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第28話 隠されていた思惑

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 薄情な話ではありますが、ジオラ夫人の死については、魔法陣がこれで一年間は使われなくなったという安心感しかありませんでした。

 人が一人亡くなっているというのに、本当に失礼な話ですよね。
 反省しなければなりません。

 あと、私が世間知らずだから知らなかったようですが、この国の貴族の多くはバフュー様たちのように血統と能力を気にするため、自分の家の名を汚す犯罪行為をすることは特に嫌っているようでした。
 もし、悪事を働くにしても平民を使うので、貴族が罪に問われることはないようです。

 でも、そうなりますと疑問が出てきます。
 自分の手で罪を犯すことを嫌うということはジオラ夫人だって同じ思いだったはずです。
 それなのにどうしてあんなくだらない理由で罪を犯したのでしょう。
 実際の理由はそうではなかったということでしょうか?

 無言で考えていると、ルーラス様が話しかけてきます。

「どうかしたのか?」
「疑問がいっぱいで頭がこんがらがってきまして……」
「俺も気になることがあるんだよ」

 ルーラス様は読んでいた本を閉じてサイドテーブルの上に戻したあと、今度は仰向けになってから言葉を続けます。

「どうしてラディ兄さんは毒の魔法をかけたのは俺じゃないとわかったんだろう?」
「兄弟仲がよろしいですし、ルーラス様はそんなことをする方じゃないと思われたのでは?」
「うーん。そういう意味だったとしたのなら嬉しいけど、そうでもないような気がしてきたんだよな」
「そうでもないような、というのはどういうことでしょうか?」
「本人に聞いてみたんだけど、違うって言うから何とも言えないんだ」

 ルーラス様には何か仮説があるようですが、それが確実ではないため、口に出せない感じに見えましたので、思いついたことを尋ねてみます。

「王太子殿下がルーラス様じゃないとおっしゃったのは、毒の魔法を受けた時に魔力の雰囲気でわかったとかでしょうか?」
「魔力の雰囲気ってなんだよ」
「兄弟でしたら、そういうものが感覚的にわかるのかと思いまして」
「俺は今までそんなことを感じたことはないな。というか、魔法陣は別として、それ以外で誰かに魔法をかけられたという記憶があまりない。あ、練習も別な。でも、その時に感じるのは魔力云々というより、火の攻撃魔法なら熱い、氷の攻撃魔法なら冷たいとかの感覚のほうが勝つんじゃないか?」
「攻撃魔法を受けたことがないのでわからないのです。先日、何かの魔法をかけられましたが、異変を感じただけなんです。なんと言いますか、テリトリーに誰かが侵入した感じでしょうか」

 その時に魔力を感じるということができなかったので、現在もその相手が誰かわからない状態になっていますのでどうにかしたいものではあります。

 魔法が解除された時点で魔力の痕跡はなくなってしまうため追跡もできません。
 今までは誰が魔法をかけたかわからなくても困らないくらい、魔法を使った犯罪がなかったということがわかります。

 もしかすると、探知魔法も指南書に載っているかもしれませんし確認してみないといけません。

「考えてみますと、最近になってこんな物騒なことばかり起こっているのですね……」
「王城警察ができたのも最近だしな」
「そう言われればそうですね」

 頷いてから、正直に聞いてみます。

「ルーラス様、仮説でも良いですので、何をどうお考えになっていらっしゃるのか教えていただけないでしょうか?」
「……うーん、まあ、そうだな。リルには話しておくことにする。だけど、それを聞いたからって行動に出るのはやめてくれるか?」
「それはもちろんです!」

 大きく頷いてみせると、ルーラス様は身を起こして私を見つめた後、可愛らしい顔を歪めます。

「あの時、ラディ兄さんは犯人に心当たりがあって、俺じゃないと言ってくれたんじゃないかと思う」

 ルーラス様の言葉を聞いて、先日、王妃陛下が話をしてくださった時のことを思い出して口にしてみます。

「もしかしてその犯人というのは、モリナ様のことでしょうか?」
「……ラディ兄さんはそう思ったんじゃないかな」
「ですが、モリナ様は毒の魔法を使えないのでは?」
「モリナ様をレイドが密かに鑑定魔法で調べたのは結婚式の時だ。それからは本人が口に出さない限りわからない」
「で、では結婚してから覚えた可能性があるということですか?」
「それを確認したいがレイドがいないし、今の段階では彼を城内に入れることは無理だ」

 もしかして、ジオラ夫人をカムフラージュにするために今回の件にわざと巻き込んだ?
 レイド様を王城に出入りできなくさせることが目的だったのでしょうか?
 となると、ジオラ夫人は誰かに利用されただけ……?

「魔導師がモリナ様だという可能性もありますか?」
「可能性がないことはないが、証拠がないし、魔法をかけた相手がモリナ様だとラディ兄さんは認めないと思う」
「証拠がないのに決めつけることはよくありませんよね。でも、モリナ様が魔導師ではなかった場合、毒の魔法が王太子殿下にかかってしまった理由がわかりません。協力者がいるということでしょうか」

 それに、どうしてモリナ様は王太子殿下に毒の魔法をかけようと思ったのでしょうか?

「ちょっと紙に書いて整理してみるか」

 その言葉を聞いた私は寝室内にある書き物机の引き出しからペンと紙を取りに行き、ベッドの上に戻ったのでした。


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