ってきてくれると思う。
聖女として、できる限りの努力をするから、いつか本物の家族と一緒に食卓を囲める日が来るといいね、ナック君……。
ぼぅとしながら太陽の淡い光線を浴びた港のほうを眺めていたら、突然。
「聖女さまー!」
子供たちの声が轟いた。
え、きてくれたの!
興奮してふりふりと三人に手を大きく振る。
よく見れば、カンニャさんとミアンさんも来てくれた。ニロが時間を教えてあげたのかな? 最後に顔が見れてよかった……!
「聖女さま、出逢えてよかった! ありがとうー!!」
離れてゆく港のほうから、子供たちの元気な声が届いた。
ニロから聞いたのと同じ言葉。
直接伝えるためにわざわざ来てくれたのか……。
ああ、出逢えてよかったのは私のほうだよ!
唇が硬いから、大声は出せない。
そう分かっているけれど、気持ちがこんこんと昂って、なんとか声を絞り出してみた。
「……あり、がとう!」
予想通り、発された声は小さかった。
十中八九聞こえなかっただろう。
せっかく来てくれたのに、感謝の思いも伝えられないのか……ああ、悔しい。
ナック君からもらった絵をぎゅっと抱きしめていたら、
「こちらこそ、ありがとうってさ!」
「みな、達者でな!」
セルンとニロの声が響いた。
まだお願いもしてないのに、二人は私の代わりに思いを届けてくれた。
以心伝心の仲。
言葉が不自由で、表情も不自由なのに、二人は私をわかってくれる。
いい人に恵まれているわ。
……ああ、私はなんて幸せものだ。
二人の横顔に視線を固定していれば、胸がぽかぽかと暖かくなって、目頭まで熱くなった。
いつもならこわばる頬も妙に軽くなり、自然と口角が上がった気がする。
「……ニロ、セルン、……あり、がとう」
そう呟くと、振り向いた二人は目をぱちくりさせた。
「……あれ、フェーリ(お嬢)、顔が……」
「だい、すき」
興奮して二人の背中に手を回した。
二人とも大好きだ!
目をつむり、ぎゅっとニロとセルンを抱きしめれば、二人も私を抱擁してくれた。
ああ、暖かい。
家族ではないのに、不思議と家族以上のつながりを感じる。
……そう考えると、家族って一体なんだろう?
血が繋がっているから、家族なのか?
一緒にいるから、家族なのか?
それとも思い合っているから、家族……なのか?
ならば、愛情ではなく同情でつながっていても、それを家族と呼べるのだろうか。
どんな感情でも、お互いを強く思えばそれは家族。……そうだとすれば、私は大きな間違いを犯してしまったわ……。
ナック君は何度も家族だと言ってくれたのに、私はその気持ちを蔑ろにした。彼とは決して家族になれないと、勝手に確信していたから……。
でもあの時の私たちをつないでいたのは、その場しのぎの同情だけではないはずなのに。ナック君たちとみんなで食卓を囲んだあの夜は幸せだったのに…っ
それだけでは足りないのかな? 私たちは家族になれないのかな……?
……いや、そんなことないわ。
私たちみんなで素敵な思い出を共有したじゃない!
ナック君、ニタちゃん、リット君。
みんな……。
「……家族だよー!」
喉の奥からすっと声が出た。
生まれてはじめて、ここまで声を張り上げた気がする。
この思い、無事三人に届いたのかな……?
小さくなってゆく人影は何やらぴょんぴょんと跳ねた。手を振っているのかな? もうよく見えないわ。
微かに聞こえてくる声も波の音にもみ消されてしまった。しかし、不思議と気持ちは通じ合った気がする。
そうだ。私たちは家族だ。
胸がいっぱいになっていると、
──誰もが苦しまない、平和な世界。
ふと、ジョセフが口にした理想が頭をよぎった。
……なぜ、戦争が起きるのだろう?
世界は一つしかないから、みんなは同じ屋根の下で生きている。
家族のようにみんながお互いを思いやれば、世界は平和になるのではないだろうか?
ああ、もしそう簡単に平和を築けば、どれだけいいのだろう。
外見、信念、宗教で迫害が起きなければ、どれだけ皆が幸せになるのだろう……。
世界が無理でも、それでも、この国だけでも……平和を実現させたい。
宗教と政治。
二大対立を無くす、大切な鍵。
私と、……ジョセフ。
あ、そうだわ!
国教と王家の融合。これが鍵だ。
同じ理想を目掛けて、二人が協力し合えば平和を維持できる!
孤児院に教育環境。
ジョセフの知恵を借りて、社長から資金さえ調達できれば、この国の復興に関われる。そうだ。あとでジョセフと話してみよう!
心の中に希望の蕾を咲かせて、きつく拳を握った。
そうして、カモメの鳴き声に見送られ、私はこの島を後にした。
ちゃんと言葉にしてくれないと適当に反応できないよ……。
「……その手、とは?」
無表情だろうけど、平然を装いそう確認した。
「あ、はい、もちろんちゃんと分かっておりますよ。フェーリ様は徹底的に女神教を乗っ取りたいのですね? 確かに使用を禁じても、女神教を信仰する人は少なからずいます。そして、この国に点在しているアットを全部破壊するのはかなりの時間と労力を要しますから。そこで、逆にアットを神殿の代わりに利用すれば、女神教の痕跡を完全に消すことができます。一石二鳥……いいえ、それどころか、新しい神殿に観光客をかき集めれば、堅い基盤で他国に聖女様の救いの手を届けることができます! 短期間ですべてを可能にできます。……さすがです、フェーリ様‼︎」
……女神教を乗っ取る? ……完全に痕跡を消す?
えぇぇぇ⁈
いや、私はアットと経済を救いたいだけだよ……!
思わずそう釈明したくなったが、かえって仇になりそうでとりあえず黙った。
息を呑み、じっとキーパーを見つめていれば、何を勘違いしたのか、キーパーはあたふたと首を垂れた。
「も、申し訳ございません、フェーリ様。このくらい、あなた様に頼らずとも自分で考えるべきでした!」
うわ、何で一々頭を下げるの? ……すごく気まずいよ。
ひどく困惑したが、これで確信した。
どうやら、私がどう反応しても、キーパーは都合よく解釈してくれるようだ。しかし、それは彼の一方的な都合で、私の意思とまったく関係ない。
そもそも、一度しか会ったことない私を勝手に聖女だと確信して、戦争まで引き起こすところから可笑しいわ。うん、間違いない。キーパーは非常に身勝手な人だ。思考を巡らせながら、ひれ伏すキーパーを宥めた。
「……大丈夫」
「ありがとうございます、フェーリ様……」
キーパーは私の手を自分の額に引き寄せて、恭しく頭をさげた。
その光景をみて、胸にちくりとした痛みを感じた。
キーパーは南の国に多大な影響力を持っている。
この国の復興のためにも、キーパーをうまく利用するしかない、……けれど、下手すると全然違う方向へ進んでしまう。
……ああ、ダメだ。これは諸刃の剣だわ。
女神教を乗っ取るつもりはないけれど、このまま黙っていれば、キーパーはこの国に留まってくれる。加えて、経済の回復にアットの保護、とりあえず目下の問題は全部解決できる。
ここは余計なことを言わない方が賢いかな……?
ちらりと後方へ視線を走らせると、ニロの真顔が視界に飛び込んだ。
黙っておけ、と言わんばかりに、ニロは小さく首をふった。
そう、だよね……。そうしようか。
ついでにジョセフの方も確認すると、そこには呆れたような表情があった。ギロリとキーパーを睨み、ジョセフは座ろうともしない。
……いつも以上に心情があからさますぎるよ、ジョセフ。
呆然とそんなことを考えていた時、バン! と部屋にイグに入ってきた。
「──はぁ、はぁ。……ジョセフ様、聖女様の話題が、港湾都市の方まで広まったようです!」
「えっ⁈」
キーパーが来てから、まだ一時間も経っていない。それなのに、情報が本土まで拡散してしまった。
イグによれば、港湾都市のほうで既に人集りができている。
本来、明後日王都へ出発する予定だった。が、どうもこの調子だと陸地での移動は困難だそう。
急きょ、キーパーに群衆の注目を引いてもらい、明日の朝、私とジョセフは遠回りの海路を使うことになった。
突然の予定変更で、何も言えずに子供たちと別れてしまうのか。そう落ち込んだら、ニロが代わりに会いに行くと言ってくれた。
帰ってきたニロによれば、一家揃ってすごいショックを受けたらしいが、『聖女様と出逢えてよかった!』と大喜びしたとか。
私は手紙で、<アットを大事にしよう> と書いたから、三人はそうすると約束してくれた。
ちなみに、ナック君が新しい絵を描いてくれた。
私とニロ、そしてナック君が三人で抱き合う絵だ。
今度はその下に名前ではなく、『家族』と書いてあった。
……ナック君。まだ私のことを家族だと思ってくれたのね。
本物の家族にはなれないけれど、気持ちは嬉しいわ。
その絵を胸に、私は甲板に立つ。
朝日が出る前の島とさよならして、王都へ向かう。
ここに滞在できて本当によかった。
子供たちと出会え、新しい世界を見せてくれた。
彼らとわいわいして、ニロの手料理を食べたあの夜のことを一生忘れないだろう。
再びアットに観光客が集まれば、出稼ぎに行ったナック君の親も戻ってきてくれると思う。
聖女として、できる限りの努力をするから、いつか本物の家族と一緒に食卓を囲める日が来るといいね、ナック君……。
ぼぅとしながら太陽の淡い光線を浴びた港のほうを眺めていたら、突然。
「聖女さまー!」
子供たちの声が轟いた。
え、きてくれたの!
興奮してふりふりと三人に手を大きく振る。
よく見れば、カンニャさんとミアンさんも来てくれた。ニロが時間を教えてあげたのかな? 最後に顔が見れてよかった……!
「聖女さま、出逢えてよかった! ありがとうー!!」
離れてゆく港のほうから、子供たちの元気な声が届いた。
ニロから聞いたのと同じ言葉。
直接伝えるためにわざわざ来てくれたのか……。
ああ、出逢えてよかったのは私のほうだよ!
唇が硬いから、大声は出せない。
そう分かっているけれど、気持ちがこんこんと昂って、なんとか声を絞り出してみた。
「……あり、がとう!」
予想通り、発された声は小さかった。
十中八九聞こえなかっただろう。
せっかく来てくれたのに、感謝の思いも伝えられないのか……ああ、悔しい。
ナック君からもらった絵をぎゅっと抱きしめていたら、
「こちらこそ、ありがとうってさ!」
「みな、達者でな!」
セルンとニロの声が響いた。
まだお願いもしてないのに、二人は私の代わりに思いを届けてくれた。
以心伝心の仲。
言葉が不自由で、表情も不自由なのに、二人は私をわかってくれる。
いい人に恵まれているわ。
……ああ、私はなんて幸せものだ。
二人の横顔に視線を固定していれば、胸がぽかぽかと暖かくなって、目頭まで熱くなった。
いつもならこわばる頬も妙に軽くなり、自然と口角が上がった気がする。
「……ニロ、セルン、……あり、がとう」
そう呟くと、振り向いた二人は目をぱちくりさせた。
「……あれ、フェーリ(お嬢)、顔が……」
「だい、すき」
興奮して二人の背中に手を回した。
二人とも大好きだ!
目をつむり、ぎゅっとニロとセルンを抱きしめれば、二人も私を抱擁してくれた。
ああ、暖かい。
家族ではないのに、不思議と家族以上のつながりを感じる。
……そう考えると、家族って一体なんだろう?
血が繋がっているから、家族なのか?
一緒にいるから、家族なのか?
それとも思い合っているから、家族……なのか?
ならば、愛情ではなく同情でつながっていても、それを家族と呼べるのだろうか。
どんな感情でも、お互いを強く思えばそれは家族。……そうだとすれば、私は大きな間違いを犯してしまったわ……。
ナック君は何度も家族だと言ってくれたのに、私はその気持ちを蔑ろにした。彼とは決して家族になれないと、勝手に確信していたから……。
でもあの時の私たちをつないでいたのは、その場しのぎの同情だけではないはずなのに。ナック君たちとみんなで食卓を囲んだあの夜は幸せだったのに…っ
それだけでは足りないのかな? 私たちは家族になれないのかな……?
……いや、そんなことないわ。
私たちみんなで素敵な思い出を共有したじゃない!
ナック君、ニタちゃん、リット君。
みんな……。
「……家族だよー!」
喉の奥からすっと声が出た。
生まれてはじめて、ここまで声を張り上げた気がする。
この思い、無事三人に届いたのかな……?
小さくなってゆく人影は何やらぴょんぴょんと跳ねた。手を振っているのかな? もうよく見えないわ。
微かに聞こえてくる声も波の音にもみ消されてしまった。しかし、不思議と気持ちは通じ合った気がする。
そうだ。私たちは家族だ。
胸がいっぱいになっていると、
──誰もが苦しまない、平和な世界。
ふと、ジョセフが口にした理想が頭をよぎった。
……なぜ、戦争が起きるのだろう?
世界は一つしかないから、みんなは同じ屋根の下で生きている。
家族のようにみんながお互いを思いやれば、世界は平和になるのではないだろうか?
ああ、もしそう簡単に平和を築けば、どれだけいいのだろう。
外見、信念、宗教で迫害が起きなければ、どれだけ皆が幸せになるのだろう……。
世界が無理でも、それでも、この国だけでも……平和を実現させたい。
宗教と政治。
二大対立を無くす、大切な鍵。
私と、……ジョセフ。
あ、そうだわ!
国教と王家の融合。これが鍵だ。
同じ理想を目掛けて、二人が協力し合えば平和を維持できる!
孤児院に教育環境。
ジョセフの知恵を借りて、社長から資金さえ調達できれば、この国の復興に関われる。そうだ。あとでジョセフと話してみよう!
心の中に希望の蕾を咲かせて、きつく拳を握った。
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