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第24話 秘術の本

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 エレガンさんは当日には何も言って来られませんでしたが、ルーラス様から何か言われたのか、次の日の昼に屋敷まで謝りに来られました。
 謝罪を受け入れはしましたが、次に同じようなことがあれば容赦はしないということをお伝えしますと、エレガンさんは二度とこのようなことはしないと誓われました。
 彼女を信用しているわけではありませんので、その場では「何かあれば連絡します」と伝えると、今は手が空いているので今からどうかと誘われました。

 どうして彼女の都合に合わせないといけないのかと思いまして、用事はありませんでしたが、お断りし、その次の日にルーラス様と一緒に図書館に向かうことにしました。

 今日は朝からよく晴れており、空には雲一つありません。
 過ごしやすい気温でもありましたので、少し遠回りをして向かうことにしました。
 
 ルーラス様と仲良く手を繋いで歩いていますと、道に沿って植えられている低木を手入れしていた庭師の人たちが手を止めて一礼してくれます。

 昨日、ホリーたちとここを散歩していますと、庭師の人たちが話している声が聞こえたのです。

 深刻そうだったので話しかけてみますと、休憩時間だということを念押しされてから、庭師のリーダーの方が体調が優れず寝込んでしまっており、原因も不明だと聞きました。
 しかも王太子殿下が倒れられた日からいきなり悪くなったと言うのです。
 ですので、無理をいって来てもらい、無効化の魔法をかけたところ元気になられたのです。

 そのおかげか、庭師の皆さんは私を見てニコニコしてくれています。
 そして、リーダーのお爺さんもとても笑顔です。

 幸せそうな笑顔を見るのは良いことです。
 ただ、隣を歩いている方は笑ってくれてませんが……。
 一人で図書館にも行けない私を怒っていらっしゃるのでしょうか……。

「せっかくのお休みですのに申し訳ございません」
「別に」

 ルーラス様が私を見て首を横に振ります。

「図書館デートっていうことにしたら良いだろ」
「ルーラス様は本はお好きなのですか?」
「嫌いではないけど、あんまり読む暇はないんだよな。あと、体を動かすほうが好きだし」
「見た目からしてやんちゃそうですものね」
「子供扱いするな」

 ルーラス様は不機嫌そうに眉根を寄せました。

 ファーストキスの一件からルーラス様は子供扱いされることを特に嫌がるようになりました。

 あの時、もっとロマンティックな感じでキスをすべきだったのでしょうか。
 反省しなければなりません。

 次の日の夜に、もう一度キスの話をしてみましたが「夜以外にしないと意味がない気がする」と言われてしまい、リベンジはできておりません。

 今日くらいにはリベンジができるのでしょうか!

「子供扱いはしておりませんよ! 今日こそは頑張りましょうね!」
「……何をだよ」

 ルーラス様が不思議そうな顔をして聞いてきたところで、ちょうど図書館に着きました。
 受付の人に挨拶をし、入館名簿に私とルーラス様の名をホリーが書いてくれたことを確認してから彼女に言います。

「時間がかかると思いますから、ホリーは屋敷に帰っていてください。騎士の方は待合室があるようですから、そこでお待ちいただけますか?」
「承知しました」

 ルーラス様がいらっしゃるからか、ホリーは躊躇う様子はなく頷き、騎士たちからも「承知しました」と返ってきました。

 ルーラス様と一緒に解除された扉の向こうに足を踏み入れて、先日はゆっくり見られなかった中を見回します。

 やはり、本好きにはたまらない場所だと再確認しました。

 ただ、今日は娯楽の本を探しに来たわけではありませんので、ここに来た理由のカムフラージュになりそうな本を探しつつ、魔法陣について書かれた本がないか探してみます。

 司書の方に魔法について書いてある本棚がある場所も教えてもらっておりますので、私が娯楽の本を探している間に、ルーラス様が魔法のことが書かれてある本棚から何冊か抜いて、椅子に座って確認を始めてくれました。

 図書館内には私たち以外誰もおらず、静かな広い空間にページをめくる音が響きます。

 私も恋愛小説を一冊だけ手にとって、ルーラス様の向かい側に座りました。

 茶色のテーブルの上に恋愛小説を置き、ルーラス様の目の前に積まれている魔法について書いてある本を手に取った時でした。

 扉が開く音が聞こえて振り返りました。

 私たちのいる場所は二階ですので、入ってきた方からは見えにくい位置にいます。

 手に取った魔法の本をルーラス様のところに戻し、恋愛小説を読み始めると、トントンと二階に上がってくる足音が聞こえてきました。

 ルーラス様が本を閉じ警戒態勢を取ったところで、相手が誰だかわかりました。

「ルーラス殿下、リルーリア様、お邪魔して申し訳ございません。頼まれました本が見つかり次第、すぐに出て行きますので」

 そう頭を下げてから、エレガンさんは黒のワンピースの裾を揺らし、魔法関連の本が置いてある棚に向かって歩いていきます。
 少ししてから、エレガンさんは一冊の本を胸に抱えて、こちらへやって来られました。

「見つかりましたので失礼いたします」
「ちょっと待て。何の本を持っていくんだ?」
「……」

 エレガンさんは答えたくなさそうでしたが、ルーラス様に聞かれた以上は答えなければなりません。
 渋々といった様子で、彼女は小さな声で答えます。

「魔法と秘術に関わる本です」
「秘術……?」
「夢物語の話ですから、お気になさらないでくださいませ」
「夢物語なら余計に気になるな」

 ルーラス様は立ち上がり、笑顔を作ってエレガンさんに近づいて話しかけます。

「ちょうど珍しい魔法について調べようと思ってたんだ。ここ最近、不思議なことばかり起こっているからな」
「それは……」
「リルは考えすぎだと言うんだが、俺は魔法のような気がするんだ。俺も読んでみたい。返って来たら教えてくれないか」

 ルーラス様にお願いされたエレガンさんはなぜか震えた声で言います。

「申し訳ございません、ルーラス殿下。これを必要としているのは王族の方でございます」
「俺も王族なんだが? とにかく、その誰かが読み終えて本が返ってきたら教えてくれ」

 相手が誰だか伝えられないというのは理解できますから、ルーラス様はそう言ったあと、エレガンさんが何か言う前に席に戻られました。

 エレガンさんは何か言いたげにしておられましたが、ルーラス様は相手にしません。

 ルーラス様に逆らうわけにもいかないといった感じで、エレガンさんは諦めて階段を下りていかれました。


 誰が魔法の本を持ってくるように頼んだのでしょう。
 そして、あの本には何が書かれているのでしょうか。

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