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9  王太子の思惑

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 子爵令嬢として何度かパーティーには出席したことはある。
 でも、王家主催ともなると、予想していたことではあるけれど、スケールが違った。
 招待されている貴族は高位貴族しかいないし、ダンスホールの広さも、休憩する部屋の数も桁違いだった。
 パーティー会場内には観賞用の調度品も置かれていた。
 ただ、私には全くその価値が理解できず、かなり高価なものだということだけしかわからなかった。
 出されている食事は立食形式になっていて、料理の質や種類もすごかった。
 
 リナには友人がいない。
 だから、私から話しかけなければいけない人は少なく、公爵令嬢ということで、相手から挨拶をしに来てくれた。
 だけど、挨拶をしてくる人は大物が多くて、かなり神経をすり減らした。

(家族のためとはいえ辛いわ。でも、私がリナに似ていなければ、家族に嫌な思いをさせずに済んだんだもの。これくらいは我慢しなくちゃ)

「疲れた? 少し休む?」

 人が途切れた時に、ルディが気遣ってくれた。

「ありがとう、大丈夫よ」
「無理しなくていい。それに、今は元気がないほうが良いかもしれない」
「そうね。皆、かなり呆れているものね」

 ルーナとアル殿下のことは他の貴族も前々から気付いていたようだった。
 大きな声では言わないけれど、アル殿下とルーナを責める声は多いのだと、挨拶をしてくれた人たちから教えてもらった。
 
「少し休もう。俺も疲れた」

 ルディに促されてパーティ会場を抜け出した。
 休憩できるベンチが中庭にあるとのことなので、ルディと共にそちらへ向かうことにした。

「本当に疲れたわ」
「お疲れ様」
「もう帰りたい」
「もう少しで帰れるから我慢して」

 そんな会話をしながら、目的のベンチの近くまで辿り着いた時だった。

 突然、ルディが私の肩を抱き寄せた。

「えっ!? な、なにっ!?」
「静かに」

 ルディは片手で私の口を押さえたかと思うと、すぐに手を離した。

「失礼するよ」 

 ルディはそう言って困惑している私を抱き上げた。
 そして、近くにあるベンチを踏み台にして飛ぶと、ベンチの後ろにある、低木の陰に隠れるようにしゃがみこんだ。

「え? 何? 何なの?」
「静かにって言ってるでしょ」

 ルディが私の口に人差し指を当てる。
 片方の腕は私の腰に回したままなので、かなり密着状態で落ち着かない。

(こんな状況でドキドキするなんて駄目よ)

 その時、一気に冷静になれる声が聞こえてきた。

「ルーナ、やっと二人きりになれたね」
「はい! とっても嬉しいです。そういえば、アルフレッド殿下は、私よりリナ姉さまがいいんですか?」
「そんなことはない。俺はずっとルーナ一筋だよ」

 先程、ルディが踏み台にしたベンチに、ルーナとアル殿下が座ったのがわかった。

 私とルディは顔を見合わせて頷き合い、二人の会話を聞くことにする。

「本当にわたし一筋なんですか?」
「本当だよ。嘘じゃない」

 アル殿下は優しい声でルーナに言った。

「じゃあ、わたしといつかは結婚して下さるんですか?」
「もちろんだよ。だけど、今はまだ駄目なんだ」
「どうしてですか?」
「君のお父上は、リナと結婚した者にしか財産を分け与えてくれない。それは先代の遺言らしい。やはり贅沢をするにはお金が必要だろう? お金があれば、今よりももっと贅沢が出来るんだ。だから、リナと結婚しなくちゃいけないんだよ」

(なんてことを言うのよ! 別にあなたを贅沢させるためだけに、皆頑張ってるわけじゃないんだけど! というか、財産を分け与えるって何の話よ!?)

「ひどい。お金がない、わたしとは結婚して下さらないってことなんですか?」
「そんなことはないよ」

(そんなことあるでしょ)

 木とベンチの背もたれのせいで、二人が今、どんな状況か、はっきりとはわからない。

(会話の内容だけでも婚約破棄案件だと思うけどね!)

「すまない、ルーナ。どうしても、公爵家のお金が必要なんだ。許してくれ」
「アルフレッド殿下、その言葉を信じて良いんですね?」
「もちろんだよ、ルーナ。君を愛している」
「嬉しい!」

 二人はその後、かなり長い時間、愛を語り合っていた。
 途中で馬鹿馬鹿しくなって、聞いていられなくなり、私とルディは反対側から城に続く小道に出た。

「映像を記録できるものを持っていれば良かったな」
「本当よね。まさか、二人があんなことを考えていたなんて……、というか、私たちも今、誰かに見られたら良くない状態ね」
「そう言われればそうだね」

 ルディは頷いて、私から距離を取った。
 そして、周りに誰もいないことを確認してから、何もなかった顔をしてパーティー会場に戻ったのだった。
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