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第17話 新たな謎
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城に戻るというレイド様に私が陛下への面会を求めているという伝言を伝えてもらうことにしました。
そして、昼過ぎに陛下の側近の方が私のもとへ来られたのですが、すでに私が話をしたい内容はレイド様が伝えてくださっており、返事をいただく形になりました。
「リルーリア様に何かあってはいけないということで、陛下が乗り出されることになりました」
「……偉そうなことを申し上げて申し訳ございませんと陛下にお伝えくださいませ」
私から言い出したことですが、その状況になってしまうと謝罪しか思いつきません。
「リルーリア様が謝られることではございません。陛下もエレオラ様への警察の対応は納得できないと仰っていますから」
陛下の側近の方は苦笑したあと尋ねてきます。
「ルーラス殿下はどうされておられますか?」
「取り調べが続いております」
ルーラス様は現在、城の敷地内にある王宮警察が管轄する建物内の一室にいらっしゃるそうです。
私とレイド様がお話している間に、この屋敷から移動されたとメイドから教えてもらいました。
「そうですか……」
側近の方は気落ちした表情を見せて俯かれました。
気になったことがあり、身長はそう高くはなく痩せすぎといっても過言ではない、陛下の側近の方に話しかけます。
「顔色が良くないように見えます。体調が悪いのですか?」
「……わかりません。なぜか、何もしていないのに魔力が奪われていくんです」
「魔力が奪われる……?」
そんな病気や魔法は聞いたことがありません。
とりあえず、ものは試しに無効化の魔法をかけてみることにします。
ルーラス様以外の男性にむやみに触れるわけにはいきませんので、少し難しくはなりますが、体には触れずに魔法をかけることにします。
となると集中力がいつも以上に必要です。
集中です!
ルーラス様の疑いがはれましたら、ステーキ祭りです!
ステーキ!
ステーキ!
ステーキ!
「……あれ?」
無効化の魔法をかけたと同時に、側近の方の丸まっていた背中がピンと伸びました。
無効化の魔法がきいたのでしょうか!?
「どうかされましたか?」
「あの、よくわからないのですが、何だか、いきなりとても体が楽になりました」
「状態異常の魔法を誰かにかけられておられたようですね」
「……もしかして、リルーリア様が魔法をといてくださったのですか!?」
「考えつく魔法の解除を試してみたのです。どの魔法が効いたのかはわかりませんが……」
無効化の魔法とは伝えられませんので苦笑して答えますと、側近の方は両手を組み合わせて感激されます。
「すごいです! リルーリア様はたくさんの魔法をお使いになられるのですね!」
「攻撃魔法は使えませんが……」
「たとえそうだとしてもすごいです! 攻撃魔法は多くの貴族が使えますが、状態異常系の魔法の解除ができる方は本当に少ないんです! 本当にありがとうございます!」
よほど体調が辛かったのでしょうか。
側近の方は嬉しそうに何度も何度もお礼を言ったあと、城に戻っていかれました。
元気になってくださって良かったです。
ただ、誰があの魔法をかけたのか気になりますが……。
でも、今はそれよりもルーラス様が気になります。
エレオラ様のことは陛下にお任せすることになりましたから、何とかしてくださると信じることにして、ルーラス様の帰りを待つことにしました。
*****
時間が経ち、夕方近くなると、だんだん不安な気持ちになってきました。
夜まで取り調べが続いてしまったら、ルーラス様は子供になってしまいます。
事情を知っている執事たちと相談し、迎えに行こうかという話になったところで、ルーラス様が帰ってこられました。
「ルーラス様、おかえりなさいませ」
「ただいま」
エントランスホールで出迎えますと、ルーラス様は疲れ切った表情で挨拶を返してくださいました。
「どうでしたか? 納得していただけましたか?」
「最初は俺の話を少しも聞いてくれてなかったけど、途中から態度が変わったんだ」
「……どういうことでしょうか?」
首を傾げて聞いてみますと、ルーラス様は眉根を寄せて聞いてきます。
「リル、もしかして誰かを助けたりしたか?」
「え? あ、はい」
ルーラス様は昼食もとられていないということでしたので、一緒に夕食をとるためにダイニングルームに向かうことにしました。
歩きながら、昼に陛下の側近の方に魔法をかけたという話をしますと、ルーラス様は眉間の皺を深くされました。
「それでか……」
「あの、いけませんでしたか?」
「突然、王宮警察のトップがやって来て、取り調べは終わりだと言い出したんだ」
「それは良かったですわね」
「良いのは良かったんだが、もしかすると、その側近が金を渡して俺を帰らせるようにしてくれたのかもしれない」
ルーラス様の話を聞いて思い出します。
「エレオラ様も卑怯な手を使われましたが、同じようなことをして助けてくださったのですね」
エレオラ様は権力があるために、長官を上手く扱われました。
陛下の側近の方――、たしかダオ様でしたでしょうか。
彼は侯爵家の令息な上に陛下の側近です。
そんな方に圧力をかけられたら、長官も動くしかなかったのでしょう。
これが公になれば、王宮警察の存在意義が問われますね……。
「子供にならなければ、いくらでも相手をしてやれたんだけどな」
「他の方に知られたら大変です」
「そうだな」
ダイニングルームに着いたところで、ルーラス様は立ち止まって大きく息を吐いたのでした。
*****
次の日の朝には国王陛下が動いてくださったのか、エレオラ様のほうで大きな動きがあったらしく、予定されていたルーラス様の取り調べはなくなりました。
ですので、ルーラス様と一緒に王太子殿下のもとへ向かうことにしました。
「ルーラス、モリナが悪いことをしたな」
私たちが体を気遣うと、王太子殿下は上半身だけ起こされてお礼を言ったあと、ルーラス様に謝られました。
王太子殿下は国王陛下似であり、お母様似であるルーラス様とはあまり似ておられません。
髪色と瞳の色はルーラス様と同じなのですが、ストレートの髪は長く腰の位置まであり、彫りの深い顔をされておられます。
「義姉上が俺を疑うのは仕方がないことだと思います」
「ただ、途中からは犯人がお前ではないことはわかっていたはずだ」
王太子殿下の言葉が気になりましたので、お話の途中ではありますが間に入って聞いてみます。
「どうして、ルーラス様ではないとわかっていたと思われるのですか?」
「ジオラ夫人が現れたからだ。普通、あんなタイミングで現れるほうがおかしいだろう」
「それはそうですが、あの時は魔法ではなく、毒を飲まされたと思っておられたのでは?」
「それもあるかもしれないが、ジオラ夫人の周りでは毒で亡くなっている人間が多い」
初耳でしたので、確認するようにルーラス様のほうを見ますと、ルーラス様は首を横に振ります。
「俺も知らなかった」
「ルーラスは知らなくてもしょうがないだろうな。お前はリルーリア以外の女性と深く関わったことがないだろう。これは私もモリナから聞いた話だ。モリナもセレシーから聞いたようだがな」
「……どういうことでしょうか?」
仰っておられる意味が分からずに聞き返しますと、王太子殿下は不思議そうにされます。
「貴族の婦人の間では有名な話のようなんだが、リルーリアは知らないのか?」
「私は病弱という設定でしたので、社交場には出ていないのです」
「設定?」
王太子殿下は困惑の表情を浮かべて聞き返してこられました。
私が訳ありの令嬢だということを王太子殿下は知らないみたいです。
ですが、今はこのことについてのんびり話をしている場合ではありません。
王太子殿下の体調も気になりますので、長居はできませんから。
「そのことについては、王太子殿下の体調が回復されましたら、ゆっくりお話させてくださいませ」
「わかった。とにかく、ルーラスもリルーリアも心配しなくていい」
王太子殿下は私たちを安心させるような優しい声でそう言ってくださったあと、表情を厳しいものに変えて続けます。
「ジオラ卿がジオラ夫人を告発した」
「ジオラ卿というのは……、バフュー様のことでしょうか」
ジオラ夫人はバフュー様にとってお祖母様でもありましたし、現在はお母様です。
正義感など持ち合わせていなさそうなバフュー様が恩人を告発するだなんて、一体、どういうことなのでしょう?
そして、昼過ぎに陛下の側近の方が私のもとへ来られたのですが、すでに私が話をしたい内容はレイド様が伝えてくださっており、返事をいただく形になりました。
「リルーリア様に何かあってはいけないということで、陛下が乗り出されることになりました」
「……偉そうなことを申し上げて申し訳ございませんと陛下にお伝えくださいませ」
私から言い出したことですが、その状況になってしまうと謝罪しか思いつきません。
「リルーリア様が謝られることではございません。陛下もエレオラ様への警察の対応は納得できないと仰っていますから」
陛下の側近の方は苦笑したあと尋ねてきます。
「ルーラス殿下はどうされておられますか?」
「取り調べが続いております」
ルーラス様は現在、城の敷地内にある王宮警察が管轄する建物内の一室にいらっしゃるそうです。
私とレイド様がお話している間に、この屋敷から移動されたとメイドから教えてもらいました。
「そうですか……」
側近の方は気落ちした表情を見せて俯かれました。
気になったことがあり、身長はそう高くはなく痩せすぎといっても過言ではない、陛下の側近の方に話しかけます。
「顔色が良くないように見えます。体調が悪いのですか?」
「……わかりません。なぜか、何もしていないのに魔力が奪われていくんです」
「魔力が奪われる……?」
そんな病気や魔法は聞いたことがありません。
とりあえず、ものは試しに無効化の魔法をかけてみることにします。
ルーラス様以外の男性にむやみに触れるわけにはいきませんので、少し難しくはなりますが、体には触れずに魔法をかけることにします。
となると集中力がいつも以上に必要です。
集中です!
ルーラス様の疑いがはれましたら、ステーキ祭りです!
ステーキ!
ステーキ!
ステーキ!
「……あれ?」
無効化の魔法をかけたと同時に、側近の方の丸まっていた背中がピンと伸びました。
無効化の魔法がきいたのでしょうか!?
「どうかされましたか?」
「あの、よくわからないのですが、何だか、いきなりとても体が楽になりました」
「状態異常の魔法を誰かにかけられておられたようですね」
「……もしかして、リルーリア様が魔法をといてくださったのですか!?」
「考えつく魔法の解除を試してみたのです。どの魔法が効いたのかはわかりませんが……」
無効化の魔法とは伝えられませんので苦笑して答えますと、側近の方は両手を組み合わせて感激されます。
「すごいです! リルーリア様はたくさんの魔法をお使いになられるのですね!」
「攻撃魔法は使えませんが……」
「たとえそうだとしてもすごいです! 攻撃魔法は多くの貴族が使えますが、状態異常系の魔法の解除ができる方は本当に少ないんです! 本当にありがとうございます!」
よほど体調が辛かったのでしょうか。
側近の方は嬉しそうに何度も何度もお礼を言ったあと、城に戻っていかれました。
元気になってくださって良かったです。
ただ、誰があの魔法をかけたのか気になりますが……。
でも、今はそれよりもルーラス様が気になります。
エレオラ様のことは陛下にお任せすることになりましたから、何とかしてくださると信じることにして、ルーラス様の帰りを待つことにしました。
*****
時間が経ち、夕方近くなると、だんだん不安な気持ちになってきました。
夜まで取り調べが続いてしまったら、ルーラス様は子供になってしまいます。
事情を知っている執事たちと相談し、迎えに行こうかという話になったところで、ルーラス様が帰ってこられました。
「ルーラス様、おかえりなさいませ」
「ただいま」
エントランスホールで出迎えますと、ルーラス様は疲れ切った表情で挨拶を返してくださいました。
「どうでしたか? 納得していただけましたか?」
「最初は俺の話を少しも聞いてくれてなかったけど、途中から態度が変わったんだ」
「……どういうことでしょうか?」
首を傾げて聞いてみますと、ルーラス様は眉根を寄せて聞いてきます。
「リル、もしかして誰かを助けたりしたか?」
「え? あ、はい」
ルーラス様は昼食もとられていないということでしたので、一緒に夕食をとるためにダイニングルームに向かうことにしました。
歩きながら、昼に陛下の側近の方に魔法をかけたという話をしますと、ルーラス様は眉間の皺を深くされました。
「それでか……」
「あの、いけませんでしたか?」
「突然、王宮警察のトップがやって来て、取り調べは終わりだと言い出したんだ」
「それは良かったですわね」
「良いのは良かったんだが、もしかすると、その側近が金を渡して俺を帰らせるようにしてくれたのかもしれない」
ルーラス様の話を聞いて思い出します。
「エレオラ様も卑怯な手を使われましたが、同じようなことをして助けてくださったのですね」
エレオラ様は権力があるために、長官を上手く扱われました。
陛下の側近の方――、たしかダオ様でしたでしょうか。
彼は侯爵家の令息な上に陛下の側近です。
そんな方に圧力をかけられたら、長官も動くしかなかったのでしょう。
これが公になれば、王宮警察の存在意義が問われますね……。
「子供にならなければ、いくらでも相手をしてやれたんだけどな」
「他の方に知られたら大変です」
「そうだな」
ダイニングルームに着いたところで、ルーラス様は立ち止まって大きく息を吐いたのでした。
*****
次の日の朝には国王陛下が動いてくださったのか、エレオラ様のほうで大きな動きがあったらしく、予定されていたルーラス様の取り調べはなくなりました。
ですので、ルーラス様と一緒に王太子殿下のもとへ向かうことにしました。
「ルーラス、モリナが悪いことをしたな」
私たちが体を気遣うと、王太子殿下は上半身だけ起こされてお礼を言ったあと、ルーラス様に謝られました。
王太子殿下は国王陛下似であり、お母様似であるルーラス様とはあまり似ておられません。
髪色と瞳の色はルーラス様と同じなのですが、ストレートの髪は長く腰の位置まであり、彫りの深い顔をされておられます。
「義姉上が俺を疑うのは仕方がないことだと思います」
「ただ、途中からは犯人がお前ではないことはわかっていたはずだ」
王太子殿下の言葉が気になりましたので、お話の途中ではありますが間に入って聞いてみます。
「どうして、ルーラス様ではないとわかっていたと思われるのですか?」
「ジオラ夫人が現れたからだ。普通、あんなタイミングで現れるほうがおかしいだろう」
「それはそうですが、あの時は魔法ではなく、毒を飲まされたと思っておられたのでは?」
「それもあるかもしれないが、ジオラ夫人の周りでは毒で亡くなっている人間が多い」
初耳でしたので、確認するようにルーラス様のほうを見ますと、ルーラス様は首を横に振ります。
「俺も知らなかった」
「ルーラスは知らなくてもしょうがないだろうな。お前はリルーリア以外の女性と深く関わったことがないだろう。これは私もモリナから聞いた話だ。モリナもセレシーから聞いたようだがな」
「……どういうことでしょうか?」
仰っておられる意味が分からずに聞き返しますと、王太子殿下は不思議そうにされます。
「貴族の婦人の間では有名な話のようなんだが、リルーリアは知らないのか?」
「私は病弱という設定でしたので、社交場には出ていないのです」
「設定?」
王太子殿下は困惑の表情を浮かべて聞き返してこられました。
私が訳ありの令嬢だということを王太子殿下は知らないみたいです。
ですが、今はこのことについてのんびり話をしている場合ではありません。
王太子殿下の体調も気になりますので、長居はできませんから。
「そのことについては、王太子殿下の体調が回復されましたら、ゆっくりお話させてくださいませ」
「わかった。とにかく、ルーラスもリルーリアも心配しなくていい」
王太子殿下は私たちを安心させるような優しい声でそう言ってくださったあと、表情を厳しいものに変えて続けます。
「ジオラ卿がジオラ夫人を告発した」
「ジオラ卿というのは……、バフュー様のことでしょうか」
ジオラ夫人はバフュー様にとってお祖母様でもありましたし、現在はお母様です。
正義感など持ち合わせていなさそうなバフュー様が恩人を告発するだなんて、一体、どういうことなのでしょう?
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