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第20話 元婚約者現る
しおりを挟む執事から知らせを聞いたのは、夜も遅い時間でした。
家族でもない私たちが動くには、非常識な時間ですから何もできません。
特にルーラス様は子供姿ですので余計にです。
夜が明けてから動くことにして、寝室に入りました。
といっても、すぐに眠れるはずがありませんので、ベッドに横になって話をすることにしました。
子供のルーラス様がベッドの上によじ登ろうとされましたので抱き上げますと「いつもごめん」と謝ってこられました。
「どうして謝られるのです? 抱き上げることは嫌ではありませんし、今のルーラス様ではどうしようもできないことなのですから気になさらないでくださいませ」
「……早く魔法陣を見つけないといけないな」
ルーラス様は子供らしくない、大きなため息を吐かれました。
私は少し考えてから、ルーラス様に話しかけます。
「やはり、魔法陣を使う相手は、私達の身近な人物のようですね」
「そうみたいだな。ただ、どうしてジオラ夫人を殺したんだ? しかも今回は、殺しが目的みたいな感じじゃないか」
「リド様の時は殺すことが目的というより、苦しめることが目的という、それはそれで残酷なパターンではありますが、犯人はジオラ夫人を殺すことで何かメリットがあるのでしょうか」
「何かの口封じかもしれないが、ジオラ夫人が何を知っていたのかがわからない」
「特定のワードを発すると死んでしまう魔法なのか、それともジオラ夫人が亡くなった時間帯に魔法陣を完成させたのか、それも判断できません」
今回もリド様の時と同じように城の敷地内で魔法陣が見つかれば、城の関係者を一人一人洗い出さなければなりません。
ただ、自分から魔法陣のことを知っていると言い出さないでしょうし困ったものです。
レイド様が今のところ、王族以外は鑑定してくださっていて、特に怪しい人もいないようです。
レイド様がわからないと言われたのは、たった一人で、その一人が私でした。
「魔法陣についてもっと詳しく書いている本がないか探してみないといけないな」
「城の敷地内に図書館がありますわよね? そちらに何か書いてある本が置いてある可能性はありますか?」
「一度、司書に聞いてみる」
「よろしければ私が行ってみてもよろしいでしょうか? 表向きは暇つぶしということにしようと思います。魔法のことを調べていると思われるのは嫌なのです」
「そんな複雑な魔法が使える人間なら、俺たちが使える魔法を使えて当たり前だから、下手に動くとリルが危険かもしれないし、リルは事件について特に関心のないふりをしていたほうが安全か」
ルーラス様は頷かれたあと、小さな手をこちらに伸ばしてこられます。
「無理はするなよ? 新たな魔法陣に対する恐怖はしばらく消え去ったけど、ジオラ卿のこともあるし、魔導師が誰だかわからない間は危険なことに変わりはない」
「もちろんです。それに危険なのはルーラス様のほうかと思います。あの時、罪を着せられそうになっておられたじゃないですか」
「それはそれだ。何もしていないんだから何とかなる」
「楽観的なのですね」
「考えすぎると心が壊れる。考えないといけない時とそうでない時を分けてるんだ。深く考えることは自分以外のことにしようと決めてる。もちろん、反省とかは別だぞ?」
ルーラス様は枕に頭をのせたあと、私に伸ばしていた手を引っ込めます。
すると、シーツを引っ張って、その中に潜り込まれました。
こうしていつも寝間着を脱いでおられる感じです。
朝になった段階で、ぱーんと服が破れるのかどうか気になるのですが、寝間着がもったいないですものね。
でも、ぱーんとなった場合、物語のお約束的に大事なところだけ隠れているのでしょうか?
なんて呑気なことを考えていますと、シーツから顔だけ出したルーラス様に話しかけられます。
「顔がニヤニヤしてるぞ」
「いつもこんな顔をしておりますよ?」
「いつもはニコニコだよ」
「悪い顔になっていましたか……」
ぺちりと自分の頬を叩いてから、話を戻します。
「とにかく魔導士を見つけないといけませんね」
「そうだな。ただ、その前にやらないといけないことがあるだろ?」
「……私がやるわけではありませんが、ジオラ夫人の葬儀ですね。参列は必ずしなければなりません」
ルーラス様が隣に寝転んでいる私の指をぎゅっと握ってくださいました。
手が小さいから、大人の時のように手を握るのは難しいみたいです。
自分たちのことも考えなければなりませんが、明日は朝早くから動こうと決めたため、ジオラ夫人のご冥福をお祈りしてから今日の夜は眠りについたのでした。
*****
次の日は朝から生憎の雨でした。
まるで、ジオラ夫人の悔し涙のようにも思えてしまいます。
早朝に両親のほうから、ジオラ夫人の葬儀に対しての連絡がありました。
本日の内に教会にてビューイングが行われ、明日に身内のみの葬儀をするとのことでした。
時間は指定されていませんでしたので、黒の礼服姿でルーラス様と葬儀場に向かい、棺の中のジオラ夫人にお別れの挨拶を済ませたあと、今日のところはこの場をあとにしようとした時でした。
「ルーラス殿下、本日は母のために足をお運びいただきありがとうございます。それからリルーリア、いや、リルーリア様と呼んだほうがいいのかな?」
悲しみの場には似合わない笑みを浮かべ、親しげに話しかけてきたのはバフュー様でした。
※ビューイングはアラーセリア国の中では、日本でいう通夜のようなものを昼にやるのだと思っていただければと思います。
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