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第31話 くだらない理由
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次の日はルーラス様のお仕事がお休みの日でしたので、昨晩話し合った内容を王太子殿下と両陛下にお話に行くことにしました。
朝早くという失礼な時間でしたが、緊急でなければ私たちがそんなことを言ってこないとわかってくださったこともあり、両陛下も王太子殿下も時間を作ってくださいました。
セレシー様のことについては、両陛下も王太子殿下も薄々気がついておられたようですが確信が持てないといった感じだったようです。
以前、王妃陛下は図書館にモリナ様たちを読んで話をされましたが、お二人がルーラス様に対して恋愛感情があるのかどうかの確認でした。
妻である私がルーラス様を好きでいてもおかしくはありませんので、王妃陛下は私を呼び出す必要はなかったのです。
結果、二人共がルーラス様には義弟以上の感情は持っていないと答えたのだそうです。
王妃陛下は一度はそれを信じようと思われたようですが、どうしてもセレシー様のことだけは怪しいと思われていたようでした。
なぜなら、セレシー様が図書館の館長であるエレガンさんと図書館の裏で会っていたという話が庭師から騎士、騎士から王妃陛下の侍女に伝わり、それを聞いた王妃陛下が本人に軽く聞いてみたんだそうです。
すると、セレシー様はすごい剣幕でそれを否定し「魔法陣のことなんか知らない」と答えたとのことでした。
何も言っていないのに魔法陣という言葉が出たことを王妃陛下が陛下にお話したところ、魔法陣について調べれば何かわかるかもしれないとなり、陛下は側近であるダオ様に図書館まで行って本を探してくるように頼まれたとのことでした。
「本が燃えたのは国王陛下のお部屋だったのですよね?」
「そうだ。ダオから本を受け取って、王妃よりも先に自分が読んでいたら続きが気になってしまって、結局は私が先に読むことなったんだ」
謁見の間ではなく、応接室で話をしているからか、陛下の口調はいつもよりも優しげな感じがします。
私を除けば家族しかいませんから、リラックスされているのかもしれません。
「本のことについては二人が食事の際に話をしているのを聞いたんだ。モリナの家のことが書かれてあったらと思うと怖くて……」
今まで黙って話を聞いていた王太子殿下でしたが、そこまで言うと、コの字型に配置されたソファーの一人席に座っていた陛下に向かって、立ち上がって頭を下げられました。
「軽率な行動でした。申し訳ございませんでした。王太子のすることではないと理解しております」
「怪我人が出たわけじゃないから気にするな。古い本が燃えてしまったのは残念だが、中身は記憶してあるし、暇を見て書いていくことにしよう」
陛下の言葉に疑問を持ったのは私だけのようですので、手を挙げて発言の許可をもらった後に聞いてみます。
「陛下は本の内容を全て覚えておられるのですか? ……正確には読み終えたところまでになるのかもしれませんが」
「一応な。焼けた本の内容は無理だが、ラディもルーラスも同じようなことが可能だぞ」
「えっ!?」
思わず大きな声で聞き返してしまいました。
「失礼しました」
慌てて一礼してから謝りますと、向かいに座っている王妃陛下が微笑して首を横に振ります。
「驚くのは当たり前だわ。私だって最初は驚いたもの。しかも魔法じゃないっていうのだから余計にね」
「記憶力がすごいのですね」
「良し悪しだな。嫌なことまで忘れられないし」
感心していると、横に座っているルーラス様が苦笑して教えてくれました。
そう言われてみればそうですよね。
記憶力が良いということは、嫌なことや悲しいことも忘れにくいということです。
よっぽどのことでなければ、眠ったら忘れてしまう私とは大違いです。
「あと、実は途中までしか読んでいなかったと言ってはいたが、あの本はほとんど最後まで読めている。燃やした相手が誰だかはっきりしなかったからわざと言わなかった。命を狙われても面倒だしな」
「……本を燃やしたのは王太子殿下とわかりましたし、これからどうされるおつもりなのでしょうか」
モリナ様が恐れていたことが書かれていたのかどうか気にはなりましたが、今はどうでも良いことですし、そのことは聞かずに、これからのことを陛下に尋ねると眉間に皺を寄せて答えてくださいます。
「今のままではセレシーにお前が犯人だろうと言っても認めはしないだろう。証拠が必要だ」
「それはそうですね。……となりますと」
ちらりとルーラス様を見ますと、不思議そうな顔をされます。
「どうした?」
「いえ、これは妻の私が言うべきことではありませんので……」
苦笑して首を横に振りますと、王妃陛下が手を挙げてくださいました。
「私が言うわ」
私の言おうとしていることをわかってくださったのか、王妃陛下はルーラス様に優しい口調で言います。
「セレシーはどうやらあなたにこだわっているみたい。ということは、あなたが一番、セレシーの本音を聞き出しやすいと思うの」
「……そうだな。もしかしたら昼間にお前が子供にならないのは、そのためじゃないのか?」
王妃陛下の言葉を聞いた王太子殿下が、そう尋ねてルーラス様を見つめました。
「そのためって……、俺と会うためってことですか? そんなくだらない理由で!? 別に昼じゃなくても夜だってパーティーや何かで会えるでしょう」
「お前は夜勤をしていないから、夜は屋敷の中にいる。ということはセレシーがお前に会えるのは昼間だけだ」
「……リルもそう思うのか?」
王太子殿下に言われたルーラス様は、少し悩んでから私に聞いてこられました。
「その可能性はあります。自分以外の女性と一緒にいるルーラス様を見たくなかったのではないかと思うんです。ルーラス様は今まで休みをほとんどとらずに昼は働かれていたはずです。私と結婚してからは、お休みを取ってくださるようにはなりましたが……」
そう答えてから、あの時のことを思い出して続けます。
「私の歓迎パーティーの日に、セレシー様は手を繋いでいる私たちを気にされておりました。そして辛そうな表情をしておられたのです。その時は亡きリド殿下のことを思い出しておられるのかと思っておりましたが、そうではなかったのかもしれません」
「……わかった。上手くいくかわからないけど、とにかく彼女の本音を確かめるために罠に掛ける」
ルーラス様は覚悟を決めたような真剣な表情で頷かれたのでした。
朝早くという失礼な時間でしたが、緊急でなければ私たちがそんなことを言ってこないとわかってくださったこともあり、両陛下も王太子殿下も時間を作ってくださいました。
セレシー様のことについては、両陛下も王太子殿下も薄々気がついておられたようですが確信が持てないといった感じだったようです。
以前、王妃陛下は図書館にモリナ様たちを読んで話をされましたが、お二人がルーラス様に対して恋愛感情があるのかどうかの確認でした。
妻である私がルーラス様を好きでいてもおかしくはありませんので、王妃陛下は私を呼び出す必要はなかったのです。
結果、二人共がルーラス様には義弟以上の感情は持っていないと答えたのだそうです。
王妃陛下は一度はそれを信じようと思われたようですが、どうしてもセレシー様のことだけは怪しいと思われていたようでした。
なぜなら、セレシー様が図書館の館長であるエレガンさんと図書館の裏で会っていたという話が庭師から騎士、騎士から王妃陛下の侍女に伝わり、それを聞いた王妃陛下が本人に軽く聞いてみたんだそうです。
すると、セレシー様はすごい剣幕でそれを否定し「魔法陣のことなんか知らない」と答えたとのことでした。
何も言っていないのに魔法陣という言葉が出たことを王妃陛下が陛下にお話したところ、魔法陣について調べれば何かわかるかもしれないとなり、陛下は側近であるダオ様に図書館まで行って本を探してくるように頼まれたとのことでした。
「本が燃えたのは国王陛下のお部屋だったのですよね?」
「そうだ。ダオから本を受け取って、王妃よりも先に自分が読んでいたら続きが気になってしまって、結局は私が先に読むことなったんだ」
謁見の間ではなく、応接室で話をしているからか、陛下の口調はいつもよりも優しげな感じがします。
私を除けば家族しかいませんから、リラックスされているのかもしれません。
「本のことについては二人が食事の際に話をしているのを聞いたんだ。モリナの家のことが書かれてあったらと思うと怖くて……」
今まで黙って話を聞いていた王太子殿下でしたが、そこまで言うと、コの字型に配置されたソファーの一人席に座っていた陛下に向かって、立ち上がって頭を下げられました。
「軽率な行動でした。申し訳ございませんでした。王太子のすることではないと理解しております」
「怪我人が出たわけじゃないから気にするな。古い本が燃えてしまったのは残念だが、中身は記憶してあるし、暇を見て書いていくことにしよう」
陛下の言葉に疑問を持ったのは私だけのようですので、手を挙げて発言の許可をもらった後に聞いてみます。
「陛下は本の内容を全て覚えておられるのですか? ……正確には読み終えたところまでになるのかもしれませんが」
「一応な。焼けた本の内容は無理だが、ラディもルーラスも同じようなことが可能だぞ」
「えっ!?」
思わず大きな声で聞き返してしまいました。
「失礼しました」
慌てて一礼してから謝りますと、向かいに座っている王妃陛下が微笑して首を横に振ります。
「驚くのは当たり前だわ。私だって最初は驚いたもの。しかも魔法じゃないっていうのだから余計にね」
「記憶力がすごいのですね」
「良し悪しだな。嫌なことまで忘れられないし」
感心していると、横に座っているルーラス様が苦笑して教えてくれました。
そう言われてみればそうですよね。
記憶力が良いということは、嫌なことや悲しいことも忘れにくいということです。
よっぽどのことでなければ、眠ったら忘れてしまう私とは大違いです。
「あと、実は途中までしか読んでいなかったと言ってはいたが、あの本はほとんど最後まで読めている。燃やした相手が誰だかはっきりしなかったからわざと言わなかった。命を狙われても面倒だしな」
「……本を燃やしたのは王太子殿下とわかりましたし、これからどうされるおつもりなのでしょうか」
モリナ様が恐れていたことが書かれていたのかどうか気にはなりましたが、今はどうでも良いことですし、そのことは聞かずに、これからのことを陛下に尋ねると眉間に皺を寄せて答えてくださいます。
「今のままではセレシーにお前が犯人だろうと言っても認めはしないだろう。証拠が必要だ」
「それはそうですね。……となりますと」
ちらりとルーラス様を見ますと、不思議そうな顔をされます。
「どうした?」
「いえ、これは妻の私が言うべきことではありませんので……」
苦笑して首を横に振りますと、王妃陛下が手を挙げてくださいました。
「私が言うわ」
私の言おうとしていることをわかってくださったのか、王妃陛下はルーラス様に優しい口調で言います。
「セレシーはどうやらあなたにこだわっているみたい。ということは、あなたが一番、セレシーの本音を聞き出しやすいと思うの」
「……そうだな。もしかしたら昼間にお前が子供にならないのは、そのためじゃないのか?」
王妃陛下の言葉を聞いた王太子殿下が、そう尋ねてルーラス様を見つめました。
「そのためって……、俺と会うためってことですか? そんなくだらない理由で!? 別に昼じゃなくても夜だってパーティーや何かで会えるでしょう」
「お前は夜勤をしていないから、夜は屋敷の中にいる。ということはセレシーがお前に会えるのは昼間だけだ」
「……リルもそう思うのか?」
王太子殿下に言われたルーラス様は、少し悩んでから私に聞いてこられました。
「その可能性はあります。自分以外の女性と一緒にいるルーラス様を見たくなかったのではないかと思うんです。ルーラス様は今まで休みをほとんどとらずに昼は働かれていたはずです。私と結婚してからは、お休みを取ってくださるようにはなりましたが……」
そう答えてから、あの時のことを思い出して続けます。
「私の歓迎パーティーの日に、セレシー様は手を繋いでいる私たちを気にされておりました。そして辛そうな表情をしておられたのです。その時は亡きリド殿下のことを思い出しておられるのかと思っておりましたが、そうではなかったのかもしれません」
「……わかった。上手くいくかわからないけど、とにかく彼女の本音を確かめるために罠に掛ける」
ルーラス様は覚悟を決めたような真剣な表情で頷かれたのでした。
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